神様にツカれています。

こうやまみか

第一章 6

 身体がしぼむほどの大きなため息をはいたアサガミ様とやらは気の毒な人を見るような眼差しで誠司を見ている。
「違う!麻という繊維は古来から着物の材料として使われていた。そのあさの植物を司っているのがワシだ!」
 ドヤ顔で言い切っているものの、落ち武者がコジキになったような恰好なだけに神々しさは微塵もない。
「ええと、植物にも動物にも神様が居るんですか?それだと物凄い数になりますねー」
 ファミレスの駐輪場からストーカーのように自称神様は誠司と共に国道沿いを歩いている。
「いや、動植物だけではないぞ。人間の行為とか、場所などにもそれぞれ神がおわします。だから八百万の神というのはあながち間違いではない」
 誠司は忌まわしい記憶を思い出していた。あれは二年前の冬、大学受験を直前に控えた時に学問の神様として有名な北野天満宮まで神頼みに参ったことがあった。
 そんな暇が有るなら勉強すれば?と幼馴染でバリバリの進学校に通っていた東城伸也とうじょうしんやに心底呆れられた。ちなみに伸也は本家本元の「国立」大阪大学法学部にストレートで入学した。この点は誠司と同じだが大学のレベルは天と地ほども違う。
「ああ、受験の神様で、えと藤原……」
 続きがどうしても思い出せないのは横を歩む麻神様のせいではない。
「それも違う。人であった菅原道真すがわらのみちざねが恨みを呑んで亡くなったので、そのたたりを恐れた藤原氏によって神様に格上げした異例中の異例なお人だ。
 ところで、ワシが名乗ったからには、そちらも名前を言うのが筋ではないか?」
「あ、すみません。神津誠司かみつせいじと言います。この道を真っ直ぐ上ったところに在る大学の経済学部二回生です。趣味は昼寝……」
 神様の目が禍々まがまがしく光ったような気がして言葉を切ってしまった。大学名はどうせこの感じだと付いて来るだろうし、口で言うよりも文字で確認して貰った方が早い。
「ほほう、この山の上か……。そして経済学部とな。だったら話しは早い……かもしれん……」
 あやふやな感じの語尾になったのは誠司のおバカっぷりを神様らしい鋭さで見抜いたのかもしれない。いや、神様でなくても伸也の大学のツレだって会話したら分かるだろうが。
 次の言葉に目を丸くしてしまったが。

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