セブンスソード
10 第一章 セブンスソード
なにかを、忘れている気がする。
それがなにか、それは分からない。けれどふと思うんだ。胸に突っかかる思いがある。忘れてはいけない重要なことがあるのにそれを思い出せない。そんな違和感があって、気のせいだと忘れようとするんだけどしばらく経ってまた気づく。その度に焦燥感が胸をざわつかせ走りたくなる。忘れてしまった大切なものを探しに行くために。
だけど、それがいったいなんなのか。
俺は、まだ見つけていない。
「おーい」
よくわからない。これはいったいなんなんだろうか。単なる物忘れっていう感じじゃないんだ。いつもスッキリしないもやもやがあるというのは気分のいいものじゃない。
「おい、聖治。なにボケっとしてんだよ」
他の人にもこういうことってあるんだろうか。実害があるわけでもないし聞いたことはなかったんだが。いつか機会があるときに聞いてみようか。
「おい見ろ相棒! UFOだ! UFOがガンデムと戦ってる!」
まあ、それはさておき、そろそろ隣人のからみが無視できないほどうるさくなってきたぞ。
「なあ、のどが渇いたからそこの自販機でファソタおごってくれよ、グレープ味。……返事がないってことはイエスってことか? イエスでいいんだよな? じゃポケットにある財布を拝借(はいしゃく)して」
「イエスじゃないわ!」
ポケットに伸ばす隣人の手をすんでのところではたき落とす。
「まったく、勝手に話を進めるな。なんで俺がお前にファソタおごらなきゃいけないんだ」
返事をしなかったからってめちゃくちゃだぞ。そいつをジッと見てやるが当の本人は悪びれた様子もなく笑っている。
こいつは皆(みな)森(もり)星(せい)都(と)。俺と同じ湊(みなと)高校に通うクラスメートで高校二年生だ。学生寮で暮らしているという共通点があり今日もうこうして一緒に登校している。
くせっ毛のある銀髪をしており悪い笑顔が似合うムードメーカー。単におもしろいこと好きなんだが軽口で場をひっかき回すものだからそんな印象がある。本人曰くナイスガイということだが俺の知る限り彼女ができたことはない。……まあ、それは俺もなんだけど。
「いや、お前が俺を無視する方が悪い。いいか? 俺は寂しいと死んじゃうんだぞ? ほんとなんだぞ? よってお前は殺人未遂の現行犯だ。俺にファソタをおごる義務がある」
どうしよう、なんて反応するのが正解なんだ?
「…………」
「ぐはあああ! 死ぬぅう!」
「ああ、そうか。ごめんごめん」
「死ぬぅ~」
「はいはい」
星都は大げさな動きで体をくねらせていた。
「星都君は朝から元気なんだな~」
そこで別の声が聞こえてきた。俺の隣で一緒に歩いている。
「元気が有り余りすぎだ。献血でもして社会に貢献すべきだな」
「ははは。まったくなんだな~」
間延びした声が俺たちの会話に加わった。
彼は織田(おだ)力也(りきや)。クラスメイトで彼も学生寮の一員だ。俺と星都も身長は170くらいでそこそこある方だが力也は180センチ以上の長身だ。短く切った黒髪で大柄な体格をしているが性格は優しくゆるやかな言動なため怖い印象はまったくない。むしろこんなにも体が大きいのに臆病なくらいだ。熊というよりでかいハムスターに見える時がある。
俺は力也から星都に向き直った。
「なあ星都、お前献血でもして干からびてこいよ」
「辛辣ぅうう!」
星都が青空に吠えている。
「お前、たまにえぐいこと言うよな」
「いや、ただで死ぬくらいなら有効活用かなって」
「誰かぁあ! 助けてぇええ! サイコパスだぁあ!」
「ちょ、冗談だわ!」
星都が大声で言うので通学路を歩く他の生徒が見つめてくる。星都を抑えようとするが走り出し俺も慌てて追いかける。くそ、笑いながら走りやがって!
そんな俺たちを見て力也は困ったように笑っていた。
テレビを点ければニュース番組で様々なことを伝えている。どこかの町で交通事故が起きたとか為替がどうだとか。
けれど自分が気になったのは今日の天気予報だけだった。
西暦2019年、6月。今日も何気ない一日が始まっていった。
それがなにか、それは分からない。けれどふと思うんだ。胸に突っかかる思いがある。忘れてはいけない重要なことがあるのにそれを思い出せない。そんな違和感があって、気のせいだと忘れようとするんだけどしばらく経ってまた気づく。その度に焦燥感が胸をざわつかせ走りたくなる。忘れてしまった大切なものを探しに行くために。
だけど、それがいったいなんなのか。
俺は、まだ見つけていない。
「おーい」
よくわからない。これはいったいなんなんだろうか。単なる物忘れっていう感じじゃないんだ。いつもスッキリしないもやもやがあるというのは気分のいいものじゃない。
「おい、聖治。なにボケっとしてんだよ」
他の人にもこういうことってあるんだろうか。実害があるわけでもないし聞いたことはなかったんだが。いつか機会があるときに聞いてみようか。
「おい見ろ相棒! UFOだ! UFOがガンデムと戦ってる!」
まあ、それはさておき、そろそろ隣人のからみが無視できないほどうるさくなってきたぞ。
「なあ、のどが渇いたからそこの自販機でファソタおごってくれよ、グレープ味。……返事がないってことはイエスってことか? イエスでいいんだよな? じゃポケットにある財布を拝借(はいしゃく)して」
「イエスじゃないわ!」
ポケットに伸ばす隣人の手をすんでのところではたき落とす。
「まったく、勝手に話を進めるな。なんで俺がお前にファソタおごらなきゃいけないんだ」
返事をしなかったからってめちゃくちゃだぞ。そいつをジッと見てやるが当の本人は悪びれた様子もなく笑っている。
こいつは皆(みな)森(もり)星(せい)都(と)。俺と同じ湊(みなと)高校に通うクラスメートで高校二年生だ。学生寮で暮らしているという共通点があり今日もうこうして一緒に登校している。
くせっ毛のある銀髪をしており悪い笑顔が似合うムードメーカー。単におもしろいこと好きなんだが軽口で場をひっかき回すものだからそんな印象がある。本人曰くナイスガイということだが俺の知る限り彼女ができたことはない。……まあ、それは俺もなんだけど。
「いや、お前が俺を無視する方が悪い。いいか? 俺は寂しいと死んじゃうんだぞ? ほんとなんだぞ? よってお前は殺人未遂の現行犯だ。俺にファソタをおごる義務がある」
どうしよう、なんて反応するのが正解なんだ?
「…………」
「ぐはあああ! 死ぬぅう!」
「ああ、そうか。ごめんごめん」
「死ぬぅ~」
「はいはい」
星都は大げさな動きで体をくねらせていた。
「星都君は朝から元気なんだな~」
そこで別の声が聞こえてきた。俺の隣で一緒に歩いている。
「元気が有り余りすぎだ。献血でもして社会に貢献すべきだな」
「ははは。まったくなんだな~」
間延びした声が俺たちの会話に加わった。
彼は織田(おだ)力也(りきや)。クラスメイトで彼も学生寮の一員だ。俺と星都も身長は170くらいでそこそこある方だが力也は180センチ以上の長身だ。短く切った黒髪で大柄な体格をしているが性格は優しくゆるやかな言動なため怖い印象はまったくない。むしろこんなにも体が大きいのに臆病なくらいだ。熊というよりでかいハムスターに見える時がある。
俺は力也から星都に向き直った。
「なあ星都、お前献血でもして干からびてこいよ」
「辛辣ぅうう!」
星都が青空に吠えている。
「お前、たまにえぐいこと言うよな」
「いや、ただで死ぬくらいなら有効活用かなって」
「誰かぁあ! 助けてぇええ! サイコパスだぁあ!」
「ちょ、冗談だわ!」
星都が大声で言うので通学路を歩く他の生徒が見つめてくる。星都を抑えようとするが走り出し俺も慌てて追いかける。くそ、笑いながら走りやがって!
そんな俺たちを見て力也は困ったように笑っていた。
テレビを点ければニュース番組で様々なことを伝えている。どこかの町で交通事故が起きたとか為替がどうだとか。
けれど自分が気になったのは今日の天気予報だけだった。
西暦2019年、6月。今日も何気ない一日が始まっていった。
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