セブンスソード
56
「まあいい」
すると男が槍の構えを解いた。槍を地面に立てている。
さらには踵を返し歩き出していった。
「なんであれお前も参加者だ。どういう思惑かは知らないが最後まで生き残ればそれでいい」
「逃げるのか!?」
「そもそも戦う理由なんてないんでね。それに」
男は足を止め、フードに隠れた顔を俺に向けてくる。
「あんま調子のんな。てめえを殺すのなんてわけないが、趣旨じゃねえんだよ」
そう言うと男は波紋のように揺れる空間に中へと消えていった。ここにあった強烈な存在感がなくなり緊張が緩む。
俺は重い荷を下ろすように気が緩む。だがすぐに悔しさがわき上がる。今の俺ではあいつは倒せない。
「……くそ」
「あ、あの! ありがとうございました!」
それで俺は背後へ振り向いた。彼女は頭を大きく下げている。すごいな、九十度くらい下がってるんじゃないか?
香織が顔を上げ俺を見てくる。
「ほんとうに助かりました」
「ううん。それよりも無事でよかった」
彼女を守れたことに自然と笑みが浮かぶ。自分の力のなさを嘆きたくなるが、彼女が無事だったことは喜ばしいことだ。彼女を守れたんだ。俺の手で。
「あの、それで、あれはいったいなんだったんですか? それに、その手に持ってるものは?」
「それは」
当然だよな、いきなりあんなのに襲われて俺まで剣を持ってたら気にならないわけがない。思えばあの時の俺も今の彼女と同じだった気がする。
「あれは」
どうしよう、なんて答えればいいんだろう。あれは魔法も使える秘密組織でその儀式に君は巻き込まれているんだって? 屋上での繰り返しになりそうだ。
「大丈夫です」
俺が困っていると彼女はしっかりした表情で俺を見上げていた。
「信じられるかどうかは聞いてみないと分からないですけど、頭ごなしに否定しようなんてしませんから」
言いにくいことだと察している。だから彼女は言っている。
そう言ってくれて、俺も話す気になれた。
「実はなんだが」
「やっぱり、公園で……」
「公園? いや、それは関係ないな」
「あ、そうですか……」
それから俺は彼女に話をした。屋上では彼女には話していなかったから長くなってしまったけれど、これまでの経緯を俺は伝えた。
彼女は、考え込むように俯いていた。
「信じ、られないよな」
「…………」
彼女は答えない。まだ迷っているみたいだ、すんなり納得できるような話じゃない。
「すぐには信じられないと思う。でも、これが俺の知っていることだ。今日はすぐに帰った方がいい」
「はい……」
彼女の声に元気がなかったが俺は歩くことにした。今日はさすがに寄り道せず帰るだろう。あのフード男が改めて襲うとも思えない。
「あの」
と、彼女から呼ばれ振り向いた。
「どうして、聖治君は私を守りに来てくれたんですか?」
「…………」
質問に答えられなくなるのは俺の方だった。
彼女と俺のこと、未来のことはあえて伏せていた。セブンスソードの危険とは関係ないし、要らぬ混乱を与えたくなかったんだ。
でも、聞かれてしまうと別だ。
君とは昔つき合っていたんだ。そう言いたい気持ちがのど元まで出掛かっている。もしかしたら思い出してくれるかもしれない。そんな甘い期待が後押しする。
でも、それで引かれたり、さらに混乱されるのは嫌だ。
「ロストスパーダ、って聞いて、なにか心当たりはあるか?」
「え、ロストスパーダ?」
前の世界で彼女が探し求めていたもの。これを覚えているだろうか。
祈る気持ちで彼女の答えを待つ。
「いえ」
「……そうか」
答えは予想通りだった。
それだけ分かれば十分だ。俺は彼女に背を向けて今度こそ去っていった。
すると男が槍の構えを解いた。槍を地面に立てている。
さらには踵を返し歩き出していった。
「なんであれお前も参加者だ。どういう思惑かは知らないが最後まで生き残ればそれでいい」
「逃げるのか!?」
「そもそも戦う理由なんてないんでね。それに」
男は足を止め、フードに隠れた顔を俺に向けてくる。
「あんま調子のんな。てめえを殺すのなんてわけないが、趣旨じゃねえんだよ」
そう言うと男は波紋のように揺れる空間に中へと消えていった。ここにあった強烈な存在感がなくなり緊張が緩む。
俺は重い荷を下ろすように気が緩む。だがすぐに悔しさがわき上がる。今の俺ではあいつは倒せない。
「……くそ」
「あ、あの! ありがとうございました!」
それで俺は背後へ振り向いた。彼女は頭を大きく下げている。すごいな、九十度くらい下がってるんじゃないか?
香織が顔を上げ俺を見てくる。
「ほんとうに助かりました」
「ううん。それよりも無事でよかった」
彼女を守れたことに自然と笑みが浮かぶ。自分の力のなさを嘆きたくなるが、彼女が無事だったことは喜ばしいことだ。彼女を守れたんだ。俺の手で。
「あの、それで、あれはいったいなんだったんですか? それに、その手に持ってるものは?」
「それは」
当然だよな、いきなりあんなのに襲われて俺まで剣を持ってたら気にならないわけがない。思えばあの時の俺も今の彼女と同じだった気がする。
「あれは」
どうしよう、なんて答えればいいんだろう。あれは魔法も使える秘密組織でその儀式に君は巻き込まれているんだって? 屋上での繰り返しになりそうだ。
「大丈夫です」
俺が困っていると彼女はしっかりした表情で俺を見上げていた。
「信じられるかどうかは聞いてみないと分からないですけど、頭ごなしに否定しようなんてしませんから」
言いにくいことだと察している。だから彼女は言っている。
そう言ってくれて、俺も話す気になれた。
「実はなんだが」
「やっぱり、公園で……」
「公園? いや、それは関係ないな」
「あ、そうですか……」
それから俺は彼女に話をした。屋上では彼女には話していなかったから長くなってしまったけれど、これまでの経緯を俺は伝えた。
彼女は、考え込むように俯いていた。
「信じ、られないよな」
「…………」
彼女は答えない。まだ迷っているみたいだ、すんなり納得できるような話じゃない。
「すぐには信じられないと思う。でも、これが俺の知っていることだ。今日はすぐに帰った方がいい」
「はい……」
彼女の声に元気がなかったが俺は歩くことにした。今日はさすがに寄り道せず帰るだろう。あのフード男が改めて襲うとも思えない。
「あの」
と、彼女から呼ばれ振り向いた。
「どうして、聖治君は私を守りに来てくれたんですか?」
「…………」
質問に答えられなくなるのは俺の方だった。
彼女と俺のこと、未来のことはあえて伏せていた。セブンスソードの危険とは関係ないし、要らぬ混乱を与えたくなかったんだ。
でも、聞かれてしまうと別だ。
君とは昔つき合っていたんだ。そう言いたい気持ちがのど元まで出掛かっている。もしかしたら思い出してくれるかもしれない。そんな甘い期待が後押しする。
でも、それで引かれたり、さらに混乱されるのは嫌だ。
「ロストスパーダ、って聞いて、なにか心当たりはあるか?」
「え、ロストスパーダ?」
前の世界で彼女が探し求めていたもの。これを覚えているだろうか。
祈る気持ちで彼女の答えを待つ。
「いえ」
「……そうか」
答えは予想通りだった。
それだけ分かれば十分だ。俺は彼女に背を向けて今度こそ去っていった。
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