センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)

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55話 トロけるアダム

 55話




 シューリのもとから帰ってきたセンに対し、


「おかえりなさいませ」


 アダムは、ハッキリとした声でそう言った。


 ここが、この場所こそが、
 『自分の隣』だけが、センの帰ってくる場所だと強調するような迎えの言葉。
 日常における注意力が決定的に足りていないセンは、
 当然、『アダムの想い』に気付かない。
 ゆえに、


「ああ」


 と簡素に答える。
 0点の解答。
 どれだけの高みに至っても、コミュニケーションの満点は取れそうにない至高のボッチ童貞。
 それがセンエース。


 ――そんな童貞に、アダムは、


「シューリと、どんな会話をしてきたのですか?」


 言いながら、センに近づく。
 すると、センの体からシューリの香りがした。


 柑橘系の柔らかい薫り。


 胸がザワついた。


(これほど香りが残るほど……)


 近づいたのだろう。
 もしかしたら、抱き合ったのかもしれない。


 想像するだけで、頭部の至る個所が熱くなった。


「まあ、ちょっとな」


 スルーされて、眼球に血が走った。
 血管が爆裂しそうになっている。


 ワナワナと震える。


 そんなアダムに、センが、


「で、アダム、シューリはどうだった?」


 無遠慮が過ぎるノンキさで、


「あんな簡素なメッセージでは何も伝わらない。ちゃんと、お前の言葉で、あいつと闘ってみてどうだったかを伝えてもらいたい。さあ、教えてくれ」


「ぇ、あ……はい」


 アダムは、急いで、意識をセンとの会話に戻し、


「つ、強かったです。とても」


 言いながらも、頭の中では、センとシューリが何をしていたのかを考えていた。


「とても、とても強く……ほんとうに、とても……今のままでは、どうあがいても、殺せそうにないほど……」


 つい、そんな事をくちばしってしまう。


 それを受けて、センは、


「いや、殺さんでいいんだよ。本当に、なんで、お前の頭は、そう常に危なっかしいんだ?」


「し、失礼し……ごほん……言葉のアヤです、どうか、お忘れください」


「どんなアヤ?!」


 言いながら、センは、


「で、どうだ? 今はともかく、将来的には……頑張ったら勝てそうか?」


「勝てます。勝ちます。必ず、なんとしても」


「その意気だ」


 そこで、センは、ニっとイタズラに笑い、


「一つ聞いておこうか。前にも言ったが、あいつの戦闘力は、俺に匹敵する。つまり、あいつを超えるという事は、この俺にも限りなく近づくという事になる訳だ――で……それを踏まえて答えろ。どうだ? 俺もこえられそうか?」


「不可能です。主上様を超える事は誰にもできません」


「おベッカはいらない。ちゃんと答えろ。あいつに勝てるってことは、やはり、どうしても、そういう事に――」


「いえ、違います」


 ハッキリとした否定。
 絶対にゆずれないという気概がうかがえる声音。


「シューリと闘ってみて思いました。彼女は強い。とてつもなく強い。しかし、距離を感じました。遠いけれど、確かに『見える距離』を。しかし、主上様は見えません。『どこか遠い場所』としか思えない……それが、はたして、雲の上なのか、海の底なのか、それすら分からないどこか、『強さの質』すら掴めぬ果て、としか思えなかったのです」


「はは……まあ、俺は、シューリを助ける時に、だいぶ無茶をしたからな。ちょっと質が違うんだよなぁ」


 遠くを見ながら、ボソっとそう言ってから、


「90点と100点。俺は、前に、自分とシューリの差をそう表現したが、どうやら、その差の大きさが、お前にも、少し見えてきたみたいだな。それだけでも大分違うぞ。お前は確実に近づいてきている。誇っていい」


「ありがとうございます」


 言いながら、アダムの感情は、グラグラと揺れていた。


(……あの女のために無茶を……あの女を守るために得た力が……その、輝く『武の極み』……)


 理解すると同時、心に、『痛みを伴う電流』が走った。
 全身が『ズンと重くなる苦しい鈍痛』で包み込まれた。


(憎い……あの女が憎い……)


 激烈に膨れ上がっていく憎悪。


(もう理解できている……主上様は、あの女を愛している……)


 アダムはバカじゃない。
 難聴系の鈍感女でもない。


 激しい恋をしている一人の女。


 だから理解できる。
 したくないけれど、出来てしまう。


(くぅ……ぬぅうう……ゆ、許せ……ない……)


 奥歯が砕けるほどの憎しみ。
 心が壊れてしまいそうな情動。


(殺す……殺す……殺す)


 限界なく、情動が湧き上がり続け、


(強くならなければ……はやく、あの女を殺さなければ、自分が何をするかわからない……はやく、強くならなければ! どうにかして、殺さなければっ!!)


 と、ブルブル体を震わせる。
 尋常じゃなく気負っているアダムに、










「おちつけ、アダム」










 言いながら、アダムを自分の胸に抱き寄せるセン。
 フワっと、その無上なるたくましさと優しさで包み込む。
 そして、センは、アダムの頭をソっとなでた。


「ぁ、ぁあ……」


 心そのものを、撫でられているような気がした。
 アダムの心が驚くほど満たされている。
 触れあっているだけで、ただ、満たされていく――


「お前は強い。そして、強くなれる。だから、焦るな」


「主上様……」


「一つ、約束をしようか」


「やく……そく?」


「俺はお前の前から消えない。永遠にお前の想いが届く場所にいる。永久に、お前の目標として、道標として、咲き誇る桜華として、無限の閃光として、お前の目の前で輝き続けると誓おう。だから、焦るな。みっともなくアタフタするな。俺の女なら、常に、凛としていろ。どんな時でも、『楽勝だ』と笑ってみせろ。難しいか? 当然だ。今のところ、それが出来るのはあの女だけ。しかし、お前は、俺に、『あの女を超えられるかもしれない』と想わせた女。それは、他の誰にも出来ないこと」




 異常なほど高い理想。
 しかし、センが望むのはそういう女。
 果てなき領域に至った女神をも超えた究極の美少女。




「アダム。命令だ。今後、常に、自分が誰の隣にいるのか、誰に選ばれているのかを想いながら生きろ」


 センは、アダムの額に、己の額をコツンとあてて、


「停滞は許さない。だが、焦る必要はない。俺はここにいる」










「……なんと……なんと、もったいない……」










 暴力的な恍惚の中で、トロトロにとろけながら、アダムはそうつぶやいた。











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