【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

幕間7 佐々木望と狂乱の神霊樹




 ――同日、12月31日 午前3時。
 


 アメリカ海軍の原子力潜水艦が、海ほたるに近づいていた頃。
 攻略された貝塚ダンジョンをどう扱うのかという議論が、首相官邸大会議室で行われていた。

 そして、大会議室から離れた場所に用意されていた部屋の一室に佐々木(ささき)望(のぞみ)は、半ば軟禁される状態で閉じ込められていた。

 高級な長椅子の上に横になりながら、佐々木はスマートフォンを操作している。
 そこには、山岸直人の連絡先番号が表示されており――。

「マスターよ。まだ、連絡をいれんのか?」
「うん……」

 溜息交じりに、疲れた表情のまま椅子に座りなおした佐々木は手に持っていたスマートフォンを操作する。
 そして少し前に山岸から届いた電話番号メッセージを確認する。



 件名 

 佐々木へ。

 本文
 
 ダンジョン攻略、陸上自衛隊の幕僚長就任で忙しいと思う
 年末12月31日の牛丼フェアについては来なくて大丈夫だから、仕事頑張ってくれ



「はぁー」
「さっきから溜息ばかりじゃな」
「だってー、せっかく先輩とデートに行くことになったのに! それに年末のデートと言う事は年越しイベントでお泊りイベントも発生して、さらに男女の仲になるかもしれない大イベントだよ!」
「大イベントという西洋の言葉は知らんが……、我はマスターの願いを叶えるために契約をして、ここに居るのじゃ」

 佐々木の溜息交じりの言葉に答えたのは、人外の存在。
 皮膚は緑色。
 姿はエルフのように造形の整い。
 20センチほどの人形とも思える頭に赤い花を生やした者。
 
 佐々木が契約を交わした狂乱の神霊樹。
 彼女は、テーブルの上に用意されているミネラルウォーター2リットルを一飲みすると、テーブルの上に腰を下ろす。

「ねえ――」
「なんじゃ?」
「この電話番号に付属された文章っておかしくない?」
「別にマスターの仕事のことを思って言ったのじゃろう? ならおかしな点は何もないと思うのじゃが……」
「うん……、でも――」
「何か、気になることがあるのか?」
「うん、私って先輩の彼女よね?」
「…………うーむ」
「何かあるの?」
「マスターは、本当にアレが伴侶でいいと思っておるのか?」
「うん」
「…………なら、電話をして真偽を確かめるのが良いのではないのか?」
「でも、朝方の3時過ぎているよ?」
「本当に彼女と思われているのなら、3時過ぎに電話をしても大丈夫なのじゃ」
「そうかな……、常識ないとか嫌われない?」
「マスターの彼氏が、マスターを本当に大事に思っているなら大丈夫なはずなのじゃ!」
「う、うん! それじゃ電話してみる!」

 佐々木の指先が、スマートフォンを操作していく。
 そして電話番号を入力し――、最後に発信ボタンを押そうとしたところで彼女の指が停まる。

「やっぱり無理!」
「まったく、我がマスターは奥手じゃな」
「だって仕方ないじゃない……。変なことして嫌われたりしたくないし……」
「それなら、魔法で調べてみたらどうじゃ? まだ選んでいないのじゃろ?」
「う、うん……。でも、勝手に魔法を選んで国の偉い人に怒られないかな?」
「マスターよ。魔法というのは、その人間が持つ資質に深く関係してくるのじゃ。じゃから、自らの望みを捨ててまで他人の選択で魔法を選んでも何も良い事は無いのじゃ! マスターは何を望んでいるのじゃ?」

 狂乱の神霊樹が、13本目の2リットルの水を飲み切ったところで佐々木の方へと視線を向ける。
 ジッと、見つめられた佐々木は佇まいを正すと――。

「私は、先輩のことを全部知りたいです!」
「うむ! 儂も同感じゃー―」

 狂乱の神霊樹の言葉に、佐々木は頷く。
 彼女の指は、空中を滑るように動き――、山岸とは異なる視界内に表示されている魔法というアイコンを押す。

 すると魔法欄の一覧が表示される。

「いまのマスターのマナポイントは86ポイントじゃな」

 佐々木の視界が狂乱の神霊樹も見えているようで、二人して魔法を選択していく。


【隠密Ⅲ】【隠蔽Ⅲ】【思考加速Ⅲ】【聴覚強化Ⅲ】【身体強化Ⅶ】【魔力強化Ⅹ】【防御強化Ⅹ】【炎魔法Ⅳ】【風魔法Ⅲ】【水魔法Ⅴ】【土魔法Ⅳ】【嗅覚強化Ⅳ】【視覚強化Ⅹ】【治癒魔法Ⅹ】【毒耐性Ⅹ】

「こんなところじゃな」
「うん、こんなに色々と魔法とっていいの? マナポイント無くなっちゃったけど……」
「うむ。毒耐性と治癒魔法は戦い抜く上では必須じゃからな」
「戦い抜く? どういうことなの?」
「決まっておるのじゃ。迷宮を踏破しようとする者との闘いでじゃ」
「――え? 同じ人間同士で?」
「そうじゃ、同じことが起きないとも言えないのじゃ。さて、いくとするのじゃ!」
「――え? どこに?」
「どうせ、このままいてもすぐに物事は決まらないのじゃ。気になる男のところに会いにいくのじゃ!」
「う、うん!」




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