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39話 アニキの教え

  39話




 勇者にとっては、どっちでもいいのだ。
 別に、このカス二匹が、あのクソガキを殺すパターンじゃなくてもいい。


 悪意さえ向けてくれれば、手を出す事ができる。
 つまり、ボコボコにしてやれる。


 このまま、アホなカスらしく無謀にも絡んできやがったら、
 即座に顔面の形を変えてやって、プチっと腕をむしりとり、
 その後、膝を、逆関節スタイルへとカッコよくカスタマイズしてやる。


 それから、ゆっくりと、クソガキを殺すように説得すればいい。
 極めて簡単な話だ。




(さあ、どっちでくる? 好きに決めな。そのぐらいの選択肢はくれてやる)








 と、のんびり構えていた勇者だったが、










「放っておけ」








(……ぇえ?)


 勇者は、あまりの驚愕に、つい、『アニキ』の顔を二度見してしまう。




 『アニキ』は、滔々と、




「魔人はやっかいだ。まず、単純に強い。大概、魔力が尋常じゃない。あと、敵に回せば魔王国が動く可能性がある。……それに、わざわざ安全な魔王国から出て、こんなスラムにいるってことは、もしかしたら、こいつは、魔王国の犯罪者かもしれない」


「え、それなら問題はないんじゃないですか? 犯罪者なら、何をしても許されるでしょう? それは魔王国でも変わらないんじゃ?」


「犯罪者なら、それは、それでヤベェ。色々と『覚悟』が出来ているって事だ」


「覚悟……ですか。すんません、アニキ。ちょっと、よく分からないです」


「別に分からなくていいさ。大事な事はその一手前にある。いいか、ゲイド、悪意は両刃の剣だ。どんな時でも、使い方には気をつけろ。敵は必ず、選んで作れ」


「き、きたぁ、アニキの教え。あいかわらず凄過ぎて、勃っちまうよぉ」




「ちっ……おい、カス共。グダグダ喋ってんじゃねぇ。さっさと、そのガキを処理しろ。ガキは甚振っても面白くねぇから、出来るだけ、サクっと――」






「バカか、殺す訳ないだろう」


「ぁん?」


「こいつには、金貨230枚分の借金がある」


 ――硬貨の目安。


 神金貨。1000000円
 白金貨。100000円。
 金貨。10000円
 銀貨。1000円。
 銀貨。100円


 平均的な月の給料金貨9枚。


「金を貸したのは事実。ウチの金利は国の言いつけを順守している。返し切れなかったこいつの親が悪い。不運も悪だ。受け入れるしかねぇ。というわけで、こいつには、壊れた姉貴の分も働いて貰わないといけない。そうじゃなきゃ、こっちが丸損するだけ。ゆるせないだろ、それは」












(んなこたぁ、どうでもいいんだが……これ……ちょっと……ぉい、おい……なんか、雲行きが……)




「まだ10歳……稀にみる器量の良さだから、もう少し待って、相応の値段で売ろうと思っていたが、どうやら、アホの姉貴と違って、多少は頭が回るみたいでなぁ」


 そこで、アニキは、セイラを睨みつけ、


「この俺を出し抜いて逃げようとした。そこまではいい。珍しい事じゃねぇ。生物として当然の行動さ。しかし、こいつは、それを成功させやがった。……大問題だ。逸脱していやがる。あと二・三年ほど知恵をつければ、今度こそ、本当に逃げ切ってみせるかもしれない。それはダメだ」


 『俺を出しぬくとは、やるじゃないか』


「そこまでがギリ。それ以上を許すのは、『取り返しのつかない失敗』に分類される。……俺には、メンツってのがあるんでね」




 『まんまとガキに逃げ切られた』


 流石に、それは、許容できない。




「笑われたら終わり。俺は、そういう世界にいる。だから、少しでも可能性があるのなら、摘んでおく。心を砕く。足の腱を切る。仕事に慣れさせ、薬に漬ける。立派な姫のできあがり。流石に十歳じゃあ、まともな路線だと高くは売れないが、裏のルートも、もちろん抑えてある。売れるさ。いや、売る。売ってみせる。それが、俺。火龍会のサーバンだ」




「自己紹介はいらねぇ。あと、二度言わすな、グダグダ、うるせぇんだよ、お前。……さっさと、そのガキを殺せ。そうでなけりゃ……」




「ん? なんだ? 手を出すのか? それは、つまり、火龍会を敵に回すという事だぞ?」




「知るか、ボケ。たかがヤクザが、誰に、どんだけナメた口きいてんだ」




「くく……恐い、恐い。その目、その啖呵、犯罪者なんてチンケなモンじゃねぇ。おそらくだが、お前、魔王国のスジ者だな? 噂の能天気魔王がつくった国のヤクザ。ははは……国の方針に従い、『任侠』を大事にしていますってか? 流行らないんだよ、いまどき」


「その、下らねぇ勘違いを今すぐやめろ。俺に殺されるか、そのガキを殺すか。二つに一つだ。さっさと選べ」




「答えは一つ。お前をシカトする。以上だ」







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