【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

ステータス無双。




「俺は、そういう冗談に付き合うほど暇じゃない」

 部屋に入りドアを閉めようとすると、佐々木と名乗った美少女は、訪問セールの営業マンのように扉と壁の間に足をねじ込んでくる。

「おい、やめろ。扉が閉まらないだろ。警察を呼ぶぞ」
「警察はやめてください!」
「ふう……。疚しいことがあるから警察を呼ばれるのが嫌なんじゃないのか?」
「…………あっ!?」

 俺の言葉に沈黙していた美少女は、突然、アパートの階段の方へ顔を向けると必死な面持ちで部屋のドアを開けると部屋の中へ入ってくる。

 ――ガチャ

「お、おい!?」
「おらあ! ここに居るんだろ! 出てこいやー!」

 ドンドンドンドン

「なんだ?」

 佐々木という美少女が入ってきて鍵を閉めると同時に外へと通じるドアが激しく叩かれる。
 まるでヤクザみたいだな。
 いや――、破防法があるからヤクザは滅多にこんなことはしない。

 ピッピッピッ……トウルルルルル

「はい、こちら千葉東警察署」
「不審者が家の前で暴れているのですぐに引き取りに来てもらえますか?」
「不審者ですか? 場所などは――」

 時間にして1分ほど。
 スマートフォンで、ドアを叩く音と「匿ったら殺すぞ!」と大声で怒鳴っている男たちの声を聞かせるとすぐに警察が来てくれるようだ。

 ピッ――。

「――さて、外の社会のゴミ共はこれで問題ないだろ。あとは……」

 俺は、佐々木と名乗った女の方へと視線を向けるが、彼女は床に座って体を丸め震えていた。
 そこで俺はふと気になり玄関の方へと視線を向ける。
 やはり、そこにはあるべきものが存在していない。

「……君はいったい、誰なんだ?」
「俺は……佐々木です……」
「だから冗談は――」
「へんな液体を飲まされて女にさせられたんです……」

 ますます意味が分からない。
 何かを飲んだだけで性別が変わるなど、それこそファンタジーだ。
 言葉だけで誰かを信じることなど到底できるわけがない。
 何か証拠などがあれば、少しは話を聞いてもいい。
 そうじゃなければ警察が来たら引き渡しが現実的だろう。
 余計なことに首を突っ込んでも俺のためにはならないからな。


 
 ――スキル「解析LV1」を手に入れました。



 また欲しいスキルが欲しいときにきたな。


「せんぱい?」
「少し黙っていてくれ」
「――は、はい……」

 彼女は俺の方をジッと見てくる。
 俺はその視線を受けながらも、視界内に表示されているスキルの項目を選ぶ。


 ▼「解析LV1」(+)(ON/●OFF)

 相手の情報を読み解くことができる。
 

 ふむ……、どうやら「解析」というスキルはパッシブスキルのようだな。
 
 ▽「解析LV1」(+)(●ON/OFF)

 とりあえずONにしておこう。
 何かの役に立つかもしれないからな。


 俺はスキル項目を閉じて佐々木と名乗った美少女を見る。
 すると半透明の小さなウィンドウが開く。

 ステータス 

 名前 佐々木《ささき》 望のぞみ

 
 どうやら、名前だけは嘘を言っていないようだが……。
 そういえば、佐々木の下の名前を覚えていないな。
 少し解析のレベルを上げた方がいいか。

「そこで少し待っていろ」

 俺はすぐに自分の部屋に入り仕事机の引き出しを開ける。
 そして、赤い竜の置物を人差し指で潰す。

 すると半透明のウィンドウが開く。



 ――レベル339 炎竜ドラバスを討伐しました。

 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。 
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。



 一気にログが流れていき止まる。
 
 ――すぐにスキルを選択しポイント「解析LV1」に極振りする。



▽「解析LV10」(+)(●ON/OFF)



「これでよし――」

 佐々木のもとへと戻り、彼女を視ると半透明のウィンドウが表示されていく。

 

 ステータス 

 名前 佐々木《ささき》 望のぞみ
 年齢 21歳
 身長 151センチ
 体重 46キログラム
 
 レベル6

 HP14/HP60
 MP13/MP60

 体力12(+)
 敏捷23(+)
 腕力10(+)
 魔力 0(+)
 幸運 4(+)
 魅力28(+) 

 所有ポイント6

 性別 男性 → 女性(ヘルメイアの薬を服用)



 どうやら、言っていることは本当のようだな……。
 そうすると外で喚いているのは、ヘルメイアの薬とやらを飲ませた張本人たちか? 

「先輩……、いったいなにを……」

 俺がジッと視界に浮かんでいた半透明のウィンドウを見ていたことに気が付いた佐々木が話しかけてきたが、俺にはまず調べることがあった。
 ――それは……。

 部屋に戻りパソコンを起動。

 ログインパスワードを入力し、日本ダンジョン探索者協会のホームページを開く。
 そして、オークションのボタンをクリックし【ヘルメイアの薬】を探していくが売りが見当たらない。
 1万点近い販売商品の中で見つからないことなどありえるのか?

 ――いや……。

「まてよ……」

 俺は顎に手を当てる。

 そして、5年の間にコールセンターへ電話がかかってきた内容を思い出す。
 探索者からも多くの電話があったはずだ。
 だが、顧客対応をした際にデータ一覧を表示した時、性転換したという記述は一切なかった。
 それはそうだ。
 性別を完璧に自由に入れ替えができたのなら戸籍が大問題になる。
 

「――となると……」

 日本ダンジョン探索者協会のオークション画面ではなく、ダンジョン産アイテムを選ぶ。
 そして、検索するのは【性転換】【薬】と入力。


「なるほどな……」

 思った通りだ。



 商品名 性別転換薬

 性別を完全に入れ替えることができる。
 ただし、使用には医師の許可証を貰い裁判所の許可を得た後、役所の戸籍「性別」を変更した者に限られる。
 ダンジョンで手に入れた場合には、日本ダンジョン協会に提出すること。
 不正に使用・所持していた場合には、重罪が科せられる。
 


 つまり、佐々木を追ってきた連中も探索者かその関係者ということになる。
 そして使用した佐々木も重罪に科せられることになる、だから警察を呼ぶと言った時に反対したのだろう。

 だが、今回の場合は話は違うと思いたいが……。



 ――スキル「危険察知LV1」を手に入れました。



「――ん? 俺は何も――ッ!?」

 玄関の方へ視線を向けたと同時に、台所の窓ガラスが何かで割られた。
 破片が台所の床の上に散らばる。
 俺は、それを見て目の前が真っ赤に染まった。



 ――スキル「限界突破LV1」を手に入れました。
 ――スキル「バーサクモードLV1」を手に入れました。



 まだ警察のサイレンは聞こえてこない。
 男たちの手が窓枠にかかり、鍵を開けようとしているのが見える。

「仕方ないか……」

 ここまでやられたら黙っているわけにはいかない。

 俺は仕事机の引き出しを開ける。
 相手が武力で相対してくるなら、こちらも武力で対抗させてもらおう。

 引き出しの中の迷宮の置物を手当たり次第指先で潰す。



 ――LV320 地竜ガンダーラを討伐しました。
 ――LV199 オーガーキングを討伐しました。
 ――LV487 妖魔王ベルゼブブの配下シャトゥーンを討伐しました。
 ――LV296 ゴブリンキングを討伐しました。

 

 そして、視界内には「――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。」というログが流れ続ける。
 ログが流れ終わるのを待ちステータスを開く

 名前 山岸(やまぎし) 直人(なおと)
 年齢 41歳
 身長 162センチ
 体重 102キログラム

 レベル1(レベル144)
 HP 10/10(1440/1440)
 MP 10/10(1440/1440)

 体力17(+)
 敏捷11(+)
 腕力16(+)
 魔力 0(+)
 幸運54(+)
 魅力 0(+)

 ▽所有ポイント 71



 俺はすぐに引き出しを閉めて台所へ向かうと男が鍵を開けたのか窓から入ってきようとしていた。
 すぐに、先ほど所得したスキルに振る18ポイントを抜かしたポイントを全部、腕力に振る。

 名前 山岸(やまぎし) 直人(なおと)
 年齢 41歳
 身長 162センチ
 体重 102キログラム

 レベル1(レベル144)
 HP 10/10(1440/1440)
 MP 10/10(1440/1440)

 体力17(+)
 敏捷11(+)
 腕力69(+)
 魔力 0(+)
 幸運54(+)
 魅力 0(+)

 ▽所有ポイント 18


 視界内の半透明のプレートを出したまま、俺は佐々木の前に立つ。
 さらに、スキルをクリックする。
 検証する時間は無い。
 MAXまで上げておく。

 ▽「限界突破LV1」 → ▽「限界突破LV10」
 ▽「バーサクモードLV1」 → ▽「バーサクモードLV10」

 心無しか気分が高揚してくるような気がする。

「……せんぱい……」
「佐々木は、そこに居ろ。ここからは、俺の喧嘩だ! 俺の大事な物を傷つけたことは万死に値する! それに俺様の家の窓ガラスを割ったんだから正当防衛は十分に成立する」
「大事な者……、先輩……」

 佐々木が俺の言葉を聞いて、顔を赤く染めている。
 俺は、何も変なことは言った覚えはないが……。

「成立だとおおお、ふざけたこと言ってんじゃねーぞおおおおおお」

 俺の思考を遮ってきたのは品の無い若者だ。 
 肌を黒く染めた唇や鼻にピアスをつけていた男――20歳の若造が俺を睨みつけてくる。
 若者を見て俺は口角を上げる。

「小僧! いい度胸だ。歯を食いしばれ!」

 俺は、腰を落とし左手を引きながら右手を打ち出す。
 空手で言うところの正拳突きという奴だ。

 破壊した窓から侵入しようとしてきた男の顔面に拳が突き刺さると同時に男の体が、後方へと吹き飛ぶ。
 もちろん通路には、腰の高さまでしか柵はない。

 そのまま空中を浮遊したピアスの男は「ぎゃあああああああ」と絶叫したまま落ちていった。

「――さて」

 俺は自宅のドアを開ける。
 すると外で騒いでいた大学生の餓鬼共が一斉に俺を見てくる。

「てめええ! 何をしたのか分かってんのか! グファ」

 とりあえず怒鳴ってきた男の髪を掴みアパートの壁に顔面から叩きつける。
 まぁ、解析で見たかぎり、こいつらもLV10程度の探索者なのだから死ぬことはないだろう。

「さて、小僧共。警察は呼んだ。大人しくしているなら怪我はしないと保証してやるが、その手に持ったナイフで斬りつけてくるつもりなら容赦はしないぞ?」

 さて、どう料理するべきか……。
 俺の、大事な物――、牛丼が窓ガラスが割られた時にひっくり返り床の上にぶちまけられ食べられなくなったことは万死に値するぞ!






コメント

  • 姉川京

    女になったwww

    面白い!

    これからもお互い頑張りましょうね♪

    あともし宜しければ僕の作品も読んでください!

    1
コメントを書く

「現代アクション」の人気作品

書籍化作品