セブンスソード

奏せいや

80

「うん、うまい!」

 口に広がる豚肉のうまみとたまねぎの甘さ。ごはんが進む。口直しにキャベツの千切りがちょうどいい。細く切られていてしゃきしゃきと食べやすい。うまい、なんでだろ、涙が出てきそうなほど俺は今感動している!

「まじでうまい、天才じゃないのか?」

 言ったあとすぐに生姜焼きとごはんをかき込む。

「な、なによ。そこまで言わなくてもいいじゃない。こんなの普通かちょっとうまい程度よ」

 賞賛に此方は遠慮がちに答えているがそんなことはない。

「いいや! これは最高だ、これを生きているうちに食えてよかった!」
「ちょっと、恥ずかしいからやめてくれない? 大げさなやつね」
「うふふ、聖治さんったらほんとにおいしそう」

 俺は二人の倍以上の速度でごはんを平らげてしまった。最後に味噌汁を喉に通し一息つく。

「ふぅ。いやあ、マジで感動したよ。こんなのが食えるなんて夢みたいだ」
「あんたいつの時代の人間よ」
「おかわりありますよ。食べますか?」
「食べる!」

 俺はおかわりの分ももらいお腹いっぱいになるまで食べた。

「ごちそうさまでした」

 三人で一緒に手を合わせ食事が終わる。もう食えない……。

「聖治さんほんとうにたくさん食べましたね。よっぽどお腹空いてたんですか?」
「どうなんだろ。最初はそうでもなかったんだけど、一口食べたら止まらなくてな。それに食える時に食べておかないと」
「いつの時代の発想よ」
「聖治さんのたべっぷりを見ていると作ったかいがありました」
「二人ともありがとうな、ごちそうだったよ」
「いえいえ」

 日向ちゃんは嬉しそうにニコニコしている。自分の作った料理をおいしそうに食べてもらえるというのは嬉しいものなんだな。

 ただ、此方にも言われたが俺のこの気持ちはなんなんだろう。自分でもよく分からないけどほんと感動したんだよな。どうしてそこまで心が震えたのか分からないけど。此方につっこまれるのも仕方がない。

 それから食器の片づけまで二人にしてもらい俺は座っているままだった。片づけくらいしようと思ったが二人に睨まれては石化してしまう、メンタル的に。

 その後は一旦俺の部屋に戻りソファに腰掛けテレビを見たりで時間が過ぎていき時間はすっかり夜になってしまった。

「それじゃあ私たちは戻るわよ」

 そう言って此方が立ち上がった。そりゃ、二人は女の子だからな。お隣同士とはいえこんな夜中に人の家にいるのは駄目だろう、常識的に。

「えー、もう少しだけ」
「わがまま言わない。ほら立つ」
「うう~、聖治さ~ん」

 居残ろうとする日向ちゃんが最後の抵抗を見せている。ソファに寝ころぶが姉此方は首根っこを掴んで容赦がない。彼女は足をバタバタさせながら俺に両手を伸ばしていた。

「また明日会えるさ」
「そういうこと。観念なさい」
「うう~」

 此方の力に負けしぶしぶ立ち上がる。俺も名残惜しいけれどやっぱりずっと一緒にいるわけにはいかないからな。

「それじゃ」
「ばいばい聖治さん」
「ああ、また明日な」

 此方は素っ気なく、その後から日向が大きく手を拭りながら出て行った。俺も手を振って二人を見送る。

 玄関の扉が閉まり大きく息を吐いた。なんか、一人きりになってようやく落ち着けた気がする。
 気づいた時から知らない二人に囲まれて気が気じゃなかったからな。

「それにしても、まさかな」

 これを思うのは今日で何度目になるか分からないが何度でも思ってしまう。

 前の世界で敵だった此方と知り合いで、その妹と恋人関係、か。びっくりだよな。もしまた世界のやり直しをすることがあったらそういう可能性まで覚悟しておかなければならないのか。

 とりあえずリビングに戻ろう。というか風呂に入ろう。気苦労の貯まった体を癒したい。えーと……。あれ、これどうやってお湯を沸かすんだ?
 それからハイテクすぎて逆に分かりづらかったお風呂を攻略し服を着替えソファに横になった。慣れない自宅を見渡し最後に天井を見上げる。

 これから、どうしようか。

 目覚めてからいろいろあって、想像もしなかった世界に戸惑ったけどけっきょくはそこに行き着く。

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