陽光の黒鉄
第20話 日米戦艦の激戦③
「何でこんな所に……!」
ペンシルバニアは思わず唸った。
日本海軍の主力艦である長門型二隻が艦隊前面から攻撃を加えてきた時点で、日本海軍の主力部隊はその周辺にいると考えていた。何せ虎の子の四十センチ砲搭載艦だ。その艦を水雷戦隊の護衛のみで太平洋艦隊に突っ込ませるはずがない。
普通に考えれば、分かることだ。
しかし日本海軍は、その常識を打ち破りまさかの主力を囮に使うという思い切った手に出てきた。
「さすがはトウゴウの後継者達ね! 一筋縄ではいかないわ!」
いつまでも奇襲に対して狼狽えて手をこまねくわけにはいかない。
測距を開始し、砲撃を開始しようとする。
「何、こんなに遠いの!」
予想外に敵は遠距離から撃ってきており、最大射程にすら入っていない。
「私から行くしかないのね……」
ペンシルバニアは低速艦だ。急いで近づいても何度もの砲撃をかいくぐる必要がある。しかも当たればただでは済まないのは周囲に挙がる水柱の大きさを見れば一目瞭然だ。
その一本一本が数千年の樹齢を持つ大樹のような太さのものであり、これほどの太さのものは未だかつて見たことが無い。
と言うことは敵は十六インチ以上の大きさを持つ主砲であるということだ。
そのような艦からの砲撃が万が一にも当たれば、ペンシルバニアはただでは済まない。況してや遠距離からの射撃だ。敵の砲弾は甲板に対し垂直に近い形で落下してくる。下手をすれば弾薬庫を打ち抜かれ一発で爆沈という最悪の自体もありうる。
「だけど、アメリカのガッツをなめてもらっては困るわ! 全艦我に続け!」
そのような危険に怯えているほど臆病な艦では太平洋艦隊旗艦はつとまらない。
即座に反撃の決心をして、遠方から撃ってくる敵艦に対して突撃を開始した。
「勇敢な艦ね。出来ればこのような形で会いたくはなかった……」
大和は静かに言った。
彼女は今第一砲塔の上に正座しており、目の前には楽器の琴が置かれている。彼女にとってこれが主砲発射時に使うものだ。
一般的に艦魂が主砲発射時に使うものは拳銃だ。実は主砲発射時に使うものは何でも良く極端な話、何も使わなくても良いのだが、彼女たちの精神的な面で武器を用いた方が主砲発射のイメージが尽きやすいことから彼女たちは拳銃のような武器を用いる。艦魂の精神的な動きは艦に諸に反映されるために、もしイメージが上手く付かなければ、最悪主砲発射が出来なくなることもある。
そのために普通の艦魂は確実にイメージがしやすい拳銃を使うのだ。
しかし、大和は違う。
彼女は主砲を武器と捉えたくはなかった。それは何故かは分からない。とにもかくにも彼女が一番イメージがしやすかったのは琴であった。
「では、始めましょうか」
そう言って、静かに琴に手を掛け弦を弾く。
するとそれに呼応したかのように主砲の砲身が天を睨む。
「放て」
静かに言って、続け弦を立て続けに三つ弾く。
主砲が轟音と共に重さ一トン以上の砲弾を音速の二倍の速さにまであげ打ち出した。その轟音は周辺の海面を激しく打ち振るわす。
その中で大和は何事もないかのように曲を奏で始めた。
曲の名は「月光」。
勇壮な行進曲でも神々しい教会音楽でもない。本来であればピアノを用いて弾く静かな曲。その曲をよりにもよって、この激しい砲撃音がする中で弾いている。その姿は異様な光景であった。
敵艦目掛けて打ち出された砲弾はあっという間に米艦隊の元へ到達し、その周辺に降り注ぐ。
「微妙ね。もう少し仰角を挙げるかしら」
肉眼で水柱の一の確認を終え、琴の音を一段上げた。
今まで装填のために下がっていた砲身が仰角を再度上げ、先よりも高い位置で止まる。
そして、大和が一斉に弦を弾くのに合わせて砲撃を行った。
「さすがは日本海軍の新鋭艦だわ……」
ペンシルバニアは唸るように言った。
先ほどの着弾はかなり危険であと少し前に出ていたら直撃をしていたほど近距離に落下していた。敵艦の砲手の腕は相当良いようだ。
「だけど、こちらも負けるわけにはいかないの!」
そう言って拳銃を構える。
最大射程に間もなく到着をするペンシルバニアはその時を待って、静かに構えの姿勢を維持する。
その間にも敵戦艦からの砲撃が降り注ぎ、周囲に水柱を上げるが直撃に到らない。
「このまま、このまま間に合って!」
心の中で神に祈りながら、ペンシルバニアは構えを崩しはしない。
右舷の遠方では既に水雷戦隊同士の激突が起きているらしく、発射の火柱や時折、直撃をしたのか爆発音が聞こえてくる。それが味方のものなのか敵のものなのかを確認する術はペンシルバニアは持たない。今、艦の全ての能力は敵艦に砲弾を命中させるその一点に掛かっている。
「射程圏内に到達!」
それが分かった瞬間、ペンシルバニアは思いっきり引き金を引いた。
それに合わせるかのように大和型の後方にいた35.6センチ砲搭載艦も相次いで砲撃を開始する。
米艦隊の戦艦は三五,六センチ砲搭載艦が六隻、日本海軍の戦艦は大和一隻と35.6センチ砲搭載艦が四隻。
互いにほぼ同数の戦艦がトラック諸島の沖で本格的な砲撃戦を開始した。
ペンシルバニアは思わず唸った。
日本海軍の主力艦である長門型二隻が艦隊前面から攻撃を加えてきた時点で、日本海軍の主力部隊はその周辺にいると考えていた。何せ虎の子の四十センチ砲搭載艦だ。その艦を水雷戦隊の護衛のみで太平洋艦隊に突っ込ませるはずがない。
普通に考えれば、分かることだ。
しかし日本海軍は、その常識を打ち破りまさかの主力を囮に使うという思い切った手に出てきた。
「さすがはトウゴウの後継者達ね! 一筋縄ではいかないわ!」
いつまでも奇襲に対して狼狽えて手をこまねくわけにはいかない。
測距を開始し、砲撃を開始しようとする。
「何、こんなに遠いの!」
予想外に敵は遠距離から撃ってきており、最大射程にすら入っていない。
「私から行くしかないのね……」
ペンシルバニアは低速艦だ。急いで近づいても何度もの砲撃をかいくぐる必要がある。しかも当たればただでは済まないのは周囲に挙がる水柱の大きさを見れば一目瞭然だ。
その一本一本が数千年の樹齢を持つ大樹のような太さのものであり、これほどの太さのものは未だかつて見たことが無い。
と言うことは敵は十六インチ以上の大きさを持つ主砲であるということだ。
そのような艦からの砲撃が万が一にも当たれば、ペンシルバニアはただでは済まない。況してや遠距離からの射撃だ。敵の砲弾は甲板に対し垂直に近い形で落下してくる。下手をすれば弾薬庫を打ち抜かれ一発で爆沈という最悪の自体もありうる。
「だけど、アメリカのガッツをなめてもらっては困るわ! 全艦我に続け!」
そのような危険に怯えているほど臆病な艦では太平洋艦隊旗艦はつとまらない。
即座に反撃の決心をして、遠方から撃ってくる敵艦に対して突撃を開始した。
「勇敢な艦ね。出来ればこのような形で会いたくはなかった……」
大和は静かに言った。
彼女は今第一砲塔の上に正座しており、目の前には楽器の琴が置かれている。彼女にとってこれが主砲発射時に使うものだ。
一般的に艦魂が主砲発射時に使うものは拳銃だ。実は主砲発射時に使うものは何でも良く極端な話、何も使わなくても良いのだが、彼女たちの精神的な面で武器を用いた方が主砲発射のイメージが尽きやすいことから彼女たちは拳銃のような武器を用いる。艦魂の精神的な動きは艦に諸に反映されるために、もしイメージが上手く付かなければ、最悪主砲発射が出来なくなることもある。
そのために普通の艦魂は確実にイメージがしやすい拳銃を使うのだ。
しかし、大和は違う。
彼女は主砲を武器と捉えたくはなかった。それは何故かは分からない。とにもかくにも彼女が一番イメージがしやすかったのは琴であった。
「では、始めましょうか」
そう言って、静かに琴に手を掛け弦を弾く。
するとそれに呼応したかのように主砲の砲身が天を睨む。
「放て」
静かに言って、続け弦を立て続けに三つ弾く。
主砲が轟音と共に重さ一トン以上の砲弾を音速の二倍の速さにまであげ打ち出した。その轟音は周辺の海面を激しく打ち振るわす。
その中で大和は何事もないかのように曲を奏で始めた。
曲の名は「月光」。
勇壮な行進曲でも神々しい教会音楽でもない。本来であればピアノを用いて弾く静かな曲。その曲をよりにもよって、この激しい砲撃音がする中で弾いている。その姿は異様な光景であった。
敵艦目掛けて打ち出された砲弾はあっという間に米艦隊の元へ到達し、その周辺に降り注ぐ。
「微妙ね。もう少し仰角を挙げるかしら」
肉眼で水柱の一の確認を終え、琴の音を一段上げた。
今まで装填のために下がっていた砲身が仰角を再度上げ、先よりも高い位置で止まる。
そして、大和が一斉に弦を弾くのに合わせて砲撃を行った。
「さすがは日本海軍の新鋭艦だわ……」
ペンシルバニアは唸るように言った。
先ほどの着弾はかなり危険であと少し前に出ていたら直撃をしていたほど近距離に落下していた。敵艦の砲手の腕は相当良いようだ。
「だけど、こちらも負けるわけにはいかないの!」
そう言って拳銃を構える。
最大射程に間もなく到着をするペンシルバニアはその時を待って、静かに構えの姿勢を維持する。
その間にも敵戦艦からの砲撃が降り注ぎ、周囲に水柱を上げるが直撃に到らない。
「このまま、このまま間に合って!」
心の中で神に祈りながら、ペンシルバニアは構えを崩しはしない。
右舷の遠方では既に水雷戦隊同士の激突が起きているらしく、発射の火柱や時折、直撃をしたのか爆発音が聞こえてくる。それが味方のものなのか敵のものなのかを確認する術はペンシルバニアは持たない。今、艦の全ての能力は敵艦に砲弾を命中させるその一点に掛かっている。
「射程圏内に到達!」
それが分かった瞬間、ペンシルバニアは思いっきり引き金を引いた。
それに合わせるかのように大和型の後方にいた35.6センチ砲搭載艦も相次いで砲撃を開始する。
米艦隊の戦艦は三五,六センチ砲搭載艦が六隻、日本海軍の戦艦は大和一隻と35.6センチ砲搭載艦が四隻。
互いにほぼ同数の戦艦がトラック諸島の沖で本格的な砲撃戦を開始した。
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