日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~(※MFブックスから書籍化)

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67.明かされる黒幕! ライザークリスタルの正体

 松田と蓮実はふたり同時に間合いへ踏み込んでくる。
 速い。だけど躱せないほどでもない。
 しかし、ここは敢えて受けてみよう。

 右手で止めた松田の拳は重く、膝でブロックした蓮実の蹴りもさっきのエメラルドの必殺並の威力だった。
 だけど、それだけ。直撃したとしても俺のスーツの防御力を貫通できるほどではない。
 もともとこのスーツは魂のエネルギーを力に変える性質を持つ。
 俺のエネルギー総量が規格外だったため、オニキスライザースーツは他とは比較にならない装甲とパワーを誇る。

「むん! はぁ!」
「ていっ、とやーっ!」

 ふたりが予想外の連携の良さで連撃を加えてくる。
 そのすべてを回避することなく防御した。
 確かに強い。
 逆に松田が同能力のスーツを着て蓮実と互角ってことは……。

「松田……お前も創世神か」
「そのとおり! この異世界を創世したのは私なのだよ、逆萩君!」

 連撃を凌ぎつつ問いかけると、いい気になっている松田がポロっと漏らしてくれた。
 なるほど、つまりコイツもチート転生創世神。蓮実と同じ穴のむじなってわけだ。
 少し華を持たせてやると口が軽くなるのはどんなやつでも変わらないな。

「へへーん、防戦一方じゃないのクソダーリン!」

 蓮実も俺を圧倒できていると錯覚しているようで、明らかに調子に乗っていた。

「確かにキミはさまざまな世界を破壊してきたようだが、神をふたり同時に……しかもカレントライザーを相手にしては厳しかろう?」
「わたしの呪いを解いてくれたら、半殺しで許してあげるわよ?」

 一度距離を取って事実上の勝利宣言をするふたりを無視し、顎に手を当て思案する。

「だいたいわかった。お前らの強さは」

 パワーやスピード、魔力波動などを見て総合した結論を披露した。

「カレントライザーになると下位神相当か。なるほど、元々魂のエネルギーの扱いが得意な創世神なら魂晶との相性もいい。そのスーツも何かモデルになる神具があったってところか?」
「ほほう、そこまでわかるか」

 松田が感心したように頷く。

「そのとおり。危機に陥っていたこの世界を訪れた旅の神が試作品の神具を私に与えてくれたのだ。それがパールライザークリスタル」
「そしてわたしのは、その予備を改造した品ってわけ」
「赤井君たちに与えているのは私のチート能力で量産したスーツだ。お前がどこでライザークリスタルを手に入れたのかは知らんが、我らは神。しかもオリジナルのライザークリスタルを持っているのだ。貴様には万に一つも勝ち目はない!」

 己を誇示するように両手を広げる松田が高らかに勝利宣言した。
 勝負を決める気らしく、ふたりの魔力波動が一気に膨れ上がる。

「アルティメット・ファイナライズ!」
「アルティメット・ファイナライズ★」

 二柱の神が拳を掲げて叫んだ。

「「ダブルライザー・ゴッドフィスト!」★」

 さらに天高く飛翔し、超高速で突っ込んでくる。 
 繰り出された拳が俺の顔面へと迫り。
 刹那、俺を中心に大爆発が起きた。

「やったか!?」

 赤井がフラグを立てるまでもなく、もちろんやっていない。

「そんなっ!?」
「ばかなっ!?」

 蓮実と松田が驚きの声をあげる。
 煙が晴れると、そこには傷一つない俺が立っていた。
 そもそも松田と蓮実の拳は俺に届いていない。顔面に到達する直前、それぞれの手首を掴んだ。さっきの爆発はその際に発生した衝撃波である。
 脱出しようとふたりとも俺に蹴りをいれてくるが、ノーダメージ。よって無視。

「お前らに良い事を教えよう」

 教えるつもりはなかったけど、もう駄目だ。
 コイツらの吠え面を見たいっていう欲求に、これ以上抗えそうもない。

「ライザースーツにはとんでもない欠陥がある。装着者に与えられる無限のパワー……その源は、この星の命そのものだ」

 俺が顎でしゃくる先は魔導炉。
 塔のてっぺんで燃え盛る青い炎。

「スーツの魂晶が星から魂のエネルギーを奪い魂晶に蓄えて力に代える。そいつを全身に纏うんだから、一個人が扱うなら無限に等しい力を振るうことができる。だけど、死にかけの世界で使ったりすれば破滅を早めることになるってわけだ……」

 松田が急に抵抗を止めた。
 俺の言葉の意味を理解したのだろう。

「松田。お前が神具の欠陥に気づいていたら、ここまでの事態にはならなかったかもしれないな」

 まあ、無理な話か。
 仮に鑑定眼が使えたとしても意味を理解するには相当な知識が必要だし。
 現代人が転生した創世神じゃ、現代知識で工夫するのが関の山だ。

 創世神と言っても最下位神じゃ星の上に自分の世界を築くのが精一杯。
 星の意思による補助どころか、その存在すら認識せず、すべてを自分の手柄だと思い込む傲慢な神々も少なくない。
 星という基盤なくして創世は成り立たないというのにな……。

「嘘だ! そんなことがあるものか! あの神は確かに、これが世界を守る力だと!」

 案の定、この男は何も知らなかったようだ。
 界魚の真名もわからずにレフトーバーなどという蔑称をつけていたのが何よりの証拠。

「嘘かどうかはすぐにわかる。たった今、俺のカスタマイズチートでお前らのスーツの欠陥を俺のスーツと同じ欠陥に置き換えたからな」

 掴んでいた手首を両方ともパッと離した。
 解放されたふたりは、すぐに反撃に転じようと拳を繰り出そうとして……。
 その動きが、止まる。

「な、なんだこれはぁぁっ!?」
「さ、寒い……力が抜けてく……!」

 突如のたうち始めるダブルパールライザー。
 その愉快な光景に思わず肩をすくめる。

「おいおい、大袈裟だな。これまでお前らが世界に押し付けていた消費コストを自前で払うようにしただけだぞ? その寒さこそがお前らがこれまで星に負担させていたコスト。つまり、滅亡を早めたのはお前たち自身なんだよ」

 戦慄に打ち震えながら松田が俺を見上げた。

「ぐうっ、同じ欠陥と言ったが……貴様はこんな状態で我々と戦っていたというのか!?」
「お前らにはできないのか? そうか、俺としては冷房が効きすぎるぐらいの感覚なんだが」

 ここでちょうど、上で何かが砕ける音が響き渡る。
 ついに界魚が結界を突破したようだ。
 その光景を呆然と見上げる一同に、俺はただただ首を横に振った。

「あの魔導炉だってそうさ。星の命を奪い続けることで稼働してる。あんなもん建てて栄華でも極めたつもりなんだろうが、蓋を開ければ世界の寿命を削るだけの自殺行為だったってわけだ。ついでに言っておくと、上で暴れてるのは界喰みなんかじゃないぞ。星の使徒。奪われたエネルギーを取り戻そうと必死なだけの被害者たちだ」

 一気にまくしたててから全員を見渡して、はっきり糾弾する。

「世界の破壊者はお前らだよ。この星を侵す癌細胞は、この世界の人間どもだ」
「嘘だ! そんな話は!」
「信じないぞ!」

 予想通り、赤井とトパーズが口々に否定する。

「ま、そうだろうな」

 こんだけ一気に詰め込まれたら、理解できるものも理解できないだろう。
 とはいえ石動祐也のときのように催眠魔法を使う気は起きない。
 やっぱりというかなんというか。
 俺の中にコイツらに対してそこまでするほどの関心がないのだ。

 そう、どうだっていい。

「そうだ……ヤツの言っていることは嘘だ! 我々、救世旅団だけが世界を救える! レフトーバーこそが悪なのだ!」

 赤井たちの後押しに勇気づけられたか、松田もここぞとばかりにがなり立てた。

「クッ……」

 体の奥底から沸きあがってきた衝動を、必死に堪える。
 くっそ、またかよ……。

「ふふ、やはりな。お前もこの代償を受け続けては只では済まないというわけだな!」

 松田が勝手に勘違いして、指示を出し始めた。

「ルビー! トパーズ! ファイナライズでヤツを倒せ!」
「し、しかし!」
「構うことはない!」

 そして。
 拳を握りしめ、強い使命感を感じさせる力強い声で、松田はこう断言したのだ。



「そうせねば……我らに道はないのだ!」



 そのセリフに思わず顔を上げる。

「道はない、だと?」

 聞き覚えのあるフレーズ。
 まさか、まさか……。

 確かめるべく、震える声で松田に問う。

「お前にライザークリスタルを渡したヤツが、そう言ったのか?」
「そうだ! それがなんだというのだ!」

 ああ、もう駄目だ。
 これ以上は、耐えられない。

「く……くく……」

 クリスタルゲインと出会ってからというもの、ずっとずっと押し込めていたモノが堰を切って怒涛の如く押し寄せてくる。

 最初、それは俺の喉奥を通り、口元から顕現した。
 次いで全身に波及。
 まるで火だるまになったハリウッドの敵キャラみたいに地面を無様に転がり続けた。
 それでも我慢できなくなった俺は、魔導炉を囲む外壁を何度も殴りつける。
 その衝撃で外壁がガラガラと崩れ落ちていくが、そんなことはお構いなしに今度は地面を叩いた。
 先ほどの戦闘でできたクレーターをはるかに超える規模の大穴が次々と量産されていく。

 ……なんて遠回しシリアスに表現してはみたが。



「あははははははははは! うひゃはははははははは! げっははははははははははは!!!」



 要するに、俺はおかしさのあまり大爆笑してしまったのだ。

「ぎゃはははははははははっ!  ひい、ひい、くるしっ。ぷっ、くふふ、あはははははは!!」

 俺の狂態に呆然とする一同。
 少し落ち着いてきた俺は手を振りながら、言い訳を始めた。

「ひひひひ、わ、悪い! だけどもう我慢できない! だはははははははは!!!」
「い、いったい何がおかしい!」

 松田が怒りに満ちた視線を向けてくる。
 ごもっともです。
 でも、お前らも悪いんだよ!

「俺はさぁ、お前らが大真面目に世界を守るとかレフトーバーを倒せば世界が救われるとかいう的外れな戯れ言を言うたびに、笑いを堪えてたんだよ!! でもさすがに悪いかなって! 不謹慎すぎるから笑っちゃ駄目だと思って! だから我慢してたんだけど、もームリ! お前ら最高の道化だわ!!」

 一通り言い終え、再び襲ってきた第二の笑いの波に呑まれそうになるのをなんとか抑えた。

「この世界が終わるかもしれないというときに、貴様ぁ……!」
「ははは……なあなあ、お前らにライザークリスタルを渡したヤツは、ナウロン・ノイエって名乗らなかったかー?」

 重い体を引きずって俺を睨んでいた松田の動きがピタリと止まった。

「図星か。そいつはな、至高神ナロンの代行分体だよ」
「なっ……肥溜の如き精神を持つという、あの!?」
「お、知ってるなら話が早い。なあ松田、ナロン本体の性格を知ってるならわかるだろう? お前らはさ、要するにいいように騙されたんだ。きっとどこかで自分でお膳立てした茶番を見て、ゲラゲラ笑ってるよ。あのクソ神はさ!」

 つまり、この世界の構図を作り出した元凶がクソ神だったってわけだ。

 いやー、やられたやられた!
 星の命を削る要素が多すぎて、おかしいとは思ってたけど。
 この異世界はこれまでにも何度か見かけた俺を接待するためのドッキリ企画世界のひとつだったってわけだ!

 どの段階から介入してたのかな?
 ナウロンとしてライザークリスタルを渡した時からか?
 いや、違うな。

 最初の松田の話だとクリスタルを渡されたのは確かにレフトーバーが出てきてからっぽいけど、おそらく実際には最初から。
 つまり、松田と星の少女をこの異世界に転生させたのがクソ神なのだろう。
 自己を顧みない星の意思に勘違いチート創世神をカップリングするあたり、実に悪趣味な愉悦に満ち満ちている。
 そこからはきっとレフトーバーが出てくるあたりまで見守って、星にトドメを刺すって段階でライザークリスタルを譲渡。
 いい感じにあったまったところで星の少女の願いの優先度を上げて、俺を呼び寄せたってところだろうな。

「ぬおおおおおっ! そんなことがあってたまるか!」
「ち、ちょっと松田さん!」

 いつの間にか、ちゃっかり変身を解いていた蓮実が引き止める。
 松田の怒号が轟くと同時ぐらいに、上空から巨大な爆発音が響いてきた。

「ああ、魔導炉が……!」

 赤井達が絶望に天を仰ぐ。
 界魚に基部を喰らいつくされたバベルの塔が今まさに倒壊を始めたのだ。
 救世旅団クリスタルゲインの完全敗北である。

「いやー、ありがとうよ松田。このクソみてぇな世界に対して俺がどう振る舞うべきだったのか、ようやく理解したわ」

 炎に包まれ崩れ落ちていく魔導炉を背に肩を竦めて見せながら、変身を解除する。
 星の少女の願いに縛られるダークヒーロー、オニキスライザーはもういらない。
 クソ神渾身のギャグによって願いの呪縛から解き放たれた俺は、今や完全に自由だ。

 しっかしクソ神のやつ、俺を苦しめるつもりだったのかもしれないけど一周回って面白すぎだよ。
 確かにいつもの俺ならブチ切れてたかもしれないけど、シリアスに葛藤して鬱憤ため込んでたせいでクソ神が黒幕だってのが完全にツボに入っちまった。
 つーか、真剣に悩んでた俺が馬鹿みてーじゃん!

 でも、まあいいや。
 クソ神の分体は、また会った時にでもシメればいいし。 
 それに今回ばかりはクソ神のおかげで正気に戻れた。

 世界を救うか、救わないか?
 そんなので悩むなんて俺らしくない。
 まったくもってどうかしてたぜ。

 そうとも俺は逆萩亮二。
 異世界の破壊者。

「き、貴様一体……何者なんだ?」

 どうして俺が変身を解いたのか理解できないらしく、松田がわかりきったことを聞いてきた。

 んー。
 いつも通りに名乗ろうと思ったけど、やめておく。
 笑っちゃったお詫びに、この異世界をリスペクトしてやろう。

「通りすがりのカレントライザーだ。覚えておけ!」

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コメント

  • ウォン

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