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第12章 王国最高医師グレイ

背後から迫る炎を避け
前線を離脱した俺達ロッテクラスの面々
現在は気絶したアレンを担いで急ぎ医務室に向かっていた

「おいアズ!アレンさん大丈夫だよな!?」

ムーたんの言葉に俺は焦りを感じる
いかに防御魔法を張られていたとはいえ、普通に考えればたかだか数年生きた子供がドラゴニュートの攻撃を耐えれるはずが無い・・・

俺は担架の上で苦しそうにはぁはぁ呻くアレンを見る

「はぁはぁ・・・ああ!アレク!なんてすばらしい柔肌!はぁはぁ・・・!」

なんか平気な気がしてきた
というかこいつもしかして医務室に運ぶ必要も無いんじゃないか?
そうは思いつつも最悪の事態を避けるのは年長者の務め
俺達はタックルするように医務室の扉を開け放つ

「急患です!・・・って!?くさっ!?」

入った瞬間鼻の中を充満する酒の匂いに鼻をつまむ

「あいた!?」
「あっごめん」

手を離した事により地面に叩きつけられたアレンが悲鳴をあげている
まぁ丁度目が覚めたみたいだし結果オーライだ
しかし・・・

「・・・なんでこんな酒臭いんだよ?」

そう言いながらも救護班を探し声を張り上げる

「あのー!急患です!ちょっと頭の打ちどころが悪いみたいで!」
「アズ君?それはもしかしなくても私の事だよね?頭は打ってないよ?」

俺の叫びが聞こえたのか、奥のベッドからのっそりと緑の髪の男が立ち上がる

「だー!うっせぇなぁ!あんま大声出すなよ!二日酔いに響くだろ!!・・・あ、やばい」

そう言いながらエチケット袋にリバースしている人物
救護班でありながら昼間っから酒を呑んでぐーすかぐーすか・・・

「おいアズ・・・ほんとにこの人が救護班の人なのか?」

ムーたんが心配そうに聞いてくる
救護班の人かどうかはさておき間違いなくダメ人間ではあるのだが・・・

だが今はそんな事より気になる事があるのだ

「もしかしてグレイか?」

髪は緑色になっているが・・・見間違えるはずもない職場の同僚
自分の名前を呼ばれて怪訝な表情を浮かべる緑髪のイケメンは、俺の言葉を聞いて虚空で手を動かすと
俺の頭上を見て硬直する

「ん?アズ・・・まさか青葉か!?」
「そ・・・そうだけど!おい!吐しゃ物まき散らしながら俺の方に来るな!?」
「あ・・・悪い・・・ちょっとトイオロロロロロロロロロ」
「だー!?きったねぇ!おいグレイ!いい加減に!」
「あのー!急患です!」

そんな俺達のやり取りを見ながらムーたんが声を張り上げる
グレイは虚ろな目でアレンを見ると棚の一角を指さす

「あの辺りの薬品適当に使えば治る・・・」
「適当に!?」

驚く二人をよそに、グレイは吐き気が収まったのか俺の方に向き直る

「今まで何処に行ってたんだ?行方不明になって何か月たったと思うんだ」

ん?あれ?

「え?俺行方不明になってるの?」
「ああそうだよ!全く・・・でもこうやってゲームしてるって事は会社に復帰してきたって事だな」

グレイの言葉に俺は顔を逸らしながら思考を回転させる
行方不明?ていうかゲームをしている・・・?それに数か月だって?
そんな事を考えていると治療を終えたであろうアレンとムーたんが俺の肩を叩いている

「おいアズ!今はまずあのドラゴニュートをなんとかしないと!」
「私は、はやく近衛兵に救援要請を出すべきだと思うよ」

いや・・・近衛兵を呼んでくるのもありだが・・・
目の前にはゲームをプレイしているというグレイ

「なぁグレイお前今仕事中だよな?なんで酒飲んで寝てんの?」
「あー」

グレイがバツが悪そうに目をそらす

「まさかVRゲームのデバッガーという誰も監視出来ない立場を利用してサボってるわけじゃないよな?」

俺はニッコリとグレイに歩み寄る

「いやぁ!?あれだよ!ベットとかお酒とか!ちょうどその辺のデバックをしててさぁ!?」

一歩後ずさるグレイ

「そういえば話変わるけどグレイって冒険者だからタフだし・・・死なないよな?」

逃げ出そうとしたグレイは酔いが回っているせいか上手く走る事が出来ず、足をもつれさせて地面に突っ伏す
それでも逃げようとするグレイの上に跨り近くにあったロープを取り出す

「ふ・・・!子供と大人の力の差をなめてもらっちゃあ困るな!」
「その割には随分と抵抗が強いみたいだけど・・・?」

ロープで簀巻きにしようとしたが、逆に両手を塞がれ動きを封じられてしまった
捕まえるつもりがまさかこっちが捕まってしまうとは

「ここは冒険者としてか弱き民を守ると思ってさ」
「嫌だね!俺が酷い目に会うのは目に見えてんだよ!!」

グレイは正義感とか無さそうだもんなぁ・・・
さて・・・どうしたものか・・・

「よし、グレイがゲーム内でさぼってる事所長に伝えるか」
「・・・いや、待て、わかった、協力する」

グレイが慌てたように俺の拘束を解く

「二人は一応援軍を呼んできてくれ!俺達は先に演習場に向かう!」

俺の言葉に頷く二人を背中に俺とグレイは医務室から飛び出す

「で?敵はどこにいるんだ?」
「こっちだ!多分大丈夫だと思うけど!」

俺が先導して演習場の中に入る
演習場ではドラゴニュートとルピー&ロッテの勝負が拮抗していた
俺は二人に向かって声を張り上げる

「ルピー!クソエルフ!援軍を連れて来たぞ!」
「アズ様!よくぞ帰って・・・誰がクソエルフでありますか!!!」

ロッテの弾幕が俺達目掛けて迫って来る

「くそ!?あのバカエルフめ!?なんでこっちに・・・っておいグレイ!」

ロッテの弾幕が降り注ぐ中
グレイが何事も無いかのように優雅に歩いていく
その光景に俺はおろか、弾幕を放ったロッテも驚愕の表情を浮かべる

「ある時はしがないゲーム会社の社員・・・ある時は王国最高医師ブラックジャック・・・そしてある時は宿屋のひっきー・・・しかしてその実態はひでぶ!?」

ドラゴニュートの拳が顔面に入りグレイの体勢が崩れる
ああ・・・呑気に前口上なんて喋ってるから・・・やっぱりあいつに頼んだのは間違いだったか?

「ふふ・・・フーハッハッハ!」

唐突に叫び出すグレイにドラゴニュートも含めその場の全員が驚愕に目を見開く

「俺はこう見えても冒険者だ!その程度のこぶへら!?」

再び顔面に拳を受けグレイが体勢を崩す・・・
しかしその顔には余裕が見える

「そう!この程度なんとぶへら!?ちょ!最後までいわぐへぁ!?」

何度殴っても倒れないグレイを見てドラゴニュートが焦ったように顔面を殴り続ける

「おい!いい加減にしぶへ!?死にはしなくてもほぅ!?痛いもんは痛いんだぞぉう!?」

所々奇声を挙げながらも徐々にドラゴニュートを追い詰めるグレイは
ついにドラゴニュートに抱き着きニヤリと笑みを浮かべる

あれ?これもしかしてカッコ良く決めれるんじゃないか?

「やっちゃえバーサーカー!」

俺の声援にグレイが背中越しに親指をたてる
その光景に俺含めその場の全員がこれから起こるグレイのなんか必殺技っぽいものに期待し・・・

「あ、ごめん、俺HPだけは高いけど他何も出来ないんだわ」

一気に冷ややかな目を向ける事になる
グレイはそんな俺達に向け不敵な笑みを浮かべ・・・

「俺も動けないから助けてください」

一瞬でもかっこよく見えたのが腹立つな

「と言ってもこっちから出来る事なんてなにも・・・」

グレイに返事をしている途中でドラゴニュートが大爆発する

「え?あれ?」

俺は何事かとキョロキョロ辺りを見渡し・・・
魔法を放った体勢のままのロッテを視界に映す

「おい?」
「む?どうされました?アズ様?」

心底不思議そうな表情のロッテ

「いや・・・なんでドラゴニュートを攻撃するのはわかる・・・すごい威力だ・・・」
「はい!私のとっておきの大魔法なのでありますよ!」

誇らしげに再びロッテが杖を構えドラゴニュートが爆発する
見事な爆発だ、着弾点の半径数十メートルがクレータになっていることから
恐らく相当高レベルな魔法なのだろう

「問題はなんでグレイ事撃ってんの?」
「この魔法は一定の範囲内を爆発させる魔法でありますからね!」

うん・・・・あれ?今の説明?俺がおかしいのか?

「グレイと仲悪いんですか?」
「そんな事はありません!グレイさんとは話しがよく合って、いつもどうやって仕事をサボるかの話で盛り上がっていますよ!」

笑みを浮かべるロッテが「でも・・・」と言葉を続ける

「あの人、木偶の棒でありましょう?」
「・・・撃っても問題無いな!どんどんやっちゃってください!」
「もちろ「ふっざけんなよ!このおまえら!」」

あ、グレイがドラゴニュートに引っ付いたまま大声をあげている

「さっきから言ってるけど死にはしないが痛いもんはいたいやあああああ!?」


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