陽光の黒鉄
第44話 ハワイにて
イギリス海軍とアメリカ海軍の大海戦となったアゾレス諸島沖海戦は、戦略的に見ればイギリス艦隊の勝利と言えよう。アメリカ海軍はこの島を取ることができなくなったためにイギリスに渡すしか手はなくなった。
つまり大西洋の派遣への軍配はイギリスに大きく傾いたと言っても過言ではない。
「とはいえど、大きな被害だな」
金剛は無線機に耳を当てながら言った。
彼女が聞いているのは日本のNHKが流しているアゾレス諸島沖海戦の結果だ。お互いに大型艦に関しては沈没はしなかったものの大破、ないしは中破した艦艇が数多く出ており完全な復旧までに一年はかかると思われている。
「今米海軍の力が弱まっている。今のうちに攻撃を行えば、確実に米国に大きな衝撃を与えられるわ」
金剛と同じように無線を聞いていた長門は言う。
「しかし、米本土までの距離はかなり長いです。いくらここハワイからとはいっても危険も大きいですよ」
大和は心配げに言う。
「そもそも我が軍の作戦の基本は漸減作戦だからな。外洋に出ることを考えていないから、これから先の戦いはどのようになるか、想定もできん」
金剛はうむと頷いて、自分用の紅茶を飲む。
「腕を上げたな、大和」
この紅茶を淹れたのは大和だ。
嬉しそうに大和はありがとうございますと言う。
「それに補給はどうするの? むこうで戦闘を行って帰ってきたとしたら我々大型艦は持ちこたえられるけど駆逐艦の子たちは心配よ」
「実は私は燃費が悪くて、駆逐艦の子たちより少しマシな程度です」
大和の言葉に長門が付け加える。
「そうか! すっかり忘れていた! おまえ、足短いんだった!」
金剛はしまったという顔で頭を押さえる。
長門型は航続速力で走っても6000海里まで走れない。
「大和型だけでは厳しいしな。政治的に影響力のある長門型と見せた方が良いことには良いのだが……」
大和の隣にいたおかっぱ頭の小さな子供がつぶやく。
「武蔵、先輩なんだから長門さんと言いなさい」
大和はその子供をたしなめる。今まで様々な要因で実戦配備が遅れていた武蔵がようやく配備されたのだ。
「分かるけど、型で呼ぶ場合はやむを得ないでしょう」
武蔵は反論する。
「まあ、良いわよ。普段しっかりと敬語は使っているのだから」
長門が気にしないわと言ってなだめた。彼女らが話しているのはアメリカ本土への攻撃作戦だ。といっても狙うのは住宅街ではなく、沿岸部にある軍事設備である。
しかし、住民が直接見られる位置から攻撃を行うことで、アメリカ国内での厭戦気分を盛り上げるという政治的な狙いもある。
「まあ、水上艦艇で有力な部隊はいないだろう。問題は潜水艦と航空機だが、航空機ごときにやられる戦艦ではない。対潜攻撃に関して言えば我が海軍が練度的にも数的にも世界一だ。それほど心配は大きくない。むしろ問題なのはどうやって燃料を持たせるかだ」
「外洋は荒れるからできれば駆逐艦の子たちに補給はさせたくないのよね」
「でもそれを言っている場合ではないでしょう。おそらくは補給をせずに帰れば果たしてハワイまでたどり着けるか分かりませんよ」
「そうだな。今のタイミングを逃す手はないし、少し無理をしてでも攻撃をすべきだろう」
金剛がそう締めくくってこの話し合いを終えた。
「分かっているんでしょう、金剛?」
大和と武蔵がいなくなった部屋で長門が金剛に話しかけた。
「いったい何のことだ?」
「私たち、戦艦の時代は終わりに近いって事」
「……」
「今回のアゾレス諸島沖海戦、最終的に勝敗を決めたのは航空機だったわ。あれがなければアメリカ海軍は完膚なきまでに負けていた」
「お主も気づいていたか……。先ほどの話し合いでは航空機なぞと大見得を切って見せたが、実際はその逆。我々に取って代わり覇者となり得るモノであろう」
「彼女らの前でそんなことは言えないわよね……。世界最強の戦艦として誕生したという誇りと希望を持っている彼女らの前であなたたちの時代はもう終りなのよ、なんて」
「ああ。おそらくこのたびの戦い想定より厳しいモノとなるであろうな。あのアメリカという国は我が軍が目と鼻の先に迫っているのに手をこまねいて見ている国ではない。必ず何かしら手を打っている。彼らの場合は水上戦力に頼れないとならば手はほぼ一つ」
「航空機ね」
「あの国は優秀な航空機を何機も持っている。それに対し我が軍はせいぜい艦上戦闘機と偵察機がちょっといる程度だ。全力でかかってこられれば、こちらが持たない」
「どちらにせよ。楽には勝たせてはくれないって事ね……」
「そうだ」
「まあ、それにしてもあなたが素直に航空機を認めるのは意外だったわ。もう少し抵抗すると思っていたけど……」
「やむを得ないだろう。第二の故郷であるイギリスの戦艦群があそこまでやられたらな」
つまり大西洋の派遣への軍配はイギリスに大きく傾いたと言っても過言ではない。
「とはいえど、大きな被害だな」
金剛は無線機に耳を当てながら言った。
彼女が聞いているのは日本のNHKが流しているアゾレス諸島沖海戦の結果だ。お互いに大型艦に関しては沈没はしなかったものの大破、ないしは中破した艦艇が数多く出ており完全な復旧までに一年はかかると思われている。
「今米海軍の力が弱まっている。今のうちに攻撃を行えば、確実に米国に大きな衝撃を与えられるわ」
金剛と同じように無線を聞いていた長門は言う。
「しかし、米本土までの距離はかなり長いです。いくらここハワイからとはいっても危険も大きいですよ」
大和は心配げに言う。
「そもそも我が軍の作戦の基本は漸減作戦だからな。外洋に出ることを考えていないから、これから先の戦いはどのようになるか、想定もできん」
金剛はうむと頷いて、自分用の紅茶を飲む。
「腕を上げたな、大和」
この紅茶を淹れたのは大和だ。
嬉しそうに大和はありがとうございますと言う。
「それに補給はどうするの? むこうで戦闘を行って帰ってきたとしたら我々大型艦は持ちこたえられるけど駆逐艦の子たちは心配よ」
「実は私は燃費が悪くて、駆逐艦の子たちより少しマシな程度です」
大和の言葉に長門が付け加える。
「そうか! すっかり忘れていた! おまえ、足短いんだった!」
金剛はしまったという顔で頭を押さえる。
長門型は航続速力で走っても6000海里まで走れない。
「大和型だけでは厳しいしな。政治的に影響力のある長門型と見せた方が良いことには良いのだが……」
大和の隣にいたおかっぱ頭の小さな子供がつぶやく。
「武蔵、先輩なんだから長門さんと言いなさい」
大和はその子供をたしなめる。今まで様々な要因で実戦配備が遅れていた武蔵がようやく配備されたのだ。
「分かるけど、型で呼ぶ場合はやむを得ないでしょう」
武蔵は反論する。
「まあ、良いわよ。普段しっかりと敬語は使っているのだから」
長門が気にしないわと言ってなだめた。彼女らが話しているのはアメリカ本土への攻撃作戦だ。といっても狙うのは住宅街ではなく、沿岸部にある軍事設備である。
しかし、住民が直接見られる位置から攻撃を行うことで、アメリカ国内での厭戦気分を盛り上げるという政治的な狙いもある。
「まあ、水上艦艇で有力な部隊はいないだろう。問題は潜水艦と航空機だが、航空機ごときにやられる戦艦ではない。対潜攻撃に関して言えば我が海軍が練度的にも数的にも世界一だ。それほど心配は大きくない。むしろ問題なのはどうやって燃料を持たせるかだ」
「外洋は荒れるからできれば駆逐艦の子たちに補給はさせたくないのよね」
「でもそれを言っている場合ではないでしょう。おそらくは補給をせずに帰れば果たしてハワイまでたどり着けるか分かりませんよ」
「そうだな。今のタイミングを逃す手はないし、少し無理をしてでも攻撃をすべきだろう」
金剛がそう締めくくってこの話し合いを終えた。
「分かっているんでしょう、金剛?」
大和と武蔵がいなくなった部屋で長門が金剛に話しかけた。
「いったい何のことだ?」
「私たち、戦艦の時代は終わりに近いって事」
「……」
「今回のアゾレス諸島沖海戦、最終的に勝敗を決めたのは航空機だったわ。あれがなければアメリカ海軍は完膚なきまでに負けていた」
「お主も気づいていたか……。先ほどの話し合いでは航空機なぞと大見得を切って見せたが、実際はその逆。我々に取って代わり覇者となり得るモノであろう」
「彼女らの前でそんなことは言えないわよね……。世界最強の戦艦として誕生したという誇りと希望を持っている彼女らの前であなたたちの時代はもう終りなのよ、なんて」
「ああ。おそらくこのたびの戦い想定より厳しいモノとなるであろうな。あのアメリカという国は我が軍が目と鼻の先に迫っているのに手をこまねいて見ている国ではない。必ず何かしら手を打っている。彼らの場合は水上戦力に頼れないとならば手はほぼ一つ」
「航空機ね」
「あの国は優秀な航空機を何機も持っている。それに対し我が軍はせいぜい艦上戦闘機と偵察機がちょっといる程度だ。全力でかかってこられれば、こちらが持たない」
「どちらにせよ。楽には勝たせてはくれないって事ね……」
「そうだ」
「まあ、それにしてもあなたが素直に航空機を認めるのは意外だったわ。もう少し抵抗すると思っていたけど……」
「やむを得ないだろう。第二の故郷であるイギリスの戦艦群があそこまでやられたらな」
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