神様にツカれています。

こうやまみか

第一章 4

「あら、それはそれは……感心ね。最近の大学ってあれでしょ?学生証で出席管理とかまで出来てしまうとか。私の学生時代は代返と言ってね、友達に頼んでおいて、名前が呼ばれた時にその子に返事をして貰うという抜け道が有ったのだけれど」
 「普通」の会話が続く。
 これはかなりおかしいことではないだろうか。
 どうやら、暇を持て余している「優雅な」専業主婦といった感じの奥様のグループらしくて、自転車チャリを元通りに直した誠司を褒め称えるために――どうせ、自分達の力仕事が減ったからとかいうそんな理由だ――集まって来てくれた。
 「他人に褒められる」ことが余りない誠司には嬉しいことだが、怪しい風体ふうていの人間が近くに居るとは思えない警戒心のなさだった。
 誠司は猫が好きで、しかも母親が猫アレルギーなので自宅では飼えない。
 その寂しさを紛らわすために最寄りの公園に棲みついている地域猫に餌をやるのが日曜日の楽しみだ。「デートすれば?」と友達に言われるが、あいにく誠司とデートしてくれる人がいない。
 ま、それは置いておいて、ある日曜日にその公園で猫達に餌を上げていると、素人から見ても「精神的に逝ってしまった人」が公園に来たことがある。
 その「事件」の時には公園で子供を遊ばせていた奥様方は必死の形相ぎょうそうといった感じで我が子を抱いたり思いっきり手を引っ張ったりして数分後には見事に公園から人が居なくなった。
 それが「普通」のお母さんの反応だっただろうと誠司も思ったが。
 怪しさ満点という点では公園の男性と誠司の傍にいる人とはそれほど変わりがないと思うのに、奥さん連中は誠司しか見えていない感じで話しかけてくる。
「ああ『大阪情報法律経済大学』に通っているの」
 何度訂正しても正式名称は覚えてくれなったので、いい加減面倒くさくなって曖昧な笑みを浮かべた。
「じゃあ、そろそろ大学に行きます」
 奥様方と別れて、国道沿いをとぼとぼ歩いていると、先程のてっぺんハゲの長髪の男は誠司の隣りをちゃっかりキープしている。
 どうせなら可愛い――いや、可愛くなくても良いけど普通の容姿のJDだったら良かったのに――とか現実逃避をかましてしまった。ちなみにJDは女子大学生というほどの意味だ。

「文学」の人気作品

コメント

コメントを書く