人外と友達になる方法

コング“シルバーバック”

第25話 悪鬼の潜む街 〜鬼篇〜

 大捜索を始めて一週間が経った頃ようやく動きがあった。

「ようやく新しい噂を掴んだぜ!」

 奏鳴は自信満々に胸を張る。
 四人の中で一番人脈があるのが奏鳴なので、矢張り情報が集まりやすいのだろう。

「で、どんな?」

「聞いて驚くなよ。なんと今回の妖怪は鬼だ!」

「「鬼?」」

 悠火と光秀は顔を見合わせる。
 河童、雷獣ときての鬼。
 どんどんヤバそうな妖怪になっていることくらいは悠火たちにもわかる。

「鬼か……」

 狐々愛は思い当たることがあるのか、考え事を始めた。

「それでどんな噂なんだ? その鬼はどこに出るんだ?」

「慌てんなって、えっと先ずは場所だけど、場所は決まってないらしい。でも、時間は決まって夜中って聞いたぞ」

「被害は?」

「聞いた話によると、まだ被害はなさそうだ。鬼を見た人も、質問されただけらしいしな」

「質問って?」

「えっと確か……」

 奏鳴が思い出そうと頭をランプのように擦っていると呟くように狐々愛が漏らした。

「“己は黒を許諾するにたる器か?” じゃろ?」

「そうそう! ってことは狐々愛ちゃんの知ってる妖怪なの?」

「知っておる。其奴の名は“黒鬼くろおに”、特級の妖怪じゃ」

 特級は息を飲んだ。
 あの雷王でさえ上級だったのだ。
 特級とは一体どんな化け物だというのだ。

「黒鬼は危険じゃ。しかし、器を探しておるということは、まだ封印から解放されて少ししか時間が経っていないということ、それなら勝機はある」

 三人はホッとした様子で息をなでおろした。

「善は急げじゃ、今夜黒鬼を討伐するぞ」

「今夜? まだ準備もしてないのに、大丈夫か?」

「もし今夜にでも器を見つけられたら厄介じゃ。それに他の鬼と合流されても困る」

 確かに鬼数人と戦って勝つ自信などまったく起きない。
 そもそも狐々愛抜きでは歯が立たないのだから狐々愛に従う他無い。

「それでは今夜の零時に学校に集合じゃ」

「「「おう」」」




「悠火〜、一緒に帰ろうぜ」

「おう、今行く」

 悠火は帰る支度をして、三人の待つ玄関へと走る。

「こうやって四人で帰るのって久しぶりだな。二週間ぶりくらいか?」

「そうでもないよ、六日前にもあったじゃないか」

「そうだっけか?」

 相変わらず奏鳴は適当だ。
 そろそろ光秀、奏鳴の二人と別れる十字路が近付いてきた。
 すると狐々愛は立ち止まり、手で三人を制止する。

「おい、そこにおる貴様。出て来い!」

 突如狐々愛が、大声を荒げた。

「流石は天狐だ。術を使わずに看破するとは」

 何もない空間から声がする。
 次の瞬間、何もなかったはずの空間に突如黒い人影が現れた。

「現れるのは夜中と聞いていたが?」

 夜中に現れる黒い人影。
 それが示す答えは一つ。
 目の前に立つ人影の正体は、黒鬼だ。

「別に自分からそう言った覚えはないさ。ただ人目につかないように夜中にやってただけだ」

「ではなぜ今回はこんな夕方に?」

「僕の器に相応しい人間を見つけたからね」

 黒鬼はゆっくりと、その細い腕を動かし、こちらを指差す。
 その枯れ木から伸びる枝のような指が指したのは。

「俺?」

 奏鳴だった。

「そうだ。お前は僕の器に相応しい」

 黒鬼はゆっくりとこちらに近付いてくる。

「止まれ、あと一歩でも近付くと攻撃する。お主は人を傷つけておらん。妾はそんなお主と戦いたくないのじゃ!」

 狐々愛の言葉を聞いた黒鬼はそこで歩みを止めた。

「己は黒を許諾するにたる器か?」

「は?」

 質問の意図がわからず奏鳴は間抜けな返事をしてしまう。

「奏鳴! 答えるな!」

「もう遅い!」

 突然黒鬼の姿が朧げになり消えた。

「どこに行ったんだ?」

 悠火は小声で呟いた。

「なんだよ逃げたのかっ! かはっ!」

 奏鳴が突然苦しみ出し、地面に倒れた。

「いかん! 奏鳴、気をしっかり持て! 奴に呑まれるでない!」

「狐々愛! どうしたんだよ!」

「黒鬼が奏鳴に憑依したのじゃ! このままでは奏鳴は黒鬼に呑まれるか、最悪死んでしまう!」

「そんな!」

 狐々愛は術式を唱え、印を結ぶ。
 しかし、弾かれたように弾き飛ばされる。

「まずい! 奏鳴の体が器に適し過ぎている! 妾の妖力では抑えられん!」

 狐々愛に無理なものを悠火や光秀がどうこう出来るはずがない。

「何か方法はないのかよ!」

「奏鳴の意思が黒鬼に勝ってくれるのを祈るしか方法がない!」

 その時、悠火はあることを思い出した。

「そうだ!」

悠火は奏鳴に駆け寄り、奏鳴のズボンのポケットから指輪を取り出した。

「奏! これを見ろ! お前は妖怪なんかに負ける男じゃねぇだろ! 帰って来い!」

 奏鳴の目が悠火の持つ指輪を捉えた。
 その瞬間、今までで一番の絶叫を上げて、奏鳴は気絶した。

「おい、奏! しっかりしろ! 奏!」

すると奏鳴は目を開け、ゆっくりと立ち上がった。

「奏……?」

 立ち上がった奏鳴は虚ろな目をして、笑っていた。

「はははは! これだ! この器だ! 力がみなぎってくる!」

「そんな……奏……」

 奏鳴は悠火に手を向けた。

「先ずは貴様からだ! 死ね!」

 悠火は目をつぶって腕で体を守ろうとする。
 しかし、特級妖怪の前でそんな防御は意味をなさず、悠火は吹き飛ばされる。

 ことはなかった。

「ははっ! ビビり過ぎだろ悠火!」

「え?」

 顔を上げるとそこにはいつもの笑顔をした奏鳴がいた。

「どうして、お前……だって」

「あれは冗談だよ。俺は完全に正気だぜ」

 あの時悠火が見せた指輪と声が奏鳴の意思を後押しし、黒鬼の憑依を跳ね除けたのだ。

「それじゃ黒鬼はどこに!?」

「ああ、あいつは俺の中にいるよ」

「はぁ?」

「何か俺の体が適し過ぎてて、自分の意思で出られないみたい」

「そんなことがあるのか?」

 悠火は驚きのあまり何も考えられずにいたが、誰よりも驚いていたのは狐々愛だった。

「奏鳴、体に何も変化はないのか?」

「うん、ないよ」

「ありえん……四百年前の上級妖術師でさえ、鬼に憑依されればひとたまりもないというのに……それを特級の黒鬼じゃぞ?」

「そんなに凄いことなの?」

「ああ、とんでもないことじゃ! 妾が知る限り黒鬼に憑依されて無事じゃった者はもは一人しかおらん。しかし、これで封印しやすくなったな」

 狐々愛が黒鬼を封印するため、妖符を取り出し、詠唱を始める。
 しかし、それを止めたのは奏鳴だった。

「黒鬼が器を欲しがってたのって、妖力が欲しかったからだろ? それなら俺から取ればいいじゃん。そしたらもう人間を襲ったりしないだろうしさ」

「それってつまり?」

黒鬼こいつを俺の式神にする!」




読んでいただきありがとうございます。コングです。

新キャラ黒鬼出ました!
鬼ってカッコいいのでこれからもっと出てくると思います。

他にも有名な妖怪からローカルな妖怪まで出していこうと思いますので、これからもよろしくお願いします!

それではまた次回!



2020/5/5一部改稿

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