【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

プレゼントと御礼




 階段を駆け上がり、地下99階層に到達。
 スキル「神眼」で、モンスターの情報を確認するが――。



 ――ダンジョン内、地下99階層にて ダンジョンモンスターの確認はできません。
 


 どうやら沸いてはいないようだ。
 それなら好都合だ。
 急いで上層階に向かうとしよう。

 幸い、魔物だけでなく俺が突破したトラップもそのままになっている。
 床や壁から槍が突き出していたり、穴の底には針が仕込まれていたり、探索者を押しつぶすための5メートルを超える鉄球の残骸や、ギロチンの残骸がそのままになっていたりと多岐に渡る。

 まぁ、そのうち元に戻るのだろう。
 俺には関係ないがな。

 走り始めて30分――。

 現在の時刻はすでに午前1時に近い。
 これは、アリバイが厳しくなってきたな。

「――ようやく着いた……」

 戻ってきた場所は、地下1階層。
 潜ってきた箇所――、天井の穴へと跳躍し穴に手をかけたあと、穴を通って地上へと出る。

 顔だけを出して、周囲を確認。
 人影はなし。
 さらに言えば気配もない。

 とりあえず穴から這い出る。
 そして穴を掘る際に、出た土を穴の中に入れ穴を塞ぐ。

 とりあえず、これで外からの見た目はカモフラージュできるはずだ。
 
「まぁ、ダンジョン広間の天井を見る奴はいないだろ」

 居たとしても俺だということは分からないはず。
 まずは時間が稼げればいいのだ。

 周囲を確認。
 近くの2階建ての家の屋根の上に跳躍し昇ったあと、千葉都市モノレールの線路へと向かって家々の屋根の上を伝っていく。
 1分もせずに、千葉都市モノレールの線路が見えてきたところで、線路上へと飛び乗る。
 
「よし、ここまでくれば後は安心だな」

 

 ――トウルルル



「はい。山岸ですが?」
「ああ、連絡が取れましたか」
「相原さんですか?」
「はい。佐々木様ですが、千城台病院までお送りしました」
「そうでしたか。佐々木はどうでしたか?」
「――とくに異常は見当たらないそうです」
「そうですか。夜遅くにありがとうございます」
「とんでもございません。佐々木様は、本日は千城台病院で過ごすことになりましたので、そのご報告と連絡です」
「わかりました」

 どうやら、佐々木に異常は無かったようだな……って――。

「もしかして……、レベルが上がった事と魅力のステータスにポイントを振ったせいで佐々木がおかしくなったのでは……」

 何となく、ふと思いついたが――。
 強ち、間違ってはいないように思える。

「とりあえず、ステータスを初期化しておこう」



 ステータス

 名前 山岸(やまぎし) 直人(なおと)
 年齢 41歳
 身長 162センチ
 体重 66キログラム

 レベル1(レベル1100)
 HP 10/10(11000/11000)
 HP 10/10(11000/11000)

 体力17(+)
 敏捷15(+)
 腕力16(+)
 魔力 0(+)
 幸運 0(+)
 魅力 3(+) 

 ▼所有ポイント 905 



 リセット所有ポイント 905 制限解除まで300秒



 ――さて、走るか……。
 線路の上を走る。
 来た時のように速度は出ないが、まぁ仕方ない。
 制限時間があるからな。



 千葉都市モノレールの線路上を走ること10分程。
 ようやく桜木駅が見えてきたところで、近くのビルへと飛び移る。
 ステータスを振っていなくても、レベルの補正があるおかげで距離的には30メートルほどだが……。難なく近くの4階建てのビル屋上に着地することが出来た。
 
 そして、毎度の事ながら家々の屋根の上を伝ってアパートまで戻る。
 
「ふう……、疲れた……」

 自宅のドアを開錠し家の中に入る。
 そして出しっぱなしのままのシャワーで体を洗ったあと、髪の毛を乾かし冷蔵庫からヌァンタババロアを取り出す。
 以前に、スーパーで見かけたババロア味の新作の飲料。
 どんな味か興味が湧いたから一本だけ買ってみた。
 
 蓋を開けるとプシュ! という炭酸が抜ける音が室内に木霊する。
 そして口をつける。
 
 味は、とても甘く――、ねっとりとした後味だが……、噛むたびに炭酸が良いアクセントになって良く分からない爽快感とも取れない微妙な味が口いっぱいに広がって――、なんというかマズイ。

「なるほど……、10円で売っていた訳がようやく分かった……はぁ……」

 室内には、24本入りの段ボールが1箱ある。
 冷蔵庫では3本冷やしていたが、1本飲むだけでも胃薬が必要なレベルだ。

「消費期限もあるからな……、アイテムボックスの中に突っ込んでおくか。場所もとるからな。あとは……、今日の食事はクリスマスの残りでいいな」



 ――コンコン



「――ん?」

 こんな時間に誰だ?

 ……というより、朝方2時だぞ? こんな時間に訪ねてくるとか常識を疑うんだが……。

 居留守を使うとするか。


 ――コンコン



「先輩いますか?」
「――ん?」

 ドアを開けると佐々木が立っている。

「今日は病院に泊まるんじゃなかったのか?」

 俺の言葉に佐々木が頭を左右に振る。
 
「何も問題なかったから……」
「そうか、それはよかったが……、念のために病院で一泊しておいた方がよかったんじゃないのか?」

 まぁ、俺のステータスの影響だった可能性が高いからな。

「じつは、急な仕事が入って……、でも……、その前に先輩にお礼を言いたくて……、それで相原さんにお願いしたんです」
「なるほどな……。でも急な仕事ってなんだ?」
「はい。じつは、レムリア帝国がテロを起こした貝塚ダンジョンの封鎖をそろそろ解除するということになったんですけど……、10階までの通信が途中で断線しているらしくて通信整備士の私が急遽担当することになったんです」
「そうか……」

 まぁ、10階層くらいまでなら貝塚ダンジョンは特に危険な場所ではなかったから問題ないだろ。
 どうせ、他にも一緒に付いていくやつがいるだろうからな。

 ――あ、そうだ。

「佐々木、いいものやる」
「いいもの?」
「これだ、一応は腕時計なんだが――、ネットオークションで落札したものだ」
「先輩からの初めてのプレゼントですか!?」
「いらないならいいが……」

 逆針の腕時計とかまったく使い物にならなかったからな。
 正直、こんなガラクタはゴミ箱に捨ててもいいと思っていたくらいだが……。

 もしかしたら俺では使いこなせなかった可能性があるからな。
 保険の為に佐々木にあげるのもいいだろう。

「ううん! 大事にします! 家宝にします!」
「家宝にしなくてもいいから」
「あれ? 腕時計の大きさが変わった? もしかして――、これって……、ダンジョン産のものですか?」
「さあ? 良く知らないが…………。あ! そういえば……、以前に購入した時に少しだけ未来が危険だったときに教えてくれるとか紙が入っていたな」
「そうなんですか! そんな貴重な物を私にくれるんですか!?」
「まぁ、特別だからな」

 貴重な意味がよく分からんが、まあ喜んでくれて何よりだ。
 そうだ、あとは――。

「佐々木、ちょっと待ってろよ」
「はい?」

 ドアを閉める。
 そしてアイテムボックスから、ミドルポーションの無限精製樽を取り出す。
 
「詰め込むのは、さっきの空になったヌァンタババロアのペットボトルでいいか」

 水道水で濯いだあと、ミドルポーションをペットボトルの中に入れる。
 そして「神眼」で鑑定。



【アイテム名】  
 
 ミドルポーション
  
【効果】 

 HPを40%回復
 骨の接合・粉砕骨折を瞬時に修復
 


「ほう……」

 どうやら、日本ダンジョン探索者協会が発表している内容とかポーションの効能が若干異なっているようだな。
 というより、鑑定をもっていないと正確な性能の判断がつかない?

 まぁ、別にいいか。


「佐々木、待たせたな。これを持っていけ」
「えっと、先輩これは?」
「今から仕事なんだろう? 夜は疲れるからな。何かあったら飲むといい」
「ありがとうございます!」
「じゃ、気を付けていってこいよ」

 さて――、佐々木も何事もなかったようだし寝るか。
 ――ん? ドアが閉まらないぞ!?

「おい、佐々木――、ドアの隙間に足を入れるな。お前は、どこかの国営放送局の営業マンか」
「えっと、きちんとお礼を――」
「別に礼なんていらない。何かあったら助けるのが社会人の務めだろう?」
「それでもです!」
「…………別にお礼が欲しくて助けた訳じゃないんだが……」

 そもそも、俺のステータス配分が問題だったわけだからな。
 それで礼を言われる筋合いなど無い。

「年末に、牛野屋がお正月牛丼フェアをするので一緒に食べに行きませんか! もちろん! お礼で奢りますから!」
「ぜひ! 行かせていただこう! 何時からだ?」
「――えっと……、12月31日の午後6時からとかは……」
「分かった」

 まぁ、相手が謝礼したいというなら黙って受け取るのも社会人としての嗜みだろう。
 それにしても年末に牛丼フェアをするとは、牛野屋も中々やるな。

「それじゃ先輩、行ってきますね」
「ああ、気を付けていってくるんだぞ。ああ、そうだ。これは、懸賞で貰ったんだが持っていくといい」
「えっと、これは……?」
「手提げ袋だ。まぁ色柄的に俺には使いこなせないから貰ってくれると助かる」
「は、はい! 大事に使います!」
「体には気をつけろよ?、本当に気をつけろよ? お前に何かあったら俺は……」
「先輩……、心配ですか?」
「ああ、もちろんだ! 俺は、すごく心配している」

 牛丼フェアのことが心配でならない。


「…………ぐすっ、私、すごく……、大事にされている気がします」

 そんなに佐々木も、牛丼フェアを大事にしてくれるのか。
 まったく……、佐々木も女になっていい奴になったな。
 
 男だった時は、問題あるやつだったが……。

 そう――、牛丼が好きな奴に悪い奴はいない。

「気を付けていってこい」
「はい、いってきます」

 意気揚々と佐々木は、アパートの通路を歩いて1階へ続く階段へと向かっていく。
 さて、俺は寝るとするか……。

 今日は色々と頑張ったからな。
 明日は、朝早く千城台病院の轟医師に会いにいくとしよう。



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