暗黒騎士物語

根崎タケル

闇の女王モーナと魔界の宰相ルーガス

 闇の女王モーナは魔王宮の一室を訪ねる。

「これはこれは、モーナ様、よくぞこのような場所においでくださいました」

 一室に入ると、部屋の主人である老人が出迎える。
 その老人はモーナに恭しく頭を下げる。見た目は普通の人間だがランフェルドと同じように頭の左右に角が生えている。
 老人の名はルーガス。かつてはモーナの最愛の夫モデスと同じように闇の神々の一柱で、従属する者である。
 エリオスを追放された時、知識をつかさどる神である彼は一緒にナルゴルへと来た。 
 そして、今ではナルゴルの宰相である。
 この世界で最高の知識を持つが、戦いの力は弱く、勇者との戦いには参加しなかった。

「頭を上げなさい。ルーガス」

 モーナが、そう言うとルーガスは頭を上げる。
 そして、ルーガスは部屋の中央にある椅子へと案内する。

「今日はどのような用事でございますか? モーナ様?」
「ルーガス。クロキ殿の事をどう思いますか?」
「クロキ殿ですか?」

 先日の戦い。城に居る者全員がその様子を見ていた。当然このルーガスも見ているはずだ。

「非常に強いお方だと思います、あの勇者を倒したのですから。心強いお方が味方になったと思っております」
「そうですね。確かにクロキ殿は強い。あの恐ろしい勇者をたった一人で打ち負かしたのですから。ですが、だからこそ考えなければいけない事があります」

 ルーガスが首を傾げる。

「と申されますと?」
「知っていますかルーガス。カーサという女神の予言によるとモデス様を倒す勇者は異界から来た男なのだそうです。そしてクロキ殿も異界から来た男ですよ」
「!?」

 ルーガスが驚いた顔をする。

「まさか……。モーナ様は……」
「はい、クロキ殿がその勇者という可能性もあると見ています。モデス様に危害が及ぶようなら、場合によっては始末しなければならないでしょう」

 ルーガスはモーナの言葉に驚く。

「しかし、モーナ様。勇者の侵攻により。魔王軍は壊滅状態です。クロキ殿に対抗するなど無理でございます」

 ルーガスは説明する。
 再建が簡単なのは数が増えやすいゴブリン族と、替えがきくアンデッド達ぐらいで、他の種族は再建にかなり時間がかかる。
 特にランフェルドと同じデイモン族が壊滅的である。 
 そのデイモン族の精鋭である暗黒騎士団は、先日、勇者によって壊滅状態になっている事をモーナは思い出す。

「デイモン族は長命ですが増えにくく、元通りの戦力を回復するまでに時間がかかりますモーナ様」

 ルーガスはそう説明する。

「そうですか……、ランフェルドも頭が痛いでしょうね」
「それにモーナ様。たとえ軍が再興できてもクロキ殿には敵いませぬ」

 魔王軍を壊滅させた勇者。
 その勇者を倒した者を倒す事は、魔王軍をたとえ再建しても無理だとルーガスは説明する。

「むしろ、クロキ殿が現時点での魔王軍の最高戦力であります。そのクロキ殿は今や魔族の英雄。できれば敵と考えたくありませぬ」

 ルーガスが困ったように言う。
 ナルゴルの中心種族である魔族の士気が下がる事はしたくない。それがルーガスの意見であった。「クロキ殿を敵に回したくないのは、私も一緒です。ですが万が一を考えておく必要はあります」

「あのモーナ様、この事を陛下は……」
「いえ、モデス様は私がクロキ殿を危険だと思っていることを知りません。それにモデス様はクロキ殿をお気に召したようです。どうも御自身と同じ匂いがするのだと……」

 モーナにとって最愛の夫であるモデスはクロキを厚遇している。
 裏切るとは微塵も考えていないようであった。

「それに、モデス様は嘘を吐く事ができないお方。私の懸念を伝えるとそれが態度に出てしまいましょう。ですからこの話は内密の話なのですよ、ルーガス。ナルゴル一の知恵者と言われるあなたには、もしもの時の事を考えてもらわねばなりません。どんなに強い者にも何らかの弱点はあるかもしれませんからね。彼の情報を集めておいて損はないでしょう」
「なるほど、確かに情報は大事ですからな……。わかりました、モーナ様。それでは誰かをクロキ殿のお付にしましょう。もし裏切るような事があれば、さすがにその者が知らせてくれるでしょう」
「頼みましたよ。ルーガス」

 その後、二言三言話すとモーナは部屋を出る。
 モーナは先程のルーガスの態度を考える。 
 ルーガスはクロキを危険だと思っていなかったようであった。

「ルーガス。ナルゴルで一番の知恵者も、危険を認識していない」

 モーナはその事を歯痒く思う。
 異界から来た者等は利用するだけで良いとモーナは考える。
 そして、愛する者を守る事をモーナは誓う。

「ああ愛しのモデス様。あなたはこのモーナが必ず守りますわ」
 

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