人外と友達になる方法

コング“シルバーバック”

第8話 三つの掟 〜学校篇〜

 学校に着くといつも通り、奏鳴と光秀がそれぞれの机に座って読書やら、宿題やらをしていた。

「お、悠火! おはよう!」

「おはよう悠火」

 相変わらず奏鳴の声は朝から大きい。
 元気があっていいことだが、朝はもう少し声量を抑えて欲しい。

「奏うるさい」

 なんて思っていたら光秀が悠火の思っていたことを言ってくれた。

「おっす、奏。光秀」

 二人に挨拶し、自分の席に荷物を置く。
 その後奏鳴と悠火の二人で、光秀の席の周りに行き三人で話すのがいつもの恒例行事だ。

「なぁ、お前ら昨日のさ……」

 天狐の術によって昨日のことは忘れているはずだが、一応聞いてみる。

「昨日? ああ、結局何もなかったな」

「だから言っただろ?」

 どうやら天狐は記憶を消したのではなく、上書きしたらしい。
 昨日洞窟では何もなかったと。

「ああ、そうだな」

 悠火は二人に気づかれないように自然に振る舞う。

「あ、でもさ!」

 突然奏鳴が大声を上げたので悠火は昨日のことを思い出したのではないかと一瞬ドキッとした。

「魂が抜けたみたいになるってやつ。今日みんな元気になってたらしいんだよ」

「へぇ、いいことじゃないか?」

「せっかく俺が謎を解いてやろうと思ったのになぁ」

 恐らくみんなが元気になった理由は、天狐が河童を倒してくれたからだろう。
 奏鳴は残念そうにしているが、悠火は内心ほっとしていた。
 もし昨日のことを思い出したのならまた天狐に記憶を消してもらわなければならない。
 流石に親友の記憶を二度も弄るのは気が引ける。

「それはそうと、今日は宿題やって来たのか?」

「もちろん! これで数学は当てられても大丈夫だぜ!」

 奏鳴は自身ありげにノートを悠火たちに見せつける。
 光秀が鼻で笑ったところをみると全問撃沈のようだがそれは恐らく悠火も同様なので触れないでおく。

「数学はいいかもだけど、国語の山本も日付と出席番号で当てるからな」

「ん? 今日は俺の出席番号じゃないぞ?」

「今日は奏の前の席の清水さんだよ? だから、多分奏も当てられるよ」

「マジかよ〜」

「ドンマイ」

 奏鳴は肩を落とし落ち込む。
 そんなくだらない話をしている間にあっという間に時間は過ぎ、朝のホームルームが始まる。
 こうしてまた何気ない一日が始まった。




「ただいま〜」

 一日の疲れと共に荷物を机の上に置く。

「お帰り悠火」

 静香は晩ご飯の準備中だ。
 人参や玉葱、ジャガイモを切っているところを見るにカレーか肉じゃがだろう。

「ただいま婆ちゃん。天狐は?」

 部屋に天狐の姿は無い。
 もちろん依り代のブレスレットにもいないため、天狐はこの家のどこかにいるはずなのだが。

「天狐ちゃんなら悠火の部屋にいるわよ」

「わかった」

 悠火は二階の自分の部屋へと向かう。
 疲れていると二階に登るのも億劫になるがこればかりは仕方ない。
 階段を登り部屋のドアに手をかけ開ける。

「ただいま天狐」

「ん? おお、お帰り悠火」

 天狐は床に正座して漫画を読んでいた。
 それもかなりグロい巨人が人を食べたりするやつを。

「……天狐、そんなの血とか出るやつ読んで平気なの?」

「ん〜、このくらいは見慣れておるからの」

「へ〜………ん? 見慣れてるって言った? 今」

 天狐があまりにも涼しい顔をしているので、聞き流しそうになったが、天狐は見慣れていると言ったのだ。
 この、グロテスクな描写を。
 一体どんな人生、いや狐生を送ってきたのだろうか。

「妾が封印される前は戦乱の世だったからのう。日本のいたるところで殺し合いが起こっておった。妖怪とて、無関係ではなかった……」

 語尾が弱くなる天狐の様子を見て察しないほど悠火は鈍感ではない。
 言いたく無いこともあるのだろう。
 明るく気丈に振る舞っているが悠火の考えが及ばないほど壮絶な過去を背負っているのだろう。

「そっか」

 悠火はそれ以外何も聞かなかった。
 いや、聞けなかった。

「お前、一日中漫画読んでたのか?」

「いや、家の中を探検したり、静香殿と一緒にご飯を作って食べたり、てれびを見たりしておった」

 やる事がなくて仕方ないとは言え、やってる事がまるで自宅警備員のそれだ。

「大分くつろいでるな」

「おかげさまでの。じゃが、やっぱり退屈じゃのう」

 天狐は読んでいた漫画を閉じて本棚に戻す。

「あ、そうじゃ。昨日説明できなかった式神の細かい説明をしておこう」

「ああ、そうだな」

 悠火は天狐と向かい合うようにして座る。
 天狐が正座のため何となく悠火もつられて正座をする。

「先ず初めに、式神の掟を教えておこう」

「お願いします。先生」

「うむ。掟其の一、式神は同時に一人の術者としか契約できない」

「つまり、お前は俺以外の式神になれないってことね。OKわかった」

「次に掟其の二、術者は同時に何体の式神とも契約ができる」

「天狐以外の妖怪も式神にできる……と」

悠火は忘れないようにメモに書き留めておくことにした。

「掟其の三、式神は術者の命令には逆らえない」

「命令には逆らえない……っと」

「この三つが式神使いとして覚えておくと最低限の掟じゃな」

「なるほどなるほど」

「つまり、この掟を簡単にまとめるとじゃな」

 天狐は少し間を置いて言った。
 何やら悪戯っ子のような顔をしているのが気になる。
 凄く嫌な予感しかしない。

「妾は悠火だけのもの、にもかかわらず悠火は他の妖怪と浮気し放題、そして妾は悠火に絶対服従、というわけじゃな」

 やっぱり嫌な予感は当たるものだ。

「何それ! その解釈だと、語弊しか生まれないよ!」

 天狐は悠火をからかって楽しそうに笑う。
 しかしそんな笑顔が見れるなら、少しくらいからかわれるのも悪くないと思う悠火だった。




読んでいただきありがとうございます。コングです。

天狐は長い間封印されていたので、英語はもちろん、カタカナも読めません。なので漫画は漢字と平仮名、絵だけで読んでました。

それではまた次回!



2020/4/13一部改稿

コメント

  • コング“シルバーバック”

    読めるけど意味は理解できないって感じですね

    0
  • 黄崎うい

    カタカナって平仮名と同じくらい昔からあったような…

    1
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