人外と友達になる方法
第22話 本当に守るべきもの 〜狐々愛過去篇〜
狐々愛が自分の部屋へと戻ろうとしたとき、異変に気が付いた。
「力が入らない……?」
全身からスッと力が抜け、歩くことさえ出来なくなってしまった。
「どうしてじゃ……?」
考えられる案としては、一つ目が妖力の使い過ぎ、しかし今日狐々愛は全くと言っていい程妖力を使っていない。
そうなると、考えられるのはもう一つの妖術による攻撃だ。
「一体何処から?」
辺りに妖術師はおろか、人の気配は無い。
術式には罠として仕掛けておくことの出来る物がある、今回はそれかもしれない。
「急ぎ妖術師たちに伝えねば、妖怪たちの進行がここまで迫っておると……」
狐々愛は体をひこずりながら本陣へと向かった。
「はぁ、はぁ……」
しかし遂に体力も尽き、狐々愛は道端で倒れてしまった。
「火乃……香……」
一体どれだけの時間が過ぎていっただろうか。
倒れこむ狐々愛にそれを知る術はなかった。
そのとき声が聞こえた。
「間に合いました」
その少し前、妖術師たちの本陣では。
「ハルアキ様、準備完了致しました」
「御苦労、下がって良いぞ」
ハルアキはゆっくりと立ち上がり、術式の準備が整った部屋へと入る。
「術が完成するまで誰も入るな」
そう言い残してハルアキは部屋へと入って行った。
「なぁ、あれってどんな術式なんだ?」
火乃香が仲間の妖術師に聞く。
「ああ、そういや説明のときお前は出陣してていなかったんだったか。あれはとんでもなく強力な封印術式だ」
「封印術式?」
「ああ、何でも一つ術式で何千何万もの妖怪を封印出来るって話だ」
「そりゃ凄えな! でも、そんな術式を展開してハルアキ様は大丈夫なのか?」
「大丈夫らしい、何でも秘策があるらしくてな」
「秘策ねぇ……」
ハルアキの秘策とは一体何なのか、一介の妖術師の火乃香には見当もつかなかった。
ハルアキが部屋に篭って一時間が過ぎた頃、ようやく術式が発動した。
「おお、ようやくですな!」
「これで忌まわしき妖怪どもを封印できますぞ!」
部屋から出てきたハルアキは流石に疲弊しているように見えた。
「ハルアキ様、お疲れ様でございます」
「ああ、これでこの戦も終わる……これも全て彼のおかげだよ」
ハルアキが部屋の隅の壁にもたれていた火乃香を指差した。
「わ、私ですか?」
突然指を刺された火乃香は素っ頓狂な声を上げる。
同じ妖術師ではあるが火乃香はあくまで一兵卒、それに対してハルアキは全妖術師の頂点だ。
そんな人物に突然話題に出されたら驚くのも無理はない。
「左様……君がこの作戦の要だったのだよ伊鳴君」
「私は何もしていませんが……?」
ハルアキは不敵な笑みを浮かべている。
「この術式に使われた妖力はどこから来たものかわかるかね? 伊鳴君」
「……さあ? 私にはわかりかねます」
「今この都で一番の妖術師は誰だと思う?」
「それは……ハルアキ様です」
ハルアキの質問の意図を探ろうとしたが、この都で一番の妖術師はどう考えてもハルアキしかいない。
「ああ、聞き方が悪かったね。僕が聞きたいのはこの都で一番妖力の持っているのは誰かということだ」
「やはり、それもハル……」
そこまで言って火乃香は気が付いた。
「まさか、天狐様ですか?」
「その通りだ。先程展開した術式は天狐様の妖力を利用し発動している」
「それを天狐様は知っていらっしゃるのですか?」
「ん? 何故あの妖怪風情の承諾を得る必要がある? 彼奴も所詮は妖怪。この戦はこの国から妖怪を殲滅する戦であろう?」
ハルアキは火乃香が何を言っているのかわからないと言った顔で淡々と話している。
「この術式はいつまで続くのですか!? この速度で妖力を消費しては天狐様のお身体が保ちません!」
「だから言っているだろう、奴もここで封印する。まあ、その前に妖力が尽きて死ぬと思うがな」
「なっ………!」
火乃香は言葉の意味が理解出来なかった。
この男は一体何を言っているのだ、狐々愛が死ぬというとな確実に聞こえた。
「何でそんなことを! 天狐様は我々と共に悪しき妖怪と戦ってくださったではないですか!? 巫山戯るのも大概にしてください!」
「巫山戯ているのは貴様だ! 我らの敵は妖怪だ! 例え共闘していたとしても、それは我らが利用していたに過ぎん、時が来れば封印するのが我らの使命だ!」
「………」
火乃香は何も言い返せない、ハルアキの言ったことは間違っていないからだ。
妖術師の存在理由は、妖怪を封印すること。
妖怪に両親を殺された記憶のない火乃香にとっては、妖怪に対しての恨みというのはさほど強くなかった。
幼い頃からそう教育されてきたが、あくまで悪い妖怪だけを封印すれば良いと思っていた。
しかし、他の妖術師からすると妖怪に善悪などなどないのだろう。
「今の僕に対する無礼な発言は聞かなかったことにしてあげよう。何せ君はこの作戦を成功に導いた英雄なのだから」
「それは、どういうことですか……?」
火乃香は特に何かをしたわけではない。
それなのに英雄とは一体どういうことなのか。
「不思議に思わないかい? かの大妖怪天狐がこんなにも簡単に術式にはまってしまうなんて……。しかし理由は単純明快、君の体に術式を仕込んでおいたんだ。いや、正確には君のその数珠にね。長時間一緒にいると天狐に術式が移るような」
「そん……な……」
信じられなかった。
いや、信じたくなかった。
それはつまり、狐々愛を窮地に陥れたのは火乃香だったのだ。
火乃香は膝から崩れ落ち、俯くしかなかった。
「ん? 術式が弱まったな。天狐がくたばったか?」
ハルアキの言葉に火乃香は動揺を隠せなかった。
「天狐様が、死んだ……?」
しかし、その考えは周りで見ていた一人の妖術師によって打ち消された。
「ハルアキ様。まだ微かではありますが町の外れに天狐様の妖力が感じらます」
「そうか、まあこのまま妖力を使い続けるとあと半刻としないうちにくたばるだろう。放っておけ」
タイムリミットまであと半刻
「ハルアキ様。私は天狐様の元へ行って参ります」
「何を言っておる? 僕の指示を聞かないということか?」
「はい」
「二度目は無いぞ?」
「わかっています」
「そうか、なら……皆の者! その裏切り者をひっ捕らえろ!」
ハルアキの指示に周りにいた妖術師たちが一斉に火乃香に襲いかかる。
「翔脚符!」
火乃香は妖力の篭った札、妖符を使い、自分の足にスピードアップの術式をかけた。
そして、雷のような速さで包囲を抜け狐々愛の元へと向かう。
「待っていてください! 天狐様!」
読んでいただきありがとうございます。コングです。
今回も少し長くなってしまいました。
過去篇もあと一話で終わると思います。多分。
会話にカタカナ語使えないのって案外キツイです。
なので、ちょっと変な言い回しだな、と思ったそこの貴方! それは作者のボキャ貧が生んだ産物ですので、ご了承を。
それではまた次回!
2020/4/24一部改稿
「力が入らない……?」
全身からスッと力が抜け、歩くことさえ出来なくなってしまった。
「どうしてじゃ……?」
考えられる案としては、一つ目が妖力の使い過ぎ、しかし今日狐々愛は全くと言っていい程妖力を使っていない。
そうなると、考えられるのはもう一つの妖術による攻撃だ。
「一体何処から?」
辺りに妖術師はおろか、人の気配は無い。
術式には罠として仕掛けておくことの出来る物がある、今回はそれかもしれない。
「急ぎ妖術師たちに伝えねば、妖怪たちの進行がここまで迫っておると……」
狐々愛は体をひこずりながら本陣へと向かった。
「はぁ、はぁ……」
しかし遂に体力も尽き、狐々愛は道端で倒れてしまった。
「火乃……香……」
一体どれだけの時間が過ぎていっただろうか。
倒れこむ狐々愛にそれを知る術はなかった。
そのとき声が聞こえた。
「間に合いました」
その少し前、妖術師たちの本陣では。
「ハルアキ様、準備完了致しました」
「御苦労、下がって良いぞ」
ハルアキはゆっくりと立ち上がり、術式の準備が整った部屋へと入る。
「術が完成するまで誰も入るな」
そう言い残してハルアキは部屋へと入って行った。
「なぁ、あれってどんな術式なんだ?」
火乃香が仲間の妖術師に聞く。
「ああ、そういや説明のときお前は出陣してていなかったんだったか。あれはとんでもなく強力な封印術式だ」
「封印術式?」
「ああ、何でも一つ術式で何千何万もの妖怪を封印出来るって話だ」
「そりゃ凄えな! でも、そんな術式を展開してハルアキ様は大丈夫なのか?」
「大丈夫らしい、何でも秘策があるらしくてな」
「秘策ねぇ……」
ハルアキの秘策とは一体何なのか、一介の妖術師の火乃香には見当もつかなかった。
ハルアキが部屋に篭って一時間が過ぎた頃、ようやく術式が発動した。
「おお、ようやくですな!」
「これで忌まわしき妖怪どもを封印できますぞ!」
部屋から出てきたハルアキは流石に疲弊しているように見えた。
「ハルアキ様、お疲れ様でございます」
「ああ、これでこの戦も終わる……これも全て彼のおかげだよ」
ハルアキが部屋の隅の壁にもたれていた火乃香を指差した。
「わ、私ですか?」
突然指を刺された火乃香は素っ頓狂な声を上げる。
同じ妖術師ではあるが火乃香はあくまで一兵卒、それに対してハルアキは全妖術師の頂点だ。
そんな人物に突然話題に出されたら驚くのも無理はない。
「左様……君がこの作戦の要だったのだよ伊鳴君」
「私は何もしていませんが……?」
ハルアキは不敵な笑みを浮かべている。
「この術式に使われた妖力はどこから来たものかわかるかね? 伊鳴君」
「……さあ? 私にはわかりかねます」
「今この都で一番の妖術師は誰だと思う?」
「それは……ハルアキ様です」
ハルアキの質問の意図を探ろうとしたが、この都で一番の妖術師はどう考えてもハルアキしかいない。
「ああ、聞き方が悪かったね。僕が聞きたいのはこの都で一番妖力の持っているのは誰かということだ」
「やはり、それもハル……」
そこまで言って火乃香は気が付いた。
「まさか、天狐様ですか?」
「その通りだ。先程展開した術式は天狐様の妖力を利用し発動している」
「それを天狐様は知っていらっしゃるのですか?」
「ん? 何故あの妖怪風情の承諾を得る必要がある? 彼奴も所詮は妖怪。この戦はこの国から妖怪を殲滅する戦であろう?」
ハルアキは火乃香が何を言っているのかわからないと言った顔で淡々と話している。
「この術式はいつまで続くのですか!? この速度で妖力を消費しては天狐様のお身体が保ちません!」
「だから言っているだろう、奴もここで封印する。まあ、その前に妖力が尽きて死ぬと思うがな」
「なっ………!」
火乃香は言葉の意味が理解出来なかった。
この男は一体何を言っているのだ、狐々愛が死ぬというとな確実に聞こえた。
「何でそんなことを! 天狐様は我々と共に悪しき妖怪と戦ってくださったではないですか!? 巫山戯るのも大概にしてください!」
「巫山戯ているのは貴様だ! 我らの敵は妖怪だ! 例え共闘していたとしても、それは我らが利用していたに過ぎん、時が来れば封印するのが我らの使命だ!」
「………」
火乃香は何も言い返せない、ハルアキの言ったことは間違っていないからだ。
妖術師の存在理由は、妖怪を封印すること。
妖怪に両親を殺された記憶のない火乃香にとっては、妖怪に対しての恨みというのはさほど強くなかった。
幼い頃からそう教育されてきたが、あくまで悪い妖怪だけを封印すれば良いと思っていた。
しかし、他の妖術師からすると妖怪に善悪などなどないのだろう。
「今の僕に対する無礼な発言は聞かなかったことにしてあげよう。何せ君はこの作戦を成功に導いた英雄なのだから」
「それは、どういうことですか……?」
火乃香は特に何かをしたわけではない。
それなのに英雄とは一体どういうことなのか。
「不思議に思わないかい? かの大妖怪天狐がこんなにも簡単に術式にはまってしまうなんて……。しかし理由は単純明快、君の体に術式を仕込んでおいたんだ。いや、正確には君のその数珠にね。長時間一緒にいると天狐に術式が移るような」
「そん……な……」
信じられなかった。
いや、信じたくなかった。
それはつまり、狐々愛を窮地に陥れたのは火乃香だったのだ。
火乃香は膝から崩れ落ち、俯くしかなかった。
「ん? 術式が弱まったな。天狐がくたばったか?」
ハルアキの言葉に火乃香は動揺を隠せなかった。
「天狐様が、死んだ……?」
しかし、その考えは周りで見ていた一人の妖術師によって打ち消された。
「ハルアキ様。まだ微かではありますが町の外れに天狐様の妖力が感じらます」
「そうか、まあこのまま妖力を使い続けるとあと半刻としないうちにくたばるだろう。放っておけ」
タイムリミットまであと半刻
「ハルアキ様。私は天狐様の元へ行って参ります」
「何を言っておる? 僕の指示を聞かないということか?」
「はい」
「二度目は無いぞ?」
「わかっています」
「そうか、なら……皆の者! その裏切り者をひっ捕らえろ!」
ハルアキの指示に周りにいた妖術師たちが一斉に火乃香に襲いかかる。
「翔脚符!」
火乃香は妖力の篭った札、妖符を使い、自分の足にスピードアップの術式をかけた。
そして、雷のような速さで包囲を抜け狐々愛の元へと向かう。
「待っていてください! 天狐様!」
読んでいただきありがとうございます。コングです。
今回も少し長くなってしまいました。
過去篇もあと一話で終わると思います。多分。
会話にカタカナ語使えないのって案外キツイです。
なので、ちょっと変な言い回しだな、と思ったそこの貴方! それは作者のボキャ貧が生んだ産物ですので、ご了承を。
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コメント
コング“シルバーバック”
拾って来ましたー。画力は持ち合わせてないので……
白葉南瓜
前々から気になってたんですけど、表紙は拾ってきました?それとも描いてもらいました?(or描きました?