セブンスソード
87
彼女の綺麗な瞳がそっと開く。
「あの子はね、昔は今みたいに明るく元気な子だった。知ってる? 私たちが人間じゃなく作り物だってこと」
「ホムンクルス、だってことだろ?」
「うん。私たちの肉体はしょせん作り物。そこに魂を注がれた人間のような人形。だから私と日向の関係もすべてデタラメなのよ。本当の姉妹じゃない」
「そんな」
でも、そう言われればそうなのかもしれない。ホムンクルスに血縁なんていないし、それなら本当の兄弟姉妹はあり得ない。
「でもね」
だけど、此方はそこに悲観なんてしていない。むしろ口調は明るいくらいだ。
「なんでかな。昔からあの子を知っている気がするんだ。初めてなんかじゃない。今よりももっと別のところで、あの子とは一緒だった。そんな気がするの」
此方は自分で言っていておかしいと笑っている。
「変だと思うでしょ? そんなのただの思い入れだって、私も頭で理解はしているんだけどね」
「いいや、そんなことはない」
「? どうして?」
彼女の話に俺は確信を持って言う。
俺たちの魂には前世がある。ここではない時代を生きた歴史がある。俺はそれを知っている。
「もしかしたら、此方たちは魂だった時に本当の姉妹だったんじゃないか? 肉体は作り物でもさ、魂は本当の人間だったと思うんだ。その時の、人間だった時の思いが今でも続いている。俺はそう思うよ」
香織と初めて出会った時、彼女に抱いた不思議な気持ちの数々。今思えばそれらも魂に刻まれたかつての残滓(ざんし)だったんだな。
「そっか。そういう考え方もあるのか」
俺の話を聞いてしみじみとつぶやいている。その表情はどこか安心したような、ホッとした顔をしている。
「ありがと。なんか、嬉しかった」
「いいさ、俺は別に」
別段なにもしていない。それでも彼女の気持ちが楽になったのならよかった。
「もしそうなら、あの子は昔からの私の宝物なんだと思う。すごく大事なんだ。あの子は私に守られたって言ってたかもしれないけど、あの子のそばにいるととても安らぐのよ。だから、救われてるのは私の方。感謝したいのは、私だわ」
「そっか」
此方がそう言うならきっとそうなんだろう。それに日向のそばにいると安らぐというのは俺も分かる。あの子がいるだけで周りの雰囲気がパッと明るくなる。そんな光を彼女は持っている。
「そんなあの子が怯えているのは辛かった。なんとかしたいと思ってもあの子の不安を全部取り除くことは出来なかったから。見えない五人の敵。その恐怖だけは消せなかったのよね」
なるほど。日向ちゃんが落ち込んでいたら俺も嫌だな。どうにかしたいけど、見えない恐怖までは消しようがない。
「でも、そこにあんたが現れた」
俺が。
「敵だけじゃない。味方だっている。仲間になってくれる人はいる。あんたはあの子の希望になったのよ。あんたが現れてから日向はよく笑うようになったわ。感謝してる」
「どうしたんだよ、俺に感謝するなんて」
「そうね。でも、事実だし」
此方はまたも小さく笑うと俺を横顔で見つめてくる。
「あの子はあんたのことを信頼してる。好きなのよ、あんたのことが」
「…………」
その顔は、優しく笑っていた。
「だからね、あの子を裏切るようなこと、悲しませるようなことはしないで」
「当たり前だ、するわけないだろ」
「うん。そう言ってくれると思った」
此方は俺から視線を移すと紅茶を見下ろす。
「こんなことを頼むのもあれなんだけどね」
なんだろうか。彼女の頼みならできる限り応えていきたい。
「聖治。お願い、あの子を守ってあげて」
そんな当たり前のことを? と思ったけど、すぐに内心で顔を振る。ううん、これはそんな簡単なものじゃない。此方は真剣に頼んでいる。
あの子を守って欲しいと。自分の大切な妹を、俺に託してくれたんだ。
「私もがんばる。あの子を守りたいってそう願っているわ。でもね」
彼女の表情に陰が刺す。目が細められ、気持ちが萎んでいくのが分かる。
「怖いんだ、考えると今でも手が震えそうになる。不安なの。それは自分が命を落とすかもしれない、それもあるけど、本当に怖いのは別」
セブンスソードは七人の殺し合い。もしかしたらそれで命を落とすこともある。俺だって殺された。それはとても怖いことだ。
「あの子はね、昔は今みたいに明るく元気な子だった。知ってる? 私たちが人間じゃなく作り物だってこと」
「ホムンクルス、だってことだろ?」
「うん。私たちの肉体はしょせん作り物。そこに魂を注がれた人間のような人形。だから私と日向の関係もすべてデタラメなのよ。本当の姉妹じゃない」
「そんな」
でも、そう言われればそうなのかもしれない。ホムンクルスに血縁なんていないし、それなら本当の兄弟姉妹はあり得ない。
「でもね」
だけど、此方はそこに悲観なんてしていない。むしろ口調は明るいくらいだ。
「なんでかな。昔からあの子を知っている気がするんだ。初めてなんかじゃない。今よりももっと別のところで、あの子とは一緒だった。そんな気がするの」
此方は自分で言っていておかしいと笑っている。
「変だと思うでしょ? そんなのただの思い入れだって、私も頭で理解はしているんだけどね」
「いいや、そんなことはない」
「? どうして?」
彼女の話に俺は確信を持って言う。
俺たちの魂には前世がある。ここではない時代を生きた歴史がある。俺はそれを知っている。
「もしかしたら、此方たちは魂だった時に本当の姉妹だったんじゃないか? 肉体は作り物でもさ、魂は本当の人間だったと思うんだ。その時の、人間だった時の思いが今でも続いている。俺はそう思うよ」
香織と初めて出会った時、彼女に抱いた不思議な気持ちの数々。今思えばそれらも魂に刻まれたかつての残滓(ざんし)だったんだな。
「そっか。そういう考え方もあるのか」
俺の話を聞いてしみじみとつぶやいている。その表情はどこか安心したような、ホッとした顔をしている。
「ありがと。なんか、嬉しかった」
「いいさ、俺は別に」
別段なにもしていない。それでも彼女の気持ちが楽になったのならよかった。
「もしそうなら、あの子は昔からの私の宝物なんだと思う。すごく大事なんだ。あの子は私に守られたって言ってたかもしれないけど、あの子のそばにいるととても安らぐのよ。だから、救われてるのは私の方。感謝したいのは、私だわ」
「そっか」
此方がそう言うならきっとそうなんだろう。それに日向のそばにいると安らぐというのは俺も分かる。あの子がいるだけで周りの雰囲気がパッと明るくなる。そんな光を彼女は持っている。
「そんなあの子が怯えているのは辛かった。なんとかしたいと思ってもあの子の不安を全部取り除くことは出来なかったから。見えない五人の敵。その恐怖だけは消せなかったのよね」
なるほど。日向ちゃんが落ち込んでいたら俺も嫌だな。どうにかしたいけど、見えない恐怖までは消しようがない。
「でも、そこにあんたが現れた」
俺が。
「敵だけじゃない。味方だっている。仲間になってくれる人はいる。あんたはあの子の希望になったのよ。あんたが現れてから日向はよく笑うようになったわ。感謝してる」
「どうしたんだよ、俺に感謝するなんて」
「そうね。でも、事実だし」
此方はまたも小さく笑うと俺を横顔で見つめてくる。
「あの子はあんたのことを信頼してる。好きなのよ、あんたのことが」
「…………」
その顔は、優しく笑っていた。
「だからね、あの子を裏切るようなこと、悲しませるようなことはしないで」
「当たり前だ、するわけないだろ」
「うん。そう言ってくれると思った」
此方は俺から視線を移すと紅茶を見下ろす。
「こんなことを頼むのもあれなんだけどね」
なんだろうか。彼女の頼みならできる限り応えていきたい。
「聖治。お願い、あの子を守ってあげて」
そんな当たり前のことを? と思ったけど、すぐに内心で顔を振る。ううん、これはそんな簡単なものじゃない。此方は真剣に頼んでいる。
あの子を守って欲しいと。自分の大切な妹を、俺に託してくれたんだ。
「私もがんばる。あの子を守りたいってそう願っているわ。でもね」
彼女の表情に陰が刺す。目が細められ、気持ちが萎んでいくのが分かる。
「怖いんだ、考えると今でも手が震えそうになる。不安なの。それは自分が命を落とすかもしれない、それもあるけど、本当に怖いのは別」
セブンスソードは七人の殺し合い。もしかしたらそれで命を落とすこともある。俺だって殺された。それはとても怖いことだ。
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