竜殺しと人殺し

あめふらし

ヨナ


10歳のシオンはひたすらに血塗られた草原逃げ惑うが、竜の速さにはかなわず簡単に追いつかれてしまう。

そしてついに竜の前足がシオンの身体にのしかかる

「うっ…くっ」

小さきものよ、貴様らヒトは大いなる過ちを犯した、その罰は必ずやわ我らが下そうぞ

…貴様   本当に  





   ヒトなのか?


「はぁ…!…はぁはぁ夢か…ん?おい何してる」

「おはようございます」

シオンは流石に目覚めない少女をむげにはできないと思いベッドで彼女を寝かせ、ソファで眠っていたのだが

その少女が目を覚ましシオンの上に跨るような形でのしかかっていたのだ

「降りてくれ…なんなんだよ朝からと言うか目を覚ましたのか、あんたなんであんなところで寝てたんだ?どこの出身だ?名前は?」

「わからない」

「記憶なくしてるのか…?」

「キオク?」

少女はなんのことやらと言った様子で
惚けるようにして見せた。

「困ったな…これじゃあ世話どころかまず名前がいるよな…そうだなとりあえずお前はヨナだ」

「私の名前…はヨナ…ですね、わかりましたマスター」

「辞めてくれ俺はマスターじゃない、お前を助けたせいで俺は事実上の左遷だ、家は用意してあるが今から牛車で中立都市に向かう良いな?」

「よくわかりませんがわかりましたマスター」

「だから俺はマスターじゃなくて…シオンだ、俺のことはそう呼んでくれて構わない」

シオンは災難の元凶であるヨナを見つめ苛立ちを感じたが、そもそも助けたのは自己判断であり、彼女に罪はないのだと自分の中で消化するのだった

王都正門

本来ヨナが目を覚まさなかった場合は中立都市まで運ぶのも一苦労だったろう
シオンはせめて目を覚ましてくれた事に深く安堵しつつ手配していた牛車にヨナを乗せると自分と隣に座るのだった

「なあヨナ、お前本当になにもわからないのか?」

「はい、ただ…」

「ただ?」

「七星竜は怖いです」

「しちせいりゅう?」

七と言うのはおそらくセブンスの事だろうがセブンスドラゴンと言う言葉この世界の共通言語が他の呼び方など存在しないはずなのだ

「それって竜の事なのか?セブンスの」

「わからない、ごめんなさい」

おそらく聞き出すことができれば大事な情報なのだろうが、シュンとしたヨナの顔を見て無理に聞き出そうと言う気にもなれなかった

「いや、謝る必要はない」

それから2人とも口を閉じ会話のない時間が過ぎていく、そうこうしているうちに
中立都市が見えてくる。

中立都市はヒトがヒト同士で争っていた際に争いを好まない人たちが国の垣根を越えて作り出した小規模な集落であった、しかしヒト同士の争いの末に種の絶滅を危惧した各国家が都市として認め今や大規模な娯楽国家にまで成長している。

王都が用意してくれたのはそんな都市の一等地だ、それなりに大きな家で2人で暮らす分には申し分ない広さである。


これからこいつの監視任務か…と言っても
こいつに危険性がない場合本当にただの二人暮らしになってしまう…前線に戻りたい竜を殺したい

「なあヨナ家に着いたら俺は荷物整理するから、ヨナは俺の目の届くところに居ろよ」

「わかりましたシオン」

~数時間後~

「はぁ整理は終わったか…ヨナは…っと」

シオンがヨナの方に目をやると、ヨナはシオンと姉のリュカが写った写真を見ていた。

「これは誰ですか?シオン」

「俺の姉だよ竜に殺されたんだ」

色々なことがわからないヨナでも
死という物については理解しているようで悲しそうな表情をして見せた。

リュカを殺した竜は恐らくセブンスの個体だったのだろうと竜に対する知識を得てからはそう思うようになっていった。
あの巨体あの速さ的確に命を奪うことだけを意識した殺し方、下級の竜はヒトをエサのように殺すためあのような殺し方はしないはずだ。

「さてヨナ俺は風呂に入ってくるから待っててくれ」

引越しや整理など普段しない運動のせいでぐったりと疲れてしまったシオンは風呂で一日の疲れを落とそうと考えたのだが

「はぁ…風呂はいいな…安息の地だ…」

ガチャ

「シオン…?」

「ん?ヨナどうかしたのか」

「いえ、シオンが自分の目の届くところに居るようにと…」

「あぁ…服濡れるだろ出とけよ」

こくんと頷くとヨナは素直に風呂場から出て言ったのだが

「シオン」

「だから服濡れるだろっ…て………」

ヨナは服を脱いでその場に現れたのだ
初めて洞窟の中でヨナを見た時とは違い、人工的な明かりに照らされ肌が透き通りそうなほど美しい
女として意識するような感性はシオンにはなかったが初めて見る美しさに見惚れる他なかった

だとしてもだ

「外で待っててくれ…」

服は着ろよ!

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