チートスキルはやっぱり反則っぽい!?

なんじゃもんじゃ

チート! 044 最愛の人

 


 拠点に帰ったシローをクルルが迎え入れてくれた。
 シローの表情を見たクルルは目的を果たせたのだとささやかな膨らみしかない胸をなでおろす。
 しかしシローの表情に比べアズハとジーナの表情は暗い。
 これはレジーの存在感に圧倒され動けなくなったことが心に引っかかっているのだ。
 しかしシローは2人を役立たずだとは思っていない。
 シローだから勝てた相手であり、いくら人外になりつつあったアズハたちでも数万年も生きた怠惰の魔王には赤子も当然だっただろう。


「スノー、待たせたな。今解放してやるからな」


 シローは早速スノーの前に立つ。
 そして自分が持てる全てをかけ【神聖魔法】による解呪を試みる。
 膨大な魔力による神聖な光がスノーを閉じ込める真紅のクリスタルを包み込む。
 この光景を後ろで見ていたアズハ、ジーナ、クルルの3人はその神々しい光の奔流にただただ見入ってしまうほどである。


 光の奔流がクリスタルを完全に包み、ここでシローが出したものは怠惰の魔王レジーの核である。
 呪いをかけた者の死を宣言するかのようにその核を高々に掲げる。
 すると解呪の光が核を取り込むように広がる。
 そして解呪の光に飲み込まれた核が抗おうとするように振動する。
 核が光を拒絶するように振動する中、シローはただひたすら解呪に集中する。


「だ、大丈夫なのか?」


 核が解呪の光を拒絶する様を見ていたジーナが思わず声を漏らす。


「……大丈夫です!ご主人様ですから!」
「はい、ご主人様なら大丈夫です!」


 アズハとクルルは両手をギュッと握りシローとスノーを信じる。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 時は流れシローは16歳になっていた。
 今日は魔導王国セトマの賢者であるフリンボの生誕を祝う祭典の日。
 今年で500歳となるフリンボの誕生日を盛大に祝うために鉱山都市フリオム全体がお祭り騒ぎである。


 ドワーフは人族よりも長生きだが、それでも寿命は400歳程度だ。
 しかし賢者フリンボは500歳の誕生日を迎え、未だにシャキシャキと歩く姿が若さをうかがわせる。


 フリンボの誕生日を祝う為に魔導王国セトマ国内だけではなく外国からも特使が訪れフリンボに祝辞を述べる。
 そんな中に冒険者風の5人が姿を現す。
 貴族から見ればその出で立ちは祝いの席に相応しくないと言うだろう。
 しかし誰もその5人に注意する者はいなかった。
 5人の中の1人がヤバいやつだからだ。


「じーさん、長生きだな」
「ほほほほ、まだまだピンピンしておるぞ」


 傍から見れば不敬な物言いだが、フリンボに話しかけた男は魔導王国セトマで最も知られている冒険者であり、フリンボとも馴染みであることは有名なので誰も注意はしない。


「もう、ご主人様はフリンボ様に失礼ですよ」
「そうだぞ、シロー殿。今日は目出度い日なのだから騒動は起こさないようにと言っておいただろ」
「む……俺は何も悪いことはしてないぞ……」


 こんな主従にフリンボは軽やかに笑い声をあげる。


「おじ様、お誕生日おめでとう御座います。もっと、も~っと長生きしてくださいね」
「ほほほほ、クルルに言われたらあと百年は生きねばな」
「じーさん、生き過ぎだろ」
「ほほほほ、今はクルルの成長を見るだけがこの老体の楽しみなのだ」


 既にクルルの鍛冶師としての腕はフリンボをも超えているが、フリンボはクルルがどこまで行くのかを見てみたいのだ。
 それは孫を見守る好々爺のようであるが、正直言うと鍛冶の神髄を見てみたいという好奇心の方が強い。


「フリンボさん、お誕生日おめでとう御座います」
「おお~スノー殿。今日は一段と綺麗じゃな」
「あら、フリンボさんでもお世辞を仰るのですね」
「ほほほほ、この爺はこれまで一度たりともお世辞など言ったことなどないぞ。それはこれからも同様じゃよ」
「おい、じーさん、俺のスノーに色目を使うなよ」


 スノーとフリンボの社交辞令の挨拶を真に受けたわけではないが、シローがくぎを刺す為に割り込む。


「ほほほほ、この爺はスノー殿を口説くなどという命知らずではないぞ。お主のような化け物を敵にするほどこの爺は耄碌しておらぬわい」


 怠惰の魔王レジーを倒し、スノーを解放したシローは一躍有名人となった。
 しかも誰もが踏破できなかった『炎の迷宮』を踏破したのだからシローを取り込もうと魔導王国セトマだけではなく、国外からもスカウトが現れるほどの騒ぎとなったのだ。


 しかしシローはそういった話を全て断り、自由な冒険者を続けた。
 偉業を成し遂げたとは言え、平民のシローが国や貴族の誘いを断ったことに不快感を持った貴族もおり、何度か衝突する事態が発生したこともある。
 しかしシローは相手が誰であろうと、どんな存在であろうと自分の自由と仲間を脅かす存在を許すわけがなかった。
 シローによって滅ぼされた国と貴族の数は片手では済まないのだ。


「ほほほほ、シロ―殿、スノー殿、そして皆の者、今日はこの爺の為に集まってくれたことを感謝する。今日は楽しんでいって下され」
「そうさせてもらう。おめでとう」


 シローはスノーの肩に手を回し抱き寄せるとそのままスノーの肩を抱きながらフリンボの前を辞する。


「もう、公衆の面前で何をするのですか」
「俺のスノーがとても美しいから見せつけてやっているんだ。ほら、アイツなんかハンカチを噛み破る勢いだぞ」


 軽やかに笑い声をあげるシローの指した先には何度もスノーにプロポーズをしている他国の貴族の姿があった。


 あの日、スノーの呪いを解除したシローは決してスノーを放さないと心に誓った。
 誰が来ようと、それが例え神だろうとシローはスノーの為なら戦う。
 そして神であろうと滅ぼすと強い意志を持ったのだ。
 もう二度とスノーを呪われたり、攫われたりしないと、必ず守ってみせると自分自身に誓ったのだ。


「スノーと皆がいれば俺は幸せだ」
「私もシローの傍にいることができて幸せよ」


 二人の雰囲気はとても良い。周囲から注目されているにも関わらず二人の世界に入りピンクな雰囲気を醸し出す。


「ゴホンッ!」
「ゴホンッ!」
「ゴホンッ!」


 見かねたアズハ、ジーナ、クルルが咳ばらいをする。
 そんなことはお構いなしとシローはスノーに熱い口づけをする。


 ここには国の重鎮や諸外国からの使者も多くいるというのにシローはお構いなしだ。
 その中には冒険者ギルドの重鎮として祭典に参加したカリン・ファイフォーレンの姿もあった。
 カリンはシローがこの世界でのシーロだったころの母親であり、決別した相手である。
 シローとしては既に過去の人だが、カリンにしてみればシローがシーロだと考えているのだから二人の間には大きな隔たりがある。


「シーロ……」


 シーロの存在を隠すためにシーロを屋敷に閉じ込めていたのには理由がある。
 その理由をシローは知らない。
 お互いの気持ちがすれ違う親子。
 しかしシローが立派に独り立ちし、魔王まで倒したのだから母親としては嬉しいことだった。
 このまま母親と認めてもらえなくても良いが、できれば親しく話をしたいと思う。
 しかしカリンが一歩足を踏み出すとシローは二歩遠ざかる。
 まるでカリンを避けているかのように。


 シローはスノーの温もりを感じ、幸せを享受する。
 しかし世界は再び動き出した。
 魔王たちが人間を滅ぼそうと牙を研いでいたのだ。
 そしてシローがシーロだったころ過ごしたエスペノ王国は勇者を召喚することを発表した。
 シローは否が応でもこの戦火に巻き込まれていくのだった。


 

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