【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

ダンジョン探索依頼(5)




「オークションは駄目でした。関係ある病院にも確認をとりましたが、どこの病院も手術のために備蓄しているため、余剰はないようで……」

 だろうな……。
 最下級のポーションでも体力が回復出来て手術が出来るのなら、その用途は限りなく広くなる。
 しかも値段は10万円。
 手術ミスなどで、遺族やマスコミ、日本国民に叩かれるくらいならポーションを用意しておいて少しでも医療ミスを無くす方を病院は取るだろう。

 ――なら自分で取りにいくのがベストか。

「分かりました。俺も、知り合いに確認を取ってみます」
「お願いします」

 頭を下げてくる轟医師。
 本当は、もっと情報を得てからダンジョンに挑みたかったが仕方ないな。

 ――病院を出る。

「とりあえず貝塚ダンジョンに行かないとな」

 今後の予定を考えながら、スマートフォンで貝塚ダンジョンに入る為の方法を調べる。
 ただ、調べると言っても正規のルートではない。
 
 正規のルートでは、ダンジョンのドロップをそのまま持ち出すことが出来ないからだ。
 以前に、探索者講習会で聞いたこと。
 それは、ダンジョンから持ち出したアイテムは、全て! 一度、日本ダンジョン探索者協会に渡さないといけないということ。

 ――そして、それは鑑定するからという理由。

「最低、一週間とか待てないからな……」

 そう、鑑定に一週間かかる時点で、正規のルートでのダンジョン探索は却下だ。
 つまり、違法で潜るしかない。
 
「やはりないか……」

 いくら検索をかけたところで、無免許で日本のダンジョンに入った人間の書き込みはない。
 ダンジョンが出来て、日本国が脅威を認識しない前なら入った人間もいたようだが――、その頃とはもう事情が異なる。

「さて、どうしたものか……」

 やはり――、ここは貝塚ダンジョンに直接行って、その場で臨機応変に対応するのがベストだろう。
 しかし、そうなると……。

「何かあった時の為に言い訳というか、アリバイが必要だな……」

 少なくとも、俺は国から恨まれているからな。
 いや――、国どころか警察や陸上自衛隊に嫌われている可能性だってありうる。
 そうなると、アリバイがないと平気でアイツらは俺のせいにしてきそうだからな。
 まったく厄介なものだ。
 
「山岸様」

 考え込んでいると、ハイヤーの運転手である相原が話しかけてきた。
 インターネットで検索をしつつ思考をしていた事で、話しかけられるまで気がつかなかった。

「相原さん。家までいいですか?」
「それでは、すぐに車を用意します」

 すぐに目の前にハイヤーが停まる。
 後部ドアを開けて中に入ると車はすぐに走り出す。
 
 そして――。
 ステータスを振りなおすためにステータスを解除する。

 

 ステータス

 名前 山岸(やまぎし) 直人(なおと)
 年齢 41歳
 身長 162センチ
 体重 66キログラム

 レベル1(レベル1100)
 HP 10/10(11000/11000)
 HP 10/10(11000/11000)

 体力17(+) 
 敏捷15(+) 
 腕力16(+)
 魔力 0(+) 
 幸運 0(+)
 魅力 3(+)

  ▼所有ポイント 923 



  リセット所有ポイント 923 制限解除まで300秒



 さて、車がアパートに到着するまでには300秒は経過しているだろう。

 ――それにしても今日は色々と疲れたな。
 
 主に精神的な理由で――。
 車の背もたれに体を預けながら目を閉じるとすぐに眠気が襲ってくる。
 これはいけない。
 相当疲れているようだ。
 目を閉じたらまずいな。
 速攻、寝てしまいそうだ。

「社長から聞きましたよ」
「え? 社長? 富田さんからですか?」

 ちょうどいい。
 話していれば眠気も紛らわせるだろう。
 とりあえずは会話をするとしよう。

「はい。何でも杵柄さんを助けたのが山岸様だったとか――」
「どこから、その情報が……」
「同じ地区に住む者ですからね。神原町内長が、この前――、富田社長が町内会に参加した時に言っていたそうですよ。それに杵柄さんは、元々は教師で教え子たちには慕われていたそうです」
「そうですか……」

 意外と言えば意外だな。
 杵柄に、そんな一面があるとは――。
 まぁ、人の人生に歴史ありとも言うからな。
 それにしても、富田は少し口が軽いようだな。
 富田と話すときは発言に気を付けるとしよう。



 ――帰りの途中、コンビニに寄り買い物を済ませたあと――、自宅のアパート前に車は停車した。

「それでは、いつでもご要望がありましたら連絡してください」
「次回もよろしくお願いします」

 相原と言葉を交わしたあと、去っていく車を見送る。
 一息ついたところで、視界内にステータス画面を表示。



 ステータス

 名前 山岸(やまぎし) 直人(なおと)
 年齢 41歳
 身長 162センチ
 体重 66キログラム

 レベル1(レベル1100)
 HP 10/10(11000/11000)
 HP 10/10(11000/11000)

 体力17(+) 
 敏捷15(+) 
 腕力16(+)
 魔力 0(+) 
 幸運 0(+)
 魅力 3(+)

  ▼所有ポイント 923 



  リセット所有ポイント 923



 どうやら、所有ポイントのディレイは解除されたようだな。
 とりあえず、ステータスの振り方を考えるが――、何がいいのかまったくわからない。
 ダンジョン内は、トラップもあると以前に講習会で言っていたからな。
 
 とりあえず、どんな事態にでも対応できるようにステータス振りをしておくとしよう。
 所有ポイント腕力・敏捷・体力に200づつ、魔力・幸運・魅力には100づつ振る。



 ステータス

 名前 山岸(やまぎし) 直人(なおと)
 年齢 41歳
 身長 162センチ
 体重 66キログラム

 レベル1(レベル1100)
 HP 10/10(11000/11000)
 HP 10/10(11000/11000)

 体力217(+)
 敏捷215(+)
 腕力216(+)
 魔力100(+)
 幸運100(+)
 魅力103(+) 

  ▽所有ポイント 23



 こうして見るとバランスのいいステータスだな。
 魅力にステータスを振るのは、以前の女子高生事件があったから、多少抵抗感があったが夜だし、千城台は、そんなに人と会う事もないから大丈夫だろう。

 納得し階段を上がる。
 すると、丁度――、佐々木が住んでいる部屋から佐々木が出てきた。
 
「――先輩!? こんな遅くまでどこに行っていたんですか?」
「お前には関係ないだろ」
「――え!?」

 どうして、そんなショックを受けた顔をするんだ。

「佐々木、人の行動を一々詮索をするのは重い女だと思われるぞ?」
「そ、それって――、よくあったりする重い彼女って奴ですか?」
「まぁ、そんなもんだな」

 微妙にニュアンスが違う気がするが、疲れてもいるから訂正するほどでもないだろう。
 それに佐々木相手なら適当に話しておいても問題ないだろ。

「今日は眠いからな。また、今度な――」
「はい」

 何か知らないが、横を通り過ぎる際に佐々木が頬を赤くしていたが風邪か?
 そういえば家に居なかったからな。
 もしかしたら病院に行っていたのかもしれないな。
 
「佐々木」
「は、はい!?」
「体は大事にしておけよ」
「――え!?」
「お前に何かあったら俺が困るからな」

 そう、俺に風邪がうつったりしたら本当に困る。
 いまは色々と問題を抱えているからな。
 寝込んでいる場合ではないからな。

「私のことを心配してくれるんですか?」
「当たり前だろ、お前だけの問題じゃないんだぞ? 俺の問題でもある」

 俺の言葉に、佐々木がプシューと言う音と共に糸が切れた人形のごとく倒れかける。
 咄嗟に、彼女の体を片手で支えながら、佐々木の額に手を当て体温を確認するが、ますます体温が上昇していくようだ。
 これは、冬名物のインフルエンザかも知れないな。
 
「佐々木、大丈夫か?」
「先輩、だいひょーぶです」

 呂律が回っていない。
 どう考えても大丈夫には見えない。

「相原さん。至急、戻ってきてくれますか? 急患です」
「――え? あ、はい」

 佐々木を、お姫様抱っこしたままハイヤーが来るのをアパート前で待つ。
 そして、ハイヤーが到着する。

「相原さん、先ほどの千城台病院まで彼女を連れていってください。見た感じ――、動悸も早く呂律もおかしく、顔も真っ赤で額に手を当てると――、こんな感じで体温が急上昇するようです」
「…………これって病気ですか?」
「間違いありません。おそらくインフルエンザか何かでしょう」
「それで、山岸様は?」
「相原さん、これを――」

 俺は財布から一万円札を5枚取り出し相原に渡し――。

「佐々木をお願いします」
「わかりました」

 すぐに車は走り去る。
 やれやれ――、体が悪いのに無理しすぎだろう。
 まぁ、新しい職場に就職して雪が降るほどの寒さだからな。

 体を壊しても仕方ないだろう。
 さて、ダンジョンに潜るための用意でもするとするか。



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