日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~(※MFブックスから書籍化)
102.これで二人目
嫁との間にできた子供を異世界の旅には連れていかない。
それが、かつての結論だった。
もちろん簡単に決めたわけじゃない。
いろんなことがあった。そのほとんどは忘れたいけど忘れられない……そんな記憶ばかりだ。
だけど、ティナやシンジのいるユスペリアをアイテムボックスに入れて持ち運べるようになったことで、事情は大きく変わった。
いついかなる時でも、家族と過ごせるようになったのだ。
その気になればユスペリアの時間を動かしたまま、自律した代行分体で家族と暮らしながら誓約をこなすこともできる。本体の俺はいつでも好きなときに、あのふたりとの思い出を共有できるのだ。
見た目だけ老いて、ティナと生涯を添い遂げることだってできるだろう。
当然、子供とも同じ時間を過ごしてやれるわけだ……。
「そういうわけで、俺が子供を連れて行かない問題のほとんどをクリアできたからな。子作り解禁だ」
「いや、待て、問題しかない! 私はまだ子供を作るつもりなどないぞ!」
全力で抵抗してくるシアンヌを組み伏せつつ、ニヤリと笑う。
「まだってことは、いつかはあるのか?」
「そ、そういう話をしてるんひゃない!」
あらま、シアンヌが噛んだ。珍しい。
「まあ落ち着け……妊娠すると強くなれるんだぞ」
「なんだと……いや、嘘だ、騙されんぞぉ!」
「嘘じゃない。母は強しだ。ガチで」
子育て希望の嫁たちには何不自由しないチートを与えて卒婚に至るケースがほとんどだったが、あいつらは本当に逞しかった。
チートホルダーとしてはもちろん、ひとりの母親としても。
「それに『種』として強くなるなら、次世代に託すって選択肢もあったほうが幅が広がるぞ。なにせ俺のガキはほぼ例外なく屈強なチートホルダーになるからな」
「む、むむっ……」
「もっとも転生者の魂が俺のガキに入ることは許可してないけどな。だから、どうだ? ガキと一緒に成長していかないか?」
「ま、まだ早い! 私はまだ子供に誇れるほど自分を強いとは思っていないんだ!」
シアンヌが顔を真っ赤にしながら、ふるふると首を横に振る。
「頼む……ルール5は守るから、子供だけは……」
むぅ……追い詰められた小動物みたいに見つめ返されたら、さすがに萎えるな。
「じゃあ、さっきの貸しはなしってことで」
「ああ、うん、それでいいからっ!」
すっかりしおらしいキャラになっちゃって。
「さて、と。となると俺のお勧めチート能力百選を上げるほうが先かなー」
俺の呟きにシアンヌの両肩がびくりと反応した。
表情にも、わずかに怯えが混じる。
「ま、待て……一体、何回するつもりだ……!?」
「まずは睡眠不要チートからだ……今夜は寝かさないぞ?」
言うや否や、自己領域チートで音と侵入を遮断する結界を展開。
いつもの避妊魔法を発動してから、宿の一室でシアンヌの嬌声を独占するのだった。
それから数日後。
すべての準備を整えた俺は、シアンヌに出撃許可を出した。
期限は今日一日。
銀髪少女の正体を見極めると同時に、シアンヌの望みを叶える。
「ねえ、本当にわたしたちが手伝わなくて大丈夫なのかな?」
「かなー?」
封印珠から出てきたばかりのイツナとステラちゃんが、去っていくシアンヌの後ろ姿を見ながら不安そうに呟いた。
「ああ、きっと大丈夫さ」
ふたりには不敵な笑みで応えておいたが、実際どうなるかわからない。
実を言うと、シアンヌがどんな作戦で4人に仕掛けるつもりなのか知らないのだ。
俺が教えたのは与えた力を使った戦い方だけで、それも最低限……基本的な運用のみ。
作戦立案から何から何まで、シアンヌがひとりでやることになってる。
俺が強制したわけでも、シアンヌから言い出したわけでもなく、話の流れで自然とそうなったのだ。
今回ばかりは時空操作も未来予知もせず、シアンヌを信じて送り出したのである。
「じゃあ、ふたりとも。転移するから俺に触れてくれ」
「はーい!」
「ぎゅー!」
触れてと言っただけなのに仲良く俺に抱きついてくるイツナとステラちゃん。
子供が親戚のおじさんにじゃれつくような感じなので、色気はゼロだが。
転移した先は石造りの広間で、大小の柱に囲まれた壁面に巨大な鏡が据え付けられている。
照明となるものは、部屋の中の篝火のみ。
「サカハギさん、ここは?」
「いやあ。実を言うと、シアンヌの活躍を観戦するのにちょうどいいアーティファクトが見つかってな」
鏡の前に立ち、触れるか触れないかのところまで手をかざす。
俺が銀髪少女の真名を唱え上げると、彼女のチームが街を歩いているところが鏡に映し出された。
「わー、すごーい!」
「ふしぎなかがみなのー!」
イツナとステラちゃんがぴょんすか飛び跳ねて興奮している。
俺が見るだけなら視覚転移とかでもよかったが、どうせみんなで見るなら、これぐらい趣向を凝らしてもいいだろう。
「あ、でもこれ音は出ないんだねー」
「ちょいまち」
鏡をカスタマイズチートで音も拾うように改造し、出力用のスピーカーをクラフトチートで鏡に増設すると銀髪少女たちの会話が聞こえてきた。
「ねえ、普通にいい子たちみたいだけど……シアンヌさん、殺しちゃうのかな」
しばらく4人の会話に耳を傾けていたイツナが不安を口にした。
仲の良さそうに互いをいじり合う少女たちは、紛れもなく年相応に見える。
俺が調べた範囲でも誰かをナデポニコポ奴隷化してたり、隠れた願望で星の意思に悪人を量産させたりといったこともなかった。
彼女たちの望みは仲間達と平和に過ごすこと。
それとちょっぴり刺激的な冒険の日々。
そこに悪意や野心が入り込む余地なんてない。
彼女たちを取り巻く環境は、結社を除けば優しい世界そのものだ。
「どうだろうな……」
でもきっと、シアンヌは戦う相手が善人か悪人かなんて気にしないだろう。
魔族出身のシアンヌは老若男女どころか、人間だろうとモンスターであろうと敵であれば平等に殺す。
どっかの誰かは悲しいことみたいに言うかもしれないが、俺はクソ神宇宙を生き抜いていくなら、それぐらいがちょうどいいと思っている。
敵の抱える事情なんざ相手が泣きながら相互理解を訴えてきたときにでも、罠も含めて改めて検証すればいい。
もっとも、シアンヌがああ言い出さなければ敵対する理由なんてなかったし、今も敵とは見做してないのだが。
「そもそも論として、シアンヌが殺られる可能性のほうが高いしな」
銀髪少女の正体は、今生の真名からは判断できない。
転生者の場合、本来なら前世の名前が見えるのだか……俺やアルトリウスのような規格外の例外則の場合は見えない。
見えないというより、見えるような底がないという方が正しいか。
とはいえリリィちゃんのこともあるので、銀髪少女に過度な期待はしていない。
そもそも同類を見つけて、俺は何をするつもりなんだ?
限界ギリギリ頂上バトルに胸が躍らないと言えば嘘になるだろうが、心ゆく決着までにどれほどの宇宙を犠牲にすればいいのか見当もつかない。
クソ神が機転を利かせてなかったら、俺は未だにクズラッシュをこなしていたはずだ。
俺から仕掛ければ、また同じような宇宙を彷徨う羽目になる。
どう考えてもリスクとリターンが釣り合わない。
ひょっとすると俺はシアンヌの望みを聞くフリをして、自分の目的のために利用しているのだろうか。
否定はできない。
それでもシアンヌの気概に心打たれたのも事実。俺にとっては、どちらも本音だ。
もし、リリィちゃんが偶然の産物ではないとしたら。
クソ神の言っていた規格外の例外則は俺とアルトリウスの二人だけという言葉が……そもそも虚偽なのだとしたら。
「まあ、見とけ。悪いようにはしないさ」
俺がいつもみたいに軽く請け負うと、イツナの不安は幾分か軽くなったらしい。
大きく頷いて鏡の方をじっと見つめる。一時も見逃せないとばかりに。
「ねぇ、まだかなー?」
おねむのステラちゃんを膝枕しながら、イツナがあからさまな不満を訴える。
「いつまで経っても何も起こらないよー!」
「どうやらシアンヌは夜襲を選んだみたいだな」
日中に動きなし。
タイムリミットは明日の日の出なので、今夜中に仕掛けるはずだが。
「うーん、でも結社? の人たちは失敗しちゃったんでしょ?」
「ああ、シアンヌから聞いてたのか。まぁ、そうだな……あいつらは常在戦場の構えだ。奇襲が成立しにくい」
4人の対応は教科書にお手本として載せたいぐらいに完璧だった。
索敵で敵襲が判明したら会話を交えず合図だけで陣形を構築し、襲撃者たちを待ち伏せ。敵に突入を許さず狭いドア付近で筋力自慢の戦士とのタイマンを強要し、窓からの襲撃者を侵入すると同時に詠唱を完成させておいた魔法で迎撃する。
あれで俺のように残党をしっかり捕捉、追跡して……幹部を捕縛できていたら百点満点である。
「それでもな。相手の想定さえ上回れば奇襲ってやつは成立するんだ」
俺がそうコメントした直後、4人の映像に異変が起きた。
部屋の中心に、黒く脈動する肉塊のようなものが出現したのだ。
「みんな起きて! 敵襲!!」
少女たちは就寝していたが、銀髪少女だけは飛び起きて警告を発した。
その直後。肉塊が膨張し、爆発。部屋の内部に真っ黒な煙が充満した。
「煙幕!?」
銀髪少女がすばやく口を塞ぐ。
「けほけほ!」
赤髪魔術師が咳き込み、涙を流した。
「ミニア、無事か!」
のっぽ戦士がミニア……ちびっこ神官の方に駆け寄った。
「あっ、キティス! 陣形陣形!」
銀髪少女がキティスと呼ばれたのっぽ戦士の勝手な行動を諌めつつも、普段から仲のいい凹凸コンビを咎めはしない。
「大丈夫です! あたしが寝てても神様は守ってくれますから!」
「よかった。いいか、お前は小さいんだから私から離れるなよ!」
キティスがミニアの頭に大きな手を乗せた。
「んもぅ、いつも背は関係ないって言ってるじゃ――」
直後、ミニアが脱力して、膝から崩れ落ちる。
あまりにも一瞬の出来事で、銀髪少女と赤髪魔術師は唖然と見ていることしかできない。
「キティス……どうして……?」
小さな呟きを漏らして、ミニアがキティスの胸に倒れこむ。
「ずっとずっとお前が厄介だった」
キティスが不穏な言葉を漏らした直後、ミニアの体に封印珠を押し当てる。
ミニアの姿が吸い込まれ、あっという間に消え去った。
「お前の防御障壁は、どんな攻撃でも防ぐ。サカハギを傷つけた私の黒爪撃ですら。だが、それが攻撃でなければ……例えばそう、お前が味方と認識する人間のスキンシップに見せかければ――」
キティスが幽鬼の如くゆらりと立ち上がって、銀髪少女と赤髪魔術師の方を肩越しに振り返る。
その手は真っ黒ななにかで塗りたくられおり、まるでピースサインのように指が立てられていた。
「これで二人目」
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