【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

激戦! 海ほたる(4)第三者視点




 ――時刻は少し遡り午後21時30分。



 レンタカーを、業者に返した佐々木がJR本千葉駅から、JR蘇我駅まで各駅で移動したあと、内房線に乗り換えドナドナされること30分ほど。
 ようやく彼女は――、佐々木は海ほたるにもっとも近いJR内房線の駅である袖ケ浦駅に到着していた。

「やっと着いたね」

 電車に揺られながらの移動ということもあり、佐々木は少しばかりお疲れな表情で改札口通り駅から出る。
 すると、彼女の髪の中に隠れていた狂乱の神霊樹が、姿を現し彼女の肩の上に腰掛け周囲を見渡すと――。

「マスターよ。何もないところじゃのう」
「そういうこと言わないの。田舎には田舎なりの良いところがあるんだから」

 フォローになっていないフォローを入れながら彼女も袖ケ浦西口を見渡すと予想外だったのか。

「タクシーもないね……」

 そんな佐々木の言葉に、使い魔と化している【狂乱の神霊樹】は――。

「走った方が早かったじゃろうに、どうしてあのような乗り物を使ったのじゃ?」
「だって、暗くなってきたと言っても見られる可能性があるからね」
「うむ……」
「それに、また問題を起こしたら先輩にさらに嫌われるかも知れないし……」

 彼女の言葉に、狂乱の神霊樹は「やれやれ」と言いながら回りを見渡す。

「じゃが、どうするつもりじゃ? ここからは乗り物と言うものはないようじゃぞ?」
「仕方ないから、魔法で体を強化した上で向かうよ。ここなら、人目もほとんどないし……」

 佐々木は、そう呟くと同時に身体強化魔法を発動させる。
 それと同時に彼女の体が強大な魔法により強化され――。

「いくから! 捕まっていてね!」

 言い終えると同時に海の方へ向けて走り始める。
 5分ほどで海岸線が見えてくると同時に、今度は一目につかないよう海岸線を走り続け――。
 すぐに東京湾アクアラインが視界に移りこむ。
 それと同時に彼女は、腕時計で時刻を確認。

「21時59分――、これは……、22時の牛丼フェアには間に合わないかも……」
「マスター、止まるのじゃ!」
「どうしたの?」

 狂乱の神霊樹の緊迫した言葉に彼女は思わず足を止める。
 すると目の前の東京湾アクアラインの橋を支えている柱が、次々と爆発していく。

「――え? どういうことなの? なんで!?」

 佐々木が見てる前で、長さ1キロメートルに渡って東京湾アクアラインの橋が米海軍の手により爆破された。

「マスター、これは……」
「何?」
「戦いの予感がするのじゃ――」
「戦い? 日本で? でも、こんなのって……」
「たしかマスターは言っておったな? 【海ほたる】と言う場所は、海上に作られた場所じゃと」
「――う、うん……」

 戸惑いを色を含んだ佐々木の言葉に狂乱の神霊樹は口元に枝で作った手を当てると一瞬考え――。

「どうやら、この橋を落とした連中は【海ほたる】とやらを孤立させるつもりのようじゃな」
「孤立って……、そんなの法治国家の日本でしたら――」
「あくまでも推測じゃ。じゃが……、強ち間違っているとは思えないのじゃ――、……マスターよ」
「何?」
「その【海ほたる】という場所――。ダンジョンがあるようなのじゃが……、踏破状態はどうなっておるのじゃ?」
「――え? 【海ほたる】にダンジョンがあるなんて聞いたことないよ? 講習でもやってなかったよ」
「なるほど……」
「ちょっと! 何が、なるほどなの!?」
「――いや、これは我の予測なのじゃが……、この橋を落とした連中は、日本国政府とやらが公開していない【海ほたる】のダンジョンを使って何かをしようとしておるんじゃないか? 時間稼ぎのために橋を落とした可能性が考えられるのじゃ」
「そんなの考えすぎだよ」
「とにかくじゃ! このまま陸と孤立するのは不味いのじゃ! すぐに土魔法で簡易な橋を作るのじゃ!」
「――え? でも!? 【海ほたる】が狙われているのなら私が行かないと――」
「それは問題ない。奴がおるからのう」
「どういうことなの?」
「よいから早く橋を架けるのじゃ! 時間がないのじゃ!」





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