甘え上手な彼女3 秋編

Joker0808

第8話




「はぁ……最悪」

 朋香は家に帰ってベッドに横になっていた。
 ただでさえ、しつこく交際を申し込まれ不機嫌だったのによりにもよって、赤西から助けられてしまった。

「ムカつく……」

 しかもあの助け方は正直気にくわない。
 下手をしたら、自分の悪評が広まってしまうと考えながら、朋香はスマホを取り出し友人にSNSで愚痴を溢す。

「……昔か……」

 友人達からの返信を見ながら朋香はそんな事を呟く。
 朋香は立ち上がり、机の引き出しにしまった一枚の写真を取り出す。

「………馬鹿」

 写真には小学生の時の朋香と赤西が写っていた。
 二人とも楽しそうに笑っており、今の関係からは想像も出来ない写真だった。





「ふあ~あ、眠いなぁ……」

 赤西は鞄を持って学校に向かっていた。
 昨日は夜遅くまでゲームをしていたせいか、いつも以上に眠気が強く、赤西は大きな欠伸をしていた。

「よーっす赤西」

「おぉ、繁村か。おはようさん」

 学校に向かう道すがら、赤西は繁村とバッタリ会った。
 繁村も眠そうな顔で、背中を丸めて登校している。

「来週はクラスマッチだな」

「あぁ、そのときに絶対活躍して彼女を!!」

「だな!」

 そんな話しをしながら、赤西と繁村は闘志を燃やす。
 昇降口に到着し、どうやったら活躍しているところを女子にアピール出来るかを話していると、内履きを取ろうとした赤西の下駄箱から、小さな手紙がひらりと落ちた。

「ん? なんだこれ? ……はっ! も、もしかして!! これってラブ……」

「不幸の手紙だろ?」

「なんでそうなるんだよ! ラブレターかもしれないだろ!」

「いや、不幸の手紙か果たし状だろ? お前にラブレターなんて届いてたら、俺は失神しちまう」

「う……た、確かに否定出来ない……」

 今までの人生を考えると、赤西は否定出来なかった。
 赤西は恐る恐る手紙を拾い上げ、封を開けて中身を見る。
 繁村も横からニヤニヤしながらのぞき込む。

「えっと……『初めまして赤西先輩。突然のお手紙でごめんなさい、よろしければ放課後、屋上に来て下さい、伝えたいことがあります』」

「は……ははーん……これは屋上でリンチにするって事だぜ? お、俺は騙されねーぞ!」

「いや、どう考えてもラブレターだろ!? とうとう俺にも春が……」

 手紙を握りしめて涙をにじませる赤西。
 繁村は顔を歪ませながら、信じられないと言った様子で赤西の手紙を読み返す。

「お、俺は信じない! 信じないからな!!」

 赤西がラブレターを貰ったという噂は瞬く間にクラス中に知れ渡った。
 
「大変だぁぁぁぁぁ!!」

「え!? 赤西が!?」

「そんな馬鹿な!!」

「情報は確かなのか!?」

 クラスの男子はその事実に驚愕し、同時にこんな考えも出始めた。

「誰かのイタズラなんじゃないか?」

「あぁ~それだわ」

「可愛そうに……舞い上がっちまって」

「まぁ、あの赤西がラブレターなんてあるわけないか!」

 赤西のラブレターが偽物説が浮上し、クラスの男子はそこまで事を大事にはしなかった。
 その話は当然朋香にも入ってきた。

「え? あの馬鹿にラブレター?」

「らしいよ? でも、男子は絶対に誰かのイタズラだって言ってるけど」

「ふーん……まぁ、そうなんじゃない? あいつモテそうにないし」

「だよねぇー。でもさ、赤西の事を知らない他のクラスの女子とかならもしかして……」

「無いわよ、あの赤西よ?」

「まぁ、それもそうね」

「赤西だし」

 朋香も他のクラスメイト同様に、誰かの噂だと思っていた。
 しかし本人は……。

「フフ……フフフ……」

「おい、高志」

「なんだ優一?」

「あの気持ち悪いの……赤西か?」

「そうみたいだな……」

 当の本人である赤西は浮かれまくっていた。
 顔をニヤニヤさせながら、何かを考えている様子だった。

「ラブレター……赤西にねぇ~」

「まぁ、内容は呼び出しなんだろ? まだラブレターだと決まったわけじゃ……」

「そういうお前は、宮岡に呼び出されて告られたんだろ?」

「いや、まぁそうだけどよ……」

 高志と優一が話しをしていると、泉がやってきて話しに入ってきた。

「なんで、赤西君がラブレターを貰うとこんなに大騒ぎなるの?」

 泉はまだ転校してきたばっかりで、赤西の事をよく知らない。
 その為、なぜこんなにも騒ぎになっているのか泉は不思議だった。

「あぁ、赤西はな………」

 高志は赤西の事を泉に説明する。
 赤西は以前から彼女が欲しくて欲しくてたまらなかったのだが、毎回彼女持ちの男やカップルを嫉んできた事から、女子にあまり人気が無く、さっぱりモテ無い。
 だから今回の事がこれだけの騒ぎになっているのだ。

「……っと言うわけでな……赤西に限らずだが、うちのクラスはそういう奴らばっかりだから、前提としてこのクラスの男子はモテない」

「ふーん。でも八重君も那須君も彼女いるよね?」

「あぁ、だから俺たちはこのクラス男達からは、常に命を狙われている」

「そんなクラス嫌じゃない?」

 泉は苦笑いをしながら高志と優一に尋ねるが、高志も優一もそんな生活に慣れてしまっていた。

「ち、ちなみにさ……八重君の彼女の宮岡さんって……」

「紗弥に何かようか?」

「おい高志、顔が怖いぞ。泉が怯えてるだろ」

「え? あぁ……ごめんごめん」

「まったくお前は……で、宮岡がどうかしたのか?」

 紗弥の名前をだし出しただけで、表情を一変させた高志に泉は若干怯えながら、続きを話す。

「あ、いや……聞きたかったのは宮岡さんの友達の御門さんの事なんだけど……」

「え? 御門?」

「なんで御門の事なんか聞くんだよ?」

「そ、それは……なんて言うか……」

「ん? お前もしかして……」

 泉の気持ちに気がついたのは優一だった。
 しかし、優一はそんな泉を気の毒そうに見つめ、一言言葉を掛ける。

「あいつはやめといた方がいいぞ?」

「え! な、なんでそんな事を?」

「いや……なぁ、高志?」

「え? なんの話し?」

「あぁ、お前はもう良い。お前はこういうのは鈍感だもんな……」

 優一はため息を吐き、泉にだけこっそりと耳打ちをする。

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