セブンスソード

奏せいや

53

「……う、うーん」
「なあ、これ笑っていいのか?」
「だから笑わないでくれ」

 やっぱり信じてはくれないか。

 当然だが二人ともどうしたものか困っている。

「そんな話いきなりされてよ、はい分かりましたっていう人間何人いるんだよ」
「それは、そうなんだが」

 現実的にあり得ない。俺も自分が言っていることが無茶苦茶なのは分かってる。

「でも本当なんだ! 信じてくれ!」

 必死に頼み込むが二人の反応は変わらない。

「ずいぶん熱意のある勧誘だが無理なものは無理だ。それに俺たちだけじゃなくてなんで沙城までいるんだよ」
「沙城!? 香織のことか? まさか、学校にいるのか?」
「いるから言ったんだろ?」
「知るかそんなこと!」

 俺は星都に駆け寄り肩を掴んだ。

「彼女は今どこにいるんだ!?」
「おいおい、落ち着けよ。隣のクラスだからそこじゃねえのか?」
「隣? クラスメイトじゃなくて?」

 いや、教室の中は見渡したが彼女の姿はいなかった。

「いつから? 彼女も転校してきたのか?」
「前からいるよ。それでいつ放してくれるんだ?」
「ああ、悪い」

 俺は手を放した。

 それにしても香織がすでに学校の生徒としているのか。俺の知ってる世界とは本当に違うんだな。

「ちょっと待ってろ、今呼んでやるから」
「いいのか? もうすぐ授業だぞ?」
「お前、怖いくらい必死だからな。もうヤケだ、満足するまでつき合ってやるよ。力也もいいだろ?」
「うーん、まあ、なんだか大変みたいだもんねえ」
「そうか、悪いな」

 星都はスマホを取り出し画面に入力している。

「今向かってるってよ」
「そうか!」

 ここに香織がいる。

 俺を見つけて驚いて、俺を守るために戦って。彼女は俺が覚えていないのに、命をかけて俺のために戦ってくれていたんだ。

 それに、気づけなかった。思い出せなかった。

 今更だけど、それがすごく悔しい。自分をぶん殴りたいほどだ。

 そう思っていると扉が開く音が響いた。

「!?」

 下がっていた顔を上げ扉を見る。

 そこには、彼女がいた。薄い桃色の髪が屋上の風に靡き、明るい雰囲気は変わらない。

 沙城香織。現代に蘇った彼女が、そこにいた。

「もう、なによ皆森君。もう一限目はじまるよ?」

 彼女は口先をとがらせている。そんな仕草でも彼女は可愛らしい。

「おう、こいつがお前に用があるってよ」
「え」

 星都に言われ香織が俺に気づく。彼女は俺たちに近づいてきて、俺の前に立った。

 本当に彼女だ。彼女も生きていた。俺の目の前にいる。よかった。ほんとうによかった。

 だけど、胸が不安でいっぱいだ。怖くて、手が震えそうになる。

「あ、あの」

 声が、うまく出ない。

「えっと」

 彼女は困ったような、唖然としたような顔をしている。

「あの、誰ですか?」
「…………」

 瞬間、頭の中が空っぽだった。

 うそ、だろ? 彼女まで、俺のことが分からないのか?

「あ」

 なんて言えばいいのか分からなくて、言葉がひっかかる。

「俺のこと、分からないのか? 俺だよ、聖治だよ!」
「え!? ごめんなさい。そう言われても」
「落ち着け落ち着け」

 俺たちの間に星都が入ってくる。

「さっきも言ったけどお前怖いくらい必死なんだから少しは考えろって」

 納得できなくて、そんなはずないって思うのに、

「…………」

 彼女は俺を、戸惑いの眼差しで見上げている。

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