日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~(※MFブックスから書籍化)

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64.深まる疑惑? オニキス怒りのファイナライズ

「だから、あれほど火遊びはやめるように申し上げておりますのに」

 そんなありがたーいお小言をいただいた後、俺は部屋から追い出されてしまった。
 どうやらエヴァはイツナ、シアンヌ、蓮実に対して『花嫁修行』をするつもりらしい。
 蓮実のせいですっかりお局魂つぼねだましいに火がついてしまったようで、当然俺の用件は後回しとなった。

 こうなると俺にやれることっていったら、ミドガルダの見回りぐらいだ。
 元ファンタジー世界という話だったが、街の在り様は近未来SF都市と呼んで差し支えない。
 瓦礫と廃墟に比べれば人も娯楽も転がっているし、退屈凌ぎには困らないはずだ。

 実際、意味もなくブラついただけでも人々の営みがそれなりに見えてきた。
 特に多かったのが酒におぼれる者、賭博に興じる者、終末思想を演説する者。
 要するに死や滅びへの予感に押しつぶされ、未来を捨てた人たちだ。
 ごく少数、救世旅団クリスタルゲインの活躍を語る者もいたが。

 次に多かったのが平凡な日々を生きる者。
 同じ毎日が続くと疑いもしていない若者たちや、幸せそうな子連れの家族。
 今を強く生きようとする人々も、ただ単に自分のことで精いっぱいで世相に無関心な連中もいた。

 もうじき彼らは泡沫のように消えてなくなることが宿命づけられている。
 男も女も、老いも若きも、善も悪も、世界の滅亡で平等に死ぬしかない。

 人間の命は尊い?
 子供が死んだら可哀想?
 悪いが、そういうジャンルの話をする気はない。
 どっちかというと、こいつは道理の話なのだ。

 実のところ、この異世界が滅びる原因は人間にある。
 連中が魔導炉と呼んでいる、ここからも見えるあの塔。
 あれは『星』の魂を直接吸い上げて、資源化する装置なのだ。
 この街は『星』を犠牲にして成り立っているのである。

 魂を失った『星』は死ぬしかない。
 『星』が死ねば、その上にある世界が滅びる。
 世界が滅びれば、暮らしている生物も死に絶える。
 なにも不思議なことはない、当然の話だ。

 先祖から綿々と受け継がれてきた負債を子孫が支払う。
 どんなに理不尽に思えようと、それが道理。
 先祖の借金は子孫が死んで贖う他ないのだ。
 無知を言い訳にしたところで無意味である。
 それが現実なんだから。

 むしろ一番の被害者は動植物だろう。
 完全に巻き添えだからな。

 とはいえ人間である以上、人間の肩を持つのは自然なこと。
 自然を大事にしなかった人類は滅びるべきであるなんて意見は少数派だろう。
 こういう俺の話を聞いて「こんな人間たちでも助けるべきだ」と主張する異世界トリッパーを実際に何人も見ている。
 というか、嫁の中にもそうしてルール2に抵触した人間の子たちがいたのも事実。
 ひょっとしたらイツナあたりも同じ意見を言うかもしれない。
 そういったことを防ぐために俺の黙秘を認めるルール3があるのだ。

 一方で俺は、宇宙のことを知り過ぎている。
 神々の視点や星の意思の都合、そういったものも一通り見聞きし、自分の中で消化している。
 とてもじゃないが人間だけを特別視する気にはなれない。

 とはいえ今回の件に関しては、あくまで中立。
 仮にこの異世界の神がまだ人間を見捨てていなかったとして、死を回避できる箱舟を用意したとしても邪魔はしない。

 ただ俺の所持する次元航行船を提供するなんてことだけは絶対にありえない。
 ここの異世界人は他の異世界に降り立って生き延びたら、また同じことをする。
 『星』を殺しては移住する寄生種と化すだろう。
 この世界の人間を生かすということは、他の世界の滅亡を幇助するということ。
 そんなことの片棒を担ぐのは御免だ。

 じゃあ俺が滅ぼすのはいいのかという話になるが、もちろんそんなことはない。
 前にも話した通り、負債は背負っている。
 奪った命の分まで完済するさ、きっちりな。

 とにかく、人類が死に絶えてガフの部屋に魂を還元せねば帳尻が合わない。
 母なる星に真心を込めて土下座したところで、何にもならないのだ。
 今まで食い物にしてきた星の命、その利子分だけでも死んで魂で支払うのが唯一の誠意である。

 無論、抗わずに滅びを受け入れろと言ってるのではない。
 例えば俺が同じ立場だとしたら、他の全人類を生贄にしてでも自分が助かる道を模索する。
 助かるためになりふり構うつもりはない。罪を自覚し死に甘んじるなんて、俺には到底理解できないし。
 文句を言ってくる程度の奴なら無視するが、邪魔する敵なら皆殺しだ。

 それでも自分が助かるために他のすべてを犠牲にするという考え方が悪だという自覚ぐらい俺にだってある。

 だが、救世旅団クリスタルゲインの連中はどうだ?
 どれだけ虚しい正義に基づいて行動しているのか、まるで気づく気配がない。
 自分たちが悪性腫瘍であるという自覚がないまま世界を守るなどとほざいている。

 そして俺が何より気に食わないのは、自分たちが諸悪の根源であるという事実を知らせたところで誰一人としてその事実を受け入れないであろうこと。
 というよりクリスタルゲインのメンバーに限らず、ミドガルダに住まう人間たちも十中八九同じ反応をする。
 他の異世界でも、そうだったように。

 何かの間違いだと。
 罪のない自分たちが死ぬのはおかしいと。
 自分たちは悪くない、だからこんなのは間違っているのだと、きっと本気で訴える。
 被害者面して泣き喚く。
 自分達が「悪」に属していることに耐えられないから。

 だから俺は連中に真実を知らせない。
 無駄な労力を払いたくない。
 一時の自己満足のために人類すべてに悪の自覚を抱かせるなんていう行為もできなくはないが、どうせ人の魂がガフの部屋に入れば記憶はすべて漂白される。

 だから、俺はこの異世界の人間に対して何もしない。
 何も、してやるもんか。



 脳内で戯れ言を垂れていた俺を試すような出来事が起きた。

「街の中にレフトーバーが出た!」

 赤井からの連絡で急行すると、一際でかい魚 骨レフトーバーが一匹、スラム街で大暴れしていた。
 逃げ惑う人々を容赦なく呑み込み、噛み砕き、命を奪っていく。

 いち早く到着した俺はその光景をビルの屋上から眺めていた。
 無言のまま、何もせず、漫然と見過ごし続ける。
 レフトーバーの虐殺行為に怒りを覚えることができず、ただ見守っていた。

 あの魚の骨どもが何で人を襲うのか、俺は誰よりも理解している。
 結論だけ言ってしまえば無意味。
 あいつらが人間を殺しても殺さなくても、何も変わらない。

「くっ、レフトーバーめ。俺たちが相手だ!」

 ようやく到着した赤井たちがクリスタライズして、巨大レフトーバーに躍りかかった。
 だが通常サイズより強力なパワーと防御力を誇るらしく、すぐさまクリスタルゲインが圧倒され始める。

「ぐわあっ!」

 ほどなくして青いヤツが腰から下に噛み付かれたかと思うと。

「嘘、だろ……いやだ、まだ死にたく――」

 仲間たちの懸命な攻撃もむなしく、青は丸呑みにされてしまった。

「サファイア! サファイアー!」
「くっそぉぉぉ! よくもサファイアをー!」

 次いで無謀な突撃を敢行した白がヒレで真っ二つにされ、胴体泣き別れ。

「ジ、ジェダイトまで……!」
「ルビー、まずいぜ! このままじゃ全滅するぞ!」
「まだだ! ここで退いたら、街のみんながやられる!」

 ああ……なんなんだよ、お前らは。
 何だってそんなイカサマスーツに頼っておきながら、自分たちが正義だって確信できるんだ?
 本当に何の違和感も覚えないっていうのか。

 しかも、何故負ける?
 どうしてそんなに拙い戦闘技術のまま戦っていられるんだ?
 過信か? やっぱり過信なのか?
 せっかくの無限に等しいパワーをまったく使いこなせていないぞ。
 クソが。

 あまりの体たらくに思わずため息を吐いた、まさにそのとき。

「そ、そこにいるのはオニキスか!?」

 ビルの屋上の縁で突っ立っていた俺を、赤井が目ざとく見つけた。

「何故見ているんだ! お前も戦ってくれ!」

 まあ、見つかったんじゃ仕方ない。
 一応、俺もクリスタルゲインに入ったってことになってるしな。

「クリスタライズ」

 クリスタルゲインどもの不甲斐なさに怒りを抱いたまま、変身ワードを唱える。
 俺の魂を吸い取った魂晶が変化し、黒の甲冑が全身を包み込んだ。
 命を吸われる虚脱感や気だるさも手伝って、ますますムカっ腹が立ってくる。

 こんなことなら、自分の魂を燃料にする改造なんてするんじゃなかった。
 ていうか、いっそ変身しないで普通に戦えばよかったじゃないか。何故変身したし。
 ま、いいや。わざわざ変身解除するのも馬鹿げてるし、とっとと終わらせよう。

 空中へ大きく飛び上がった巨大レフトーバーに向けて掌を掲げ、念動力サイコキネシスを飛ばす。
 見えざる手でレフトーバーの全身をがっちり掴み、その自由を完全に奪った。
 魔法じゃなくて超能力サイキックチートだから無効化されない、なんて屁理屈はそれこそ戯れ言だよな。
 まあいいや。悪いが八つ当たりさせてもらう。

「ファイナライズ」

 前と同じ。全身を襲う絶対零度と、右足だけに強烈な灼熱感。
 俺の胸に燃え盛ったクリスタルゲインへの怒りがまるごと右足に転移したかのような錯覚を覚える。

「ライザー・キック」

 無防備に硬直した巨大レフトーバーに飛び蹴りを放つ。
 必殺の蹴りは骨の背骨を貫通し、衝突と同時に発生した爆発の衝撃波が巨大レフトーバーを跡形もなく吹き飛ばした。
 余波だけで消えるなんてこともなかったので、ほんの少しだけどスッキリできたな。

「す、すごい。あのでかいのを一撃で……!」
「なんて強さだ!」

 着地と同時に変身解除すると、赤井とトパーズが喜びとともに駆け寄ってくる。

「おい、オニキス!」

 そんな中、緑色……エメラルドが俺に食ってかかってきた。

「どうしてもっと早く来てくれなかった! あれだけの強さがあるなら、サファイアとジェダイトだって……」
「触るな」

 俺の胸倉を掴もうとしてきたエメラルドの手を跳ね除ける。

「イライラするんだよ」
「な、なんだと」

 エメラルドだけでなく赤井とトパーズも睨み据え、はっきりと宣言した。

「お前らを見ていると、イライラするって言ってんだよ!」

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