セブンスソード

奏せいや

85

「ううん。なんだか喉がつっかかって。……ゴホ」
「大丈夫か?」
「日向、ちょっと見せて」

 すぐに此方が駆け寄り日向ちゃんの額を触っている。

「ちょっと熱があるんじゃない? 風邪かもしれない。まさか、昨日夜更かししたから」
「なぜ俺を見る」

 しかも目つきがきつい。

「そういえば日向ちゃん、昨日はお風呂上がりで来ただろ? それで体が冷めたんじゃないか?」
「そんな~。これくらい大丈夫だよ。……ゴホ」
「これは休んだ方がいいな」
「私も賛成よ。ほら、自分の部屋に戻って布団に入る。食事は持って行ってあげるわ」
「ええ~。私もここにいる。聖治さんの隣にいるう~!」
「わがまま言わない!」

 まるで子供を叱りつけるお母さんのようだ。此方は日向の手を引いて玄関に向かっていく。

「聖治さ~ん!」
「んー」

 そう言われてもな。

 日向ちゃんは片手を俺に伸ばし助けを求めてくるが風邪なら休んだ方がいいしな。
 俺は二人を見送る。それからしばらくすると此方が一人でやってきた。

「日向ちゃんは?」
「ベッドで横になってる。まったくあの子は。見境がないというか一直線なんだから」
「素直なんだろうな。おまけに元気だ」
「まあね」

 そうつぶやく此方は疲れた笑みを浮かべる。

「食事まだだったでしょう? 座ってて、今用意してあげる」
「冗談言え。さすがの俺だってトーストくらい作れるぞ」
「そう。ならお願いするわ」

 俺たちはそれぞれ朝食を食べるため用意し始めた。此方は冷蔵庫からたまごとベーコンを取り出しスクランブルエッグを作ってくれた。俺もトースターにパンをセットして焼き上げる。それぞれの調理が終わり皿に盛り付けた。

 テーブルに座る。牛乳が注がれたグラスにトーストとスクランブルエッグとなかなかに豪華な朝食だ。

 が。

「誓うわ。あんたには絶対料理はさせない。ううん、食べ物を触らせない」

 此方が見下ろす先にはやたら焦げ目の強いトーストがある。どうやら時間設定を間違えたらしい。

「見た目で判断するな、中身はいいやつかもしれないぞ」
「そんなわけないでしょ、全身が炭になるような生き方してきたやつのどこかいいやつなのよ」
「いいから食ってみろって。食べてみなくちゃ分からないだろ」

 俺たちは同時にその黒いトーストを口に入れる。

「苦い」
「苦いな」

 くっそ苦い。駄目だこれ、完全にまずいわ。

「このトーストも可哀想に。まさか自分がここまで焼かれるとは思わなかったでしょうね」
「日焼けサロンかと思って行ってみれば焼却場だったような衝撃だろうな」
「はぁあ、油断したなぁ」

 俺の失態に此方が盛大にため息を吐いている。止めてくれよ、胸に刺さるだろう。

「悪かったよ、まさか俺だって自分がこんなに下手くそだとは思わなかった」
「逆に教えて欲しいんだけど、こんなに便利な世の中になったのにトーストすらまともに作れないなんて。あんたの無能ぷりはどうやったら救えるの?」
「とりあえずその毒舌を止めてくれ、それで心は救われる」

 この際無能でいいから俺の心をこれ以上メッタ刺しにするのは止めてくれ。

「もしあれなら作り直そうか? それは俺が責任持って食べるからさ」
「いいわよ、表面は削れば食べれないことないし」
「めんどくさいな」
「あんたが言わない」
「そうでした」

 俺たちはナイフでトーストの表面を削っては朝食を進めていった。ちなみにスクランブルエッグはケチを付けられないほどおいしかった。

 そうして朝食を終えなんとか一息つき俺たちはテーブルでコーヒーを飲んでいる。

「日向ちゃんだけどよかったのか?」
「あの子の分はもう出してあるわよ。おかゆだけなら簡単だし」
「そうか。それと今更なんだけどさ、俺たち学校はどうしてるんだ?」

 昨日今日と平日だ。昨日はいろいろ動揺していて気が回らなかったが俺たちは学生で、いつもなら学校に通っているはずなんだが。

「最近は行ってないわよ。体調不良ってことで無理矢理休んでる。セブンスソードなんてものの真っ最中に行けるわけないでしょ」
「それもそうだな」

 確かにその通りだ。前の世界では学校が集合場所みたいになっていたから通学していたけれど、此方や日向ちゃんだけならその必要はないんだよな。下手に危険を冒すことないか。

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