陽光の黒鉄
第19話 大和の咆吼
時は若干遡り、まだメリーランド達が砲撃戦を行っていたとき、米艦隊本隊でも一大海戦が起ころうとしていた。
「敵艦隊、視認! 本艦十二時! 距離30!」
見張り員が夜戦艦橋に控えていた艦長に向け報告を行った。
「遠いな。もう少し引きつけねば命中は見込めんな」
その場にいる連合艦隊司令長官の古賀は唸るように言った。
彼は現在麾下の第一、第二艦隊を率いて出撃してきている。と言っても第一艦隊の主力である長門型戦艦二隻は米艦隊の先鋒と激突をしているため、今この場にはいない。
「ですが、本艦の射程圏内ではあります。長官、砲撃開始の命令をお出しになっては如何ですか?」
参謀長の宇垣纏が意見具申を行う。
「ふむ。確かに、参謀長の意見も一理あるな。艦長、砲撃を開始せよ!」
「了解! 砲撃を始めます!」
そう言って艦長の宮里秀徳艦長が艦橋内に設置された艦橋上部にある射撃指揮所への艦内電話を取り、言った。
「砲撃はじめ!」
砲撃はじめ、と砲術長が復唱し、既に準備を整えていた第一、第二砲塔が一門ずつ砲撃をした。
砲撃の瞬間、耳元で雷鳴を鳴らされたような轟音が響き、同時に体が何かに強く押されるような感覚に襲われた。
世界最大の艦載砲が初めて砲撃を行った瞬間に艦橋にいた誰もが、気分の高揚を抑えきれなかった。
しかし、古賀や宇垣を初めとする連合艦隊司令部幕僚は、その高揚すら煩わしく感じるほど緊張しきっていた。
この戦いは日本存亡を決める重要な戦いとなる。もし連合艦隊が敗れれば、日本の負けは初戦で決まってしまうのだ。絶対に負けられない戦いである。
その戦いにおいて、存外に長門と陸奥は米戦艦に苦戦を強いられており、連合艦隊司令部としては気が気では無かった。
そんな連合艦隊司令部の心中を気にせず、大和は第二射を放つ。先ほど同様強烈な衝撃が走り、各砲塔の二番砲が火を噴く。
間髪入れず、敵の周囲に第一射の砲弾が水柱を上げる。
「遠2!」
見張り員がすかさず報告を上げてくる。主砲交互撃ち方の上、全部の二基しか使っていないことから二発しか砲弾が発射されていないのだ。
「敵はペンシルバニア級と認む!」
ここに来て米戦艦の型が判別される。
「ということは、敵はまだ撃てないということか」
古賀が呟く。
ペンシルバニア級の最大射程はおよそ二万メートル。それに対し、現在大和が砲撃を行っている距離は二万八千メートルほど。つまりは当たるか当たらないか以前に射程に入ってないのだ。
これではいくら戦艦と言えど、手の出しようがない。米戦艦に残された方法はただ一つ。大和の砲撃をかいくぐりながら、射程内に入ることのみであった。
米戦艦にとって運が良かったのは大和に追随する第二艦隊の艦艇群はどれも35,6センチ砲搭載艦であるためにまだ射程圏内に捕らえることが出来ない点であった。
見張り員の弾着、今の声と共に敵艦の周囲に白い水柱を上げる。
今度は手前に二本の水柱が見えており、まだ有効な砲撃ではない。まだ、第二射の上、二問のみの砲撃かつ三万メートルでの砲撃だ。
正確性を欠くのは必然と言えよう。
直ちにその様子を確認した射撃指揮所に籠もる砲術長以下、砲術科員の各員が直ちに計測を再開し、計算機に各値を打ち込み直してから主砲の旋回角、仰角を調整。砲術長の指示を待つ。
「撃て!」
砲術長の声に合わせ、射手が引き金を引く。絶妙な加減で引かれたその引き金は、電気信号を主砲に送り装填を終えていた重量1,5トン近い砲弾を音速の二倍の速さにまで上げ、たたき出す。
砲塔に籠もる兵士達はすぐに尾栓を上げ、中に籠もる硝煙の煙に気にすることなく次の砲弾の装填に掛かる。
七層に分かれた主砲の火薬庫からは装薬が揚薬筒を通って、上部にある弾庫からは砲弾が揚弾筒を通って砲塔のすぐ後部にまで水圧の力で運ばれてくる。そしてこれらは砲塔内に弾丸装填機で砲身内に装填される。
これら一連の流れを終わらせるまでに実に四十秒ほどの短い時間で行われる。最初こそこの装填に十数分を要していたが、訓練に訓練を重ね、ここまで短縮することが出来た。
これら一連の流れを通して発射された砲弾は敵艦目掛けて飛翔していく。
「だんちゃ~く、今!」
かけ声と共に三度敵艦の周囲に砲弾が落下する。今度は、敵艦の右に水柱が集中しており、なかなか命中はしない。
その直後、見張り員から別の報告が入る。
「敵戦艦周囲に小型艦艇多数確認! 敵戦艦の護衛の艦艇と思われます!」
「敵の水雷戦隊が打って出てきたか! こちらも突撃を命じろ!」
「了解!」
大和のアンテナから水雷戦隊に向け、突撃せよの命令電文が放たれた。
直後、今までは大和の横に付き従うように追随していた水雷戦隊が急激に増速し、敵艦隊へ向け突撃を開始する。
それを待っていたかのように今度は電探室から報告が入る。
「敵戦艦の周囲に感、5あり! 反応極めて大!」
「敵さんも急いで救援に駆けつけたようですな」
宇垣は全く焦った様子を見せずに言った。
「敵が何隻いようと全部沈めるまでだ」
普段の温厚な様子からは考えられないほど断固たる口調で言い放つ古賀は大音声で叫んだ。
「各艦、突撃せよ!」
ここに日本の連合艦隊と米太平洋艦隊の主力戦艦群が激突するのであった。
「敵艦隊、視認! 本艦十二時! 距離30!」
見張り員が夜戦艦橋に控えていた艦長に向け報告を行った。
「遠いな。もう少し引きつけねば命中は見込めんな」
その場にいる連合艦隊司令長官の古賀は唸るように言った。
彼は現在麾下の第一、第二艦隊を率いて出撃してきている。と言っても第一艦隊の主力である長門型戦艦二隻は米艦隊の先鋒と激突をしているため、今この場にはいない。
「ですが、本艦の射程圏内ではあります。長官、砲撃開始の命令をお出しになっては如何ですか?」
参謀長の宇垣纏が意見具申を行う。
「ふむ。確かに、参謀長の意見も一理あるな。艦長、砲撃を開始せよ!」
「了解! 砲撃を始めます!」
そう言って艦長の宮里秀徳艦長が艦橋内に設置された艦橋上部にある射撃指揮所への艦内電話を取り、言った。
「砲撃はじめ!」
砲撃はじめ、と砲術長が復唱し、既に準備を整えていた第一、第二砲塔が一門ずつ砲撃をした。
砲撃の瞬間、耳元で雷鳴を鳴らされたような轟音が響き、同時に体が何かに強く押されるような感覚に襲われた。
世界最大の艦載砲が初めて砲撃を行った瞬間に艦橋にいた誰もが、気分の高揚を抑えきれなかった。
しかし、古賀や宇垣を初めとする連合艦隊司令部幕僚は、その高揚すら煩わしく感じるほど緊張しきっていた。
この戦いは日本存亡を決める重要な戦いとなる。もし連合艦隊が敗れれば、日本の負けは初戦で決まってしまうのだ。絶対に負けられない戦いである。
その戦いにおいて、存外に長門と陸奥は米戦艦に苦戦を強いられており、連合艦隊司令部としては気が気では無かった。
そんな連合艦隊司令部の心中を気にせず、大和は第二射を放つ。先ほど同様強烈な衝撃が走り、各砲塔の二番砲が火を噴く。
間髪入れず、敵の周囲に第一射の砲弾が水柱を上げる。
「遠2!」
見張り員がすかさず報告を上げてくる。主砲交互撃ち方の上、全部の二基しか使っていないことから二発しか砲弾が発射されていないのだ。
「敵はペンシルバニア級と認む!」
ここに来て米戦艦の型が判別される。
「ということは、敵はまだ撃てないということか」
古賀が呟く。
ペンシルバニア級の最大射程はおよそ二万メートル。それに対し、現在大和が砲撃を行っている距離は二万八千メートルほど。つまりは当たるか当たらないか以前に射程に入ってないのだ。
これではいくら戦艦と言えど、手の出しようがない。米戦艦に残された方法はただ一つ。大和の砲撃をかいくぐりながら、射程内に入ることのみであった。
米戦艦にとって運が良かったのは大和に追随する第二艦隊の艦艇群はどれも35,6センチ砲搭載艦であるためにまだ射程圏内に捕らえることが出来ない点であった。
見張り員の弾着、今の声と共に敵艦の周囲に白い水柱を上げる。
今度は手前に二本の水柱が見えており、まだ有効な砲撃ではない。まだ、第二射の上、二問のみの砲撃かつ三万メートルでの砲撃だ。
正確性を欠くのは必然と言えよう。
直ちにその様子を確認した射撃指揮所に籠もる砲術長以下、砲術科員の各員が直ちに計測を再開し、計算機に各値を打ち込み直してから主砲の旋回角、仰角を調整。砲術長の指示を待つ。
「撃て!」
砲術長の声に合わせ、射手が引き金を引く。絶妙な加減で引かれたその引き金は、電気信号を主砲に送り装填を終えていた重量1,5トン近い砲弾を音速の二倍の速さにまで上げ、たたき出す。
砲塔に籠もる兵士達はすぐに尾栓を上げ、中に籠もる硝煙の煙に気にすることなく次の砲弾の装填に掛かる。
七層に分かれた主砲の火薬庫からは装薬が揚薬筒を通って、上部にある弾庫からは砲弾が揚弾筒を通って砲塔のすぐ後部にまで水圧の力で運ばれてくる。そしてこれらは砲塔内に弾丸装填機で砲身内に装填される。
これら一連の流れを終わらせるまでに実に四十秒ほどの短い時間で行われる。最初こそこの装填に十数分を要していたが、訓練に訓練を重ね、ここまで短縮することが出来た。
これら一連の流れを通して発射された砲弾は敵艦目掛けて飛翔していく。
「だんちゃ~く、今!」
かけ声と共に三度敵艦の周囲に砲弾が落下する。今度は、敵艦の右に水柱が集中しており、なかなか命中はしない。
その直後、見張り員から別の報告が入る。
「敵戦艦周囲に小型艦艇多数確認! 敵戦艦の護衛の艦艇と思われます!」
「敵の水雷戦隊が打って出てきたか! こちらも突撃を命じろ!」
「了解!」
大和のアンテナから水雷戦隊に向け、突撃せよの命令電文が放たれた。
直後、今までは大和の横に付き従うように追随していた水雷戦隊が急激に増速し、敵艦隊へ向け突撃を開始する。
それを待っていたかのように今度は電探室から報告が入る。
「敵戦艦の周囲に感、5あり! 反応極めて大!」
「敵さんも急いで救援に駆けつけたようですな」
宇垣は全く焦った様子を見せずに言った。
「敵が何隻いようと全部沈めるまでだ」
普段の温厚な様子からは考えられないほど断固たる口調で言い放つ古賀は大音声で叫んだ。
「各艦、突撃せよ!」
ここに日本の連合艦隊と米太平洋艦隊の主力戦艦群が激突するのであった。
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