セブンスソード

奏せいや

18

「なるほど、他とは違うな」

 お気楽な感じはなくなりどこか冷めた雰囲気で男は沙城さんを見下ろしていた。沙城さんも負けじと男を睨み上げる。

「ま、いいか」

 が、そう言うと男は握っていた最後の槍を消した。高まっていた緊張が一気に萎んでいく。

「セブンスソードは始まった。お前らが殺し合う運命なのは変わらない」

 セブンスソード? 殺し合う?

 なんのことだかまったく分からない。男は言いたいことだけ言うと踵を返した。

「どこに行くんです?」
「帰るんだよ。そいつにはお前から説明しておきな、俺がするより話が進みそうだ」

 男は「そういうことだ」と付け加えると水面のように波立つ空間へと消えていった。空間は元通りとなりあとには男の影もない。めちゃくちゃだ、俺は夢でも見てるのか?

「いったい、どういうことだよ」

 なにがなんだか、一から十まで分からない。なにが起こってる? セブンスソードってなんだよ。殺し合いだって?

 頭は混乱しっぱなしだ。だがそれよりも斬られた腹が痛み声が漏れた。

「つぅ」

 手の平は血で赤くなってる。制服も真っ赤だ、このままじゃやばい、早く病院に。

「聖治君!」

 すると沙城さんが駆け寄ってくれた。俺を前にすると膝を付き傷口に手を当てている。

「ごめんね、すぐにしたかったんだけど」

 彼女はなにも悪くない。むしろ助けてくれたのに。

 彼女は俺の傷の上に手を置くと桃色の光が覆っていった。温かい。それに痛みも引いていく。

 光が消えていく。そのころには痛みは完全になくなっており見れば傷も治っていた。かさぶたすらない。

「なんで。いったいどうやって」

 触ってみる。自分の指が当たっているというというのが分かるのに痛みはまったくない。まじまじと見つめるがどこを切られたのかすら分からない。

「大丈夫?」
「うん。治ってるみたいだ」
「よかった」

 心底ホッとしたようで彼女は胸をなでおろしている。

「あの、これはどういう」
「これが、私の能力なんだ」

 彼女は立ち上がっており手を差し伸べていた。その手を取り俺も立ち上がる。

「ありがとう」
「ううん」

 彼女が顔を横に振る度にさらさらとした髪が流れるように揺れた。

 俺の方が背が高いので見下ろす形になる。こうして向き合うと普通の女の子にしか見えない。こんな細い体で戦っていたんだなとすごいと思う。

「教えてくれ、君はいったい? さっきのやつはなんなんだ?」

 いったいなにがあったのか彼女なら分かるはずだ。普通じゃないことがたくさんあった。なにより、

「どうして、君は俺を助けてくれたんだ?」

 今日会ったばかりの、クラスメイトでしかない俺を彼女は命がけで助けてくれた。

 そんなこと、なかなかできることじゃない。

 でもそれは俺がそう思っているだけで彼女は俺を知っているんだ。こんなことならちゃんと話を聞いておけばよかった。

 彼女は少しだけ悲しそうな顔をしていた。俺を見ていた顔が下がり表情もどこか暗い。

「聖治君は……覚えてないんだよね」
「え? あ、ああ」

 彼女のことを何度も思い出そうとはしたんけれど駄目だった。ヒントみたいなとっかかりがあればいいんだけれど、彼女には申し訳ないが俺には分からない。

「…………ん」
「え」

 沙城さんは俯いているから見えないけど、もしかして、泣いてる?

 手で瞼をこすり鼻をすすっている。

「ごめんね」
「あの」

 そう言うと彼女は走り出してしまった。すぐに手を伸ばすが彼女は走り去っていく。唖然としてしまって足が動かない。俺はその場に立ち尽くし彼女が消えていった道を茫然と見つめていた。

「いったい、なんなんだよ……」

 まるで全部が夢みたいだ。そう思いたかった。

 だって、突然男に襲われ、そいつは空間から槍を取り出し俺の腹を突き刺したんだ。そしてそれを治したのは今日会ったばかりの転校生。こんなものを信じるなんて自分は寝ぼけていたと思うよりも無理な話だ。

 でも。

 そう思いたくても俺の目の前には証拠があった。

 手の平を見てみれば、そこには消えていない俺の血がある。傷はもう癒えたのにこの血を見るだけでさっきの痛みが思い出されていく。

「夢、じゃ、ないんだよな……」

 なにかの間違いだと思いたいのに。だけど、他ならぬ自分の血がそれは違うと主張していた。

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