異世界を楽しみたい転生者
第143話少年期[133]心労な従者と見当違いな従者
ラルはこれからダンジョンでどんな奴と戦えるのかという楽しみと、久しぶりにゼルートと一緒にいれるという楽しみがあったので全くもってマイペースだった。
だがソブルは隣に自分と同じように馬を操りながら座っている同僚の雰囲気に気分を害され、かなり気分は最低だ。
ローガスはゼルートの模擬戦から負けてからずっと機嫌が悪い。
ソブルはローガスがゼルートに手も足も出ず負けた事に関して、全く驚く事はなかった。
ソブルは基本的にこの五人で行動するときは情報収集をかかさないので、ルウナの事はドーウルスでゼルートに奴隷として買われてからの事しか分からなかったが、アレナとゼルートの事は大体調べる事が出来た。
今回情報収集をしてゼルートの事を知れた事に、ソブル本当に良かったと思っていた。
ゼルートが七年前に貴族の子息三人と戦って全財産を勝ち取った話題は、ゼルートの兄と姉が残した話より有名だ。
ソブルも当時その話題を耳にして、かなり印象深く残っていた。
それから七年後の今、もう一度その事を鮮明に調べることが出来て良かったと思っている。
当時のゼルートの家の爵位は男爵、相手の貴族の爵位は侯爵と伯爵。
侯爵、伯爵が男爵に喧嘩を売って何かを奪っていく事はよくあることだが逆はまずはない。と言うかあり得ない。
そんなことをすれば権力で家族、領地ごと潰されてしまうからだ。
(そう考えるとゼルート君は賭けの内容を全財産という良い内容にしたもんだな。何かを動かせる金がなければ権力なんてあってないような物だからな。それに倒し方も良かったな。相手にも攻撃をさせながら余裕の表情で完膚なきまでに倒す。まぁ、最後の倒され方は男としては同情するところはあるが、相手の力量をしっかりと把握できず喧嘩を売ったバカ共には良い末路だろうな)
そう思いながらソブルはとなりのローガスを若干呆れた目で見た。
となりの同僚は相手と相手の力量を読み間違える事はあっても、実際に闘って相手と自分との力量差が分からないほどバカではない。
おそらく体は分かっている筈だ。だが貴族特有の凝り固まった面倒なプライドが認めようとしないのだろう。
ソブルはローガスには確かに才能はあると思う。だがゼルートの才能、センスはローガスとは比べものにならないだろうと思った。おそらくローガスの得意な得物、槍をゼルートが使っても勝負に勝つのはゼルートだろうと思った。
(そもそも高等な魔法の指導を受けてる筈の上の爵位の三人相手に余裕の表情で余力を十分に残して、圧倒的な差を見せつけて勝つような奴だ。それにおそらく自分の才能に胡坐をかいて基礎の鍛錬を怠るようには見えない。それに冒険者は俺達騎士や貴族と比べて戦闘手段の手札は多い、自分の命を懸けた戦いには冒険者の方に軍配があるだろう。まぁ、それを言ったところでこいつの機嫌が直ることはないだろうな。というか余計に悪化するのが目に見える)
ソブルはローガスから視線を逸らしため息をついた。
ローガスはドーウルスの街を出てから不機嫌さマックスだった。
出発してから貧乏ゆすりが全く止まらない。
原因は単純解明。ゼルートに摸擬戦で完膚なきまでに負けたからだ。
途中まではローガスも摸擬戦ということもあり、殺すような攻撃はしなかった。
だが、あまりにもローガスの攻撃は当たらず相手の自分をバカにするような目に、ローガスの理性はブチ切れゼルートを殺す気で攻撃を始めた。脳や心臓、急所をためらうことなく攻め始めた。
だがそれでもローガスの攻撃はゼルートに当たることはなかった。それどころかゼルートが攻撃に転じると、避けるという選択肢しかなく、気づけば逃げ道がなくなり投げられ頭の横に剣を刺され惨敗に終わった。
ゾブルが思っているようにローガスの体は敗北を、ゼルートとの力量差を認めていた。実際にローガスがゼルートとの摸擬戦を思い出すたびに体が震えていた。
だがローガスの貴族としてのプライドが絶対にそれを絶対に認めようとはしなかった。
(なぜだ、なぜだ。何故だ何故だ何故だ!!!??? 何故私があのような薄汚い冒険者に負けたのだ!!?? 貴族の私があのような者に負けるはずがない、そんなことあってはならない!!! そうだ、あいつが何か汚い手を使ったに違いない。そうでなければ私が負けるはずがない。私がそれを見つけ出し、セフィ―レ様の目を覚まさせなければ)
それ故とんでもなく見当違いなことをローガスを考えていた。
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