セブンスソード

奏せいや

15

「今日から始まりだってのに、呑気なもんだ」
「あの、さっきからなんですか?」

 話し方が馴れ馴れしいというか、まるで不良にでも絡まれている気分だ。

「どうも目覚めてはいないか」
「?」

 男、だと思うフードの人物は顔を横に振っている。

「仕方がねえか。なに、今日はあいさつだ」

 男は両手を下げている。
 瞬間、いきなり槍が現れ握られていた。

「え」

 男とほぼ同じ長さの槍が握られている。夕焼けの光を刃が反射している。
 なんだこれ? どういう……。なんでいきなり槍が?
 
「もたもたしてると死んじまうぞ」

 直後、槍が突かれた。

「うあ!」

 なんとかそれをかわす。まるで遊びのような気軽さだった。でもこれは冗談でもなんでもない!
 男の槍は俺が避けたことで塀に当たりコンクリートを粉砕していた。すさまじい音と破片が飛び散り地面に落ちていく。

 うそだろ!? なんだよこれ!

「おら、戦え。男だろ」

 めちゃくちゃ言うなよ、こっちは素手だぞ! そもそも武器があったところでなんで戦わなくちゃならない。

 すぐさま地面を蹴った。腰が抜けそうだったが足を無理矢理動かしこの場から逃げる。

「おいおい……」

 背後では男の落胆した声が聞こえてくるが知ったことじゃない。

 どうする? どうする? どこに逃げる? 学生寮はダメだ、バレたら襲われる。なら交番か? というか通報!

 ポケットに手を突っ込んだ。必死に走っているからそれだけで転びそうになる。スマホを目の前に持ってくる。

「なんで圏外なんだよ!」

 そのまま地面に叩きつけたくなる。どうして? こんなこと一度もなかったのに。こんな時に限って圏外なんて。

 それに走っていて気が付いたことがある。

 この道、さっきから誰もいない。助けを呼ぼうにも誰ともすれ違わない。

「どうした、それで逃げてるつもりか?」
「な」

 後ろを振り向くとすぐそこに男がいた。足音は聞こえなかったのに。どうして。

「前見て走らないとあぶないぞ」

 くそ!

 言われた通りにするのもしゃくだが正面に振り向く。

「え」

 そこには、フードの男が立っていた。

「刺されちまうからな」

 槍を突き刺してくる。全速力で走っていた俺は咄嗟にかわすことが出来ず。

「――――」

 槍が、腹を切り裂いた。

「があああ!」

 なんとか重心をずらし急所は外せたものの制服の下から血が流れている。
 斬られた箇所を両手で押さえ地面に倒れ込む。痛い。なんとか見てみるとそこまで深い傷ではないがそれでも傷口がじんじんと熱い。

「ち、あんまりにもとろいから刺しちまっただろうが」
「ぐ、うう」

 このままだと殺される。そのことで頭がいっぱいだった。なんで、どうして俺がこんな目に遭わないといけない?

「まあいいか。どうせお前じゃ生き残れない。見せしめはお前だな」
「…………!」

 その声が俺の耳をつんざいた。

 さっきまでなかった感情が芽生えていく。噴火のように上昇していく。

 まあいいか、だと? そんな訳も分からない理由で俺は殺されるのか? そんな理不尽で死ななくてはならないのか?

 ふざけるな。

 男を見上げる。影になって表情は見えないがその闇に隠れた顔を睨みつける。

 倒してやりたい。せめて一矢報いたい。こんなふざけたやつにいいようにされたまま死んでたまるか。

 力さえあれば!

「ほう」

 男の顔に手を伸ばしていた。気持ちに体が突き動かされる。

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