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33話 理不尽なラムド

 33話 理不尽なラムド




 かつて『北大陸の覇権を握った大国』よりも、『たった一人の召喚士』の方が恐ろしいという、この狂気。




 荒れる。
 乱れる。


 未来を想像して苦い顔をしたセアとミルスの代表。
 平和主義者(という名の日和見主義・コバンザメ&ハイエナ体質)の二人は、
 奇しくも、同じタイミングで、フーマーの使徒に視線を送った。


 どの時代のどの国の代表も、本当に困った時には、
 いつだって、フーマーに対して、この『すがるような視線』を送る。


 だが、フーマーの返事はいつも同じ。
 『我々は介入しない』


 セアとミルスの心情を察したラムドは、悪い顔で、


「……言っておくが、俺はフーマーとは友好的に事を進める構えでいる。フーマーの調停には期待できないぞ」


 ニタっと黒く笑いながらそう言って、ケイレーンに視線を送り、


「なんなら、お前らの前で、正式にフーマーと同盟を結ぼうか? ケイレーン殿、我が魔王国は、聖霊国フーマーと、永遠の同盟を結びたい。我が魔王国は、フーマーと、最後の最後まで友好的で在り続けると、この場で正式に誓おう」


「あらためて誓う必要など無い。聖霊国フーマーは、最初から、全ての国家と同盟関係を結んでいるのだから」


「……ぁあ、そう……」


 この期に及んで『相変わらず』であるフーマーに対し、
 ラムドは、『いささか以上の、ナニか言いたげな顔』をしてみせたが、
 すぐに、ソレを飲み込んで、


「まあ、いいけど」


 そう言ってから、各国の首脳陣を睨みつける。


「さ~て、ある程度、未来を見据えた『大人の話し合い』も終わった事だし……ここらで、少しだけ私的な怒りをぶちまけようか……」


 ここまででも大概に見えたが、どうやら、あれでもラムド的には、自分の感情をかなり抑えていたらしく、強めに、スゥと息をすってから、


「こっちが黙って聞いていたら、トコトンいい気になって、散々ナメた事を言ってくれたな、このカスどもが」




 そんなラムドの怒りに対し、セファイルのサーナが、我先にと、


「謝罪します。我がセファイルは、ラムド殿に対し、二度と――」


「誰か喋っていいって言ったか? 今は建設的な話し合いをする時間じゃねぇ。口を開かず、俺の私怨をバカみたいに黙って聞いてろ、カス女」


 ラムドの睨みを受けて、グっと、反射的に息をのんで押し黙るサーナ。


 ラムドは、冷徹な口調でたんたんと、


「勘違いするなよ、セファイルのクソども。もし、『最善手は打った。なんとか危機を乗り越えた』なんて安心しているなら、全力で認識を改めろ。俺はまだ、お前らと同盟を結ぶとは言ってねぇぞ」


「……」


「俺は、さっき、『さすが、あのバカ勇者の姉、手の平をかえすのがおはやいですね』と、その『みっともなさを隠そうともしない態度』を揶揄っただけだ。もし、『しょせんはアホなモンスター相手だから、ちょっと謝ってみせただけで、たやすく丸めこめた』などと勘違いしているのなら、その報いも必ず受けてもらう。切り刻まれたくなかったら、今後の身の振り方を、もっと真剣に考えろ、このクソバカ女が。俺の怒りをナメるなよ」


「……」


「最初からてめぇらが、普通に、『ウチのバカ勇者が勝手をして申し訳ありませんでした』と頭をさげればそれですむ問題だった。それをテメェは、ゴチャゴチャと、くだらねぇギャグをかまして、俺を心底から不快にさせた。その罪が、ごめんなさいの一つで許されるわけねぇだろ。てめぇの国には相当以上の補償を要求する。覚悟しておけ」


「……」


「ただ、まあ、お前らの国は、ウチにとって、『どうしても必要』という訳じゃないものの、『あって便利』なのも確か。というわけで、多少の便宜ははかってやる。対等な条件ではないが、一応、同盟も結んでやる」


「……」


「感謝はどうした? 潰されたいのか?」


「だ、黙って聞いていろと――」


「黙っていろと言われたら死ぬまで黙ってんのか? 状況ぐらい読んだらどうだ? それとも、また『俺が悪い』と難癖つけてくるか? どうしてもってんなら、それでも別に構わないが、相応の覚悟はきめろよ」




 フーマーに対しては『従者然とした、丁寧な毒』を、
 他の国家に対しては『独裁者感が強い、刺すような猛毒』を。


 巨悪の種が萌芽する。
 ゴート・ラムド・セノワールが、
 純粋無垢なラスボス――文字通りの魔王へと仕上がっていく。





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