【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
激戦! 海ほたる(3)
「俺、まだ何もいっていないんだが……」
「どうせ、牛丼フェアに出される牛丼が食べたいという理由で、江原か藤堂を一時的に貸してくれってことだろ? そんなことを俺が許すわけがないだろ」
まぁ、貴様は普通の牛丼でも食べてればいい。
「山岸さんっ、やっぱり私のこと……」
「山岸さん……」
藤堂と、江原の呟きが横から聞こえてくるが、いまは否定するのもあれだからな。
「お嬢ちゃん達、勘違いしているところ悪いが山岸の奴はお嬢ちゃん達の事を何とも思っていないと思うぞ?」
「江原さん! この田中って人は自分がモテないからって山岸さんの事を悪く言っています」
「本当にひどいです! 山岸さんが私達のことを何ともおもっていない! みたいな言い方をするなんて友達失格です!」
何か知らんが、周りからの視線が痛いから言い合いをするのはやめてほしい。
もう少し節度ある行動をしてほしいものだ。
「へい! 牛丼特盛10杯お待たせ!」
「あ――、すいません」
カウンター席の目の前に置かれた牛丼に七味と紅生姜を適量乗せてから口をつける。
まぁ3人が言い合いをしてても俺には関係ないからな。
他人のふりでもしておくとするか。
――もぐもぐ。
「いや、江原さんと藤堂さんと言ったか? こいつは高校時代からの知り合いだが、一番が牛丼! 2番がパソコン! とか言ってたやつだぞ? あまり無条件でコイツを信じるとあとでショックを受けることになるぞ?」
「山岸さんが、そんなことを考えているわけないじゃないですか!」と江原が反発。
――もぐもぐ。
「そうです! 山岸さんは私を可愛い! 結婚してほしい! と言ってくれました!」と藤堂。
俺は、そんなことを一言も言った覚えはない。
お茶を飲みながら3人を会話を引き続き聞くことにする。
「それに山岸さんに好意を抱いているのはもう一人いますし! リア充実ですから!」
江原の言葉に「なん……だと……!? 山岸、どういうことだ!?」と、田中が俺の方へ視線を向けてくる。
まったく――、俺に振ってくるな。
牛丼フェアどころかハッピーニューイヤーで集まってきている一般人も俺達のやり取りに興味があるのか見てきているんだから。
とりあえず無視しておくとしよう。
――もぐもぐ
「自分がモテないからって人の悪口を言うなんて最低です」
江原、お前も人のことは言えないからな。
まったく、自分のことを棚に上げる奴ばかりいて困ったものだ。
「――いや、待て! 俺は、お嬢ちゃん達のことを思ってだな」
「つまり山岸さんは、私達より牛丼が大事ということですか? そんな変な人間がいる訳ないです! 出まかせもそこまでいくと嘘だというのがすぐに分かります!」
「いや本当のことなんだが……」
さすがは、田中。
俺の高校の頃からの同級生だけはある。
まあ、こいつは昔から世話好きだったが、いつも全てが裏目に出ていたからな。
正しいことを言うだけじゃ世の中は回らないといういい例だ。
「江原と藤堂もそこまでにしておけ。田中は、根は悪い奴じゃないが間が悪いだけの不幸に好かれた負け犬なだけなんだ」
「お前は、フォローしたいのか貶したいのかどっちなんだ!」
「一応、フォローしてやっただろ」
仕方ないな。
「田中、俺が牛丼フェアの丼を多めに注文してやるから」
「マジか!?」
「ああ、多めに注文して俺が全部食べたら、きちんと食レポを聞かせてやる」
「食わせてくれないのかよ」
何故、仇敵に食べさせないといけないのか小一時間聞きたいところだ。
「まぁ、そろそろ時間だな」
牛丼特盛を合計12杯食べ終わったところで、13杯目の牛丼を食べようと丼に手を差し伸べる。
――ドン!
突然の振動と共に【海ほたる】の建物全体が揺れる。
それと同時に、あちこちから悲鳴が上がり13杯目の牛丼が――、中身が入ったまま床の上に落ちた。
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