焼ける世界の中で

夜乃 月影

雫が瞼に堕ちるとき

体が焼ける。五感はほぼ失い、聴こえるのは炎と物の崩れる音だけ。その時聴こえる。
あの言葉が。まるで呪いのように繰り返す。
死んでも繰り返されるのではないか。

「お……にぃ…ん………て…!」
この声が頭から離れない。


「お兄ちゃん!起きて!」
ペチッっと柔らかい手で軽く叩かれ、意識が覚醒する。
「ん…」
瞼を擦りながら体を起こす。目の前には黒いツインテール。
「いつまで寝ぼけてるのお兄ちゃん!今日入学式初日だよ?もう朝ご飯出来てるからね!」妹の雫だ。容姿端麗でクリっとした目と色白な肌が目立ち、幼い顔立ちだが華奢な体だ。
頬を膨らませながらドスドスと階段を降りていく姿を見ながら、
「あぁ…」
と曖昧な返事を返す。目が覚めてきてようやく妹に起こされ、今日は高校の入学式だと分かると、危機感が湧いてくる。
今は何時だろう。ドタドタと階段を降りると香ばしいいい匂いが鼻孔をくすぐる。
食卓には父が新聞を読みながらスープを飲んでいる。母も既に席に着いていた。
父と母に
「おはよう」
と挨拶すると、二人からおはようと返ってくる。自分も父と母に向かい合うように座り、
しばらくするとエプロンをたたみながら雫とも朝の挨拶を交わし、皆で手を合わせ
食べ始める。こんがり焼かれた食パンと、目玉焼き、ベーコン。それにコーンスープが添えられている。コーンスープは雫の手作りらしく、コーンがたくさん入っていて食感が、とても楽しい。
食べ終わり、食器を片付けた後、制服に着替える。そろそろ家を家を出ないと遅刻だ。
行ってくると伝え、靴を履く。ドアに手をかけた時、耳をつんざく音…否、衝撃と熱気が体を包む。思わず体が崩れ落ち、振り向く。
辺りは炎しかなかった。なんらかによって火事が起きたなんて冷静に考える暇もない。
防災訓練の時口を覆い、姿勢を低くするなんて思考が追い付かない。体が暑いを通り越して感覚が無い。ふわふわ浮いているようだ。
呼吸をしても酸素は入ってこず、口を侵し、
灼熱が堕ちる。ドアにもたれ掛かる。もう視界は焼け、何も見えない。
耳にを通るのはゴウゴウと燃え盛る炎と建物が崩れ落ちる音だけ。その時、声が聴こえた。か弱い声が。

「お…にぃ…ん……て…!」

また助けられなかった


コメント

  • 夢見 りあむ

    いいけどロリコン

    0
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