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62話 まさか、あのバカが……

 62話 






「「「「「「なんだとっっ?!」」」」」」




 第一王女の言葉で、宮殿が揺れた。
 事実、揺れた。
 どいつもこいつも、肺活量がハンパじゃない。




「まさか、魔王に殺されたのか? あのバカが? そ、そんな、まさか……」


 勇者は、まぎれもなく、レッキとした第一王子なのだが、
 ここにいる全員、勇者のことを、めったに名前では呼ばない。


 父である王に、『それを不快に思っていないのか』と問えば、
 『私の前では、なるべく、あのクソバカの話をするな』と怒鳴られる。






「ありえないだろう。魔王リーンなど、所詮は、剣しか取り得のない高位魔人。『人格以外は完璧』なあのバカに勝てる訳がない」


「ああ、あのバカの力は、間違いなく世界最強。世界大戦の時――まだ十二歳だったというのに、やつの実力は、すでに魔王と肉薄していた。というのに、その後も、アホみたいに訓練を続け、いまや、魔王軍全てを敵に回しても、一人で楽に勝ててしまうほどの力を得た変態。アレに勝てるモノなどいる訳がない。そんなもの、いてはいけないのだ」






 ――そこで、第一王女が言う。






「ウチのクソバカが世界最強なのは事実。けれど、反応が消えたのも事実。わたしの心臓は、望む・望まないに関わらず、あのゲロクズを感知してしまう。……あのカスは……間違いなく死んだわ」




「……偶然でもアレを殺せる可能性があるとすれば……やはり、ラムドだろうな……」


「しかあるまい。世界大戦の時から、ラムドの異質ぶりは飛びぬけていたが……」


「どうやら、この五年で成長したのは、ウチのクソバカだけではなかったようね」


「正直、あのお花畑魔王はどうでもいい。魔人など、人間と変わらん。だが、ラムドは別だ。やつはリッチ。いつ、『邪悪なる波動』に目覚めるか……」




 『邪悪なる波動』を簡単に説明すれば、『差別』。


 種族が違う。恐い。いつか、暴れ出すんじゃないのか?
 その疑心暗鬼を、悪意たっぷりで言語化したのが、『邪悪なる波動』。




「相討ちならば、何も問題はないのだが……生きているとすれば……」
「ラムドが、あのバカを超える強さを持つという事に……」
「いやいや、そう短絡的な解答にはならないだろう。ラムドは、魔物だけではなく、『異界の魔道具』をも召喚できる。その中に、破格の性能を持つモノがいくつかあるのは、みな、世界大戦の際に目の当たりにして理解できているだろう」


「超希少で凶悪な魔道具を惜しみなく投入して、どうにかバカを殺しきった……ならば、確かに、当面は大問題というレベルではないかもしれない。しかし」








「それだけの『戦力』を召喚できるという能力は……充分に大問題だ」



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