陽光の黒鉄
第4話 日米開戦
1942年6月15日、日本とアメリカは外務大臣級の会談を行う。
内容の表向きは日本とアメリカの今後の経済についてであるが、裏は中国における日本とアメリカの権益についてであった。
要約すると日本は中国において権益が大きすぎる点があり、中国より撤退すべきと言う内容であった。
しかし、現在アメリカが裏で中国のもう一つの派閥である共産党軍を支援して日本と同じような行動をしていることは確認されているので日本は強く反発し、結局交渉は決裂に終わった。
これに対してアメリカは日本への輸出の大幅な削減に踏み切る。
この時、アメリカに大きく依存していた鉄くずなどがストップし、急遽イギリスに輸入先を変更するなどの対処を計った。
この経済制裁に効果がないと感じたアメリカは、ついに米太平洋艦隊の主力をサンディエゴからかねてより軍港として建設を進めていたハワイに派遣。日本に対する圧力を強めた。
また日本軍に対する挑発も行うようになり、日本の領海ギリギリのラインで米陸軍の爆撃機が爆撃訓練を行うなどその行為は日に日に度を強めていった。
この行為に日本の国内世論はアメリカとの戦争を声高に叫ぶようになる。
しかし、日本首脳部はこれを黙殺し、アメリカを刺激しないように軍に対して極力発砲を控えるように通達した。
そのさなか、ついに恐れていた事態が起こる。
日本海軍が護送中であったタンカー船団をアメリカの潜水艦と思われる不明艦が魚雷を放ち、駆逐艦がこの艦を撃沈することが起きた。
アメリカはこの事件を日本海軍が先に攻撃を行い、潜水艦は護身のため魚雷を発射したと公表。アメリカ世論は日本との会戦に傾く。
日本は当然これに猛抗議。先に発砲したのはアメリカでありこの攻撃は正当防衛であると発表した。
この発表にアメリカは一通の書簡にて答える。
それは日本に対して謝罪と賠償を求める物であった。
そしてこれが受け入れられぬ時はやむを得ず最終手段に移行するとも書いてあった。
事実上の宣戦布告である。
日本首脳部はついに開戦を決意し、米国に受け入れられない旨を打診した。
これを受けアメリカは世論に対し、日本への開戦を促した。元よりマスコミにあおられていた国民の反日感情が爆発。国民の9割が日本との戦争に賛成し、アメリカは日本に宣戦布告。日米戦争が開戦する。
この時、日本はあらかじめイギリスには通告が済んでおり、イギリスとアメリカ間においても戦争が始まることを意味していた。
この事態を受け日本政府は帝国海軍に本土及び植民地周辺の防衛を強化するように通達した。
この命令に連合艦隊司令部は直ちに幕僚を緊急収集。
来襲するであろう米海軍への対策を考えていた。
従来から連合艦隊司令部の基本理念は接近してくる敵をたたく漸減作戦である。
故に日本海軍はあらかじめ米海軍の来襲地点に絞りを当て作戦を考案している。
一つ目はトラック島。
言わずと知れた帝国海軍の一大基地であり、別名東洋のジブラルタルとも言われる。
南方方面への作戦はここを中心に行われる。
二つ目はマリアナ、サイパン島。
ここは日本海軍の大規模な航空基地が整備されており、日本に攻め込む上では最も重要な前線基地になる。日本海軍としてはここを取られると本土が危険にさらされるだけでなく、南方方面への進出が難しくなるため、戦力上かなり重要な地点となってくる。
三つ目は本土。呉や帝都である。
これらの可能性はかない低いとは思われるが、油断していると奇策として打って出てくる可能性がある。ここは言わずと知れた重要な拠点が点在している場所であり、帝都に関しては攻撃を受けると莫大な経済損失に加え、指揮系統の混乱、国民の士気の低下に繋がり一挙に不利な戦況となる。
ただ、ここに到達する前に哨戒機に発見される可能性があり、これを採用する可能性は低いと思われる。
これら以外にも考えられないこともないが、他の地点は戦略上や兵力、基地からの距離の問題から来襲する可能性は低いと言わざるをえない。
以上の点から古賀が幕僚達に聞きたいのは最初の三カ所の内、どこに来るかと言うことであった。
「やはり、ここトラックの可能性が高いでしょう」
砲術参謀の森下信衛大佐が発言をする。
彼は軍艦の艦長や司令官の職務を歴任し、その現場での経験の豊富さから司令部の幕僚として招かれた。
「ここトラックは帝国海軍にとって重要な拠点であると同時に、南洋方面への拠点でもあります。ここを取られれば日本海軍は南洋方面への攻撃は困難になるだけではなく、我が軍の前線基地への攻撃が容易となるでしょう」
「いえ、やはり敵はマリアナ、サイパン方面に来るかと」
そう言ったのは先任参謀である草鹿龍之介少将だ。
彼は、航空畑を中心に進み、帝国海軍内では山口多聞らと並ぶ航空の専門家である。
「敵は陸軍との協調を常に念頭に置きながら作戦を執る傾向があります。アメリカの陸軍はB17やB24のような優秀な重爆を豊富に持っております。これらを両島に配備すればさらに第五課からの情報によると米陸軍はさらなる高性能重爆を開発中であり、これが完成すればマリアナと本土間を無着陸で攻撃が可能となるそうです。つまり、米軍にとって重要なのはマリアナを取りその重爆を用いて我が国を降伏させることにあると思います」
航空畑を歩んできただけあり、重爆などの可能性を考慮した上での考えであった。
「しかし、その重爆は未だ開発中であり、完成をしておりません。その前にマリアナをとっても米海軍にとっては余計な荷物になるのではないですか?そのよう意味のない次期に危険を冒してまで取るような国ではないと思います」
水雷参謀の岡田貞外茂のが尋ねた。
彼は父が元首相の岡田啓介で、彼自身は恩師の短刀組と主席で海軍水雷学校を卒業した水雷のプロだ。
「その上、マリアナ、サイパン両島には大規模な基地航空隊に加え、陸軍の守りもしっかりしております。米軍が来襲をしてもそれなりに守りを固められると思いますが」
森下も草鹿の意見に反論をする。
「しかし、敵がトラックに来るのも同じように大きな被害が出ることは予測されているでしょう。我々がトラックで待ち構える可能性があることぐらいは予測できているはず。ならば、敵としてはその虚をあえて突く可能性もあると思います」
その先任参謀の言葉に森下は反論した。
「トラックは今後、米海軍の前線基地として使えます。大規模な飛行場と泊地を備えたトラックはちょうど良い前線の中心的な基地となるでしょう。それに対してマリアナ、サイパンは飛行場はあれど、泊地がありません。重爆ができていない現在、その地を守るには海軍の力が不可欠ですが、マリアナではその海軍が駐在できない以上、今取るリスクが大きすぎます」
「確かに、水雷参謀と砲術参謀の言うとおりだ。マリアナ、サイパン両島はそれなりの自衛力が有る上、標的として狙うには今の段階においては早すぎる。故に来るとするとここトラックの可能性が高いと判断する。何か意見のある者はいるか?」
締めくくるように古賀が意見をまとめ上げた。
この言葉に異を唱える者はいない。
こうして連合艦隊は米軍がトラックに来襲するものとして作戦の立案が始まった。
「長門さん、米軍と戦争になってしまいましたね」
悲しそうに大和が言う。
この言葉に長門は何も答えない。
ただ悲しそうに海を見つめている。その見つめる先にはアメリカがある。
「戦わなくてはならないのね、あなたたちと……」
そう言って長門は今となっては敵同士となってしまったかつての友人達との思いをはせる。
大和は感傷に浸る長門から黙って離れていった。
その場でいつまでも長門は地平線の先を見つめていた。
内容の表向きは日本とアメリカの今後の経済についてであるが、裏は中国における日本とアメリカの権益についてであった。
要約すると日本は中国において権益が大きすぎる点があり、中国より撤退すべきと言う内容であった。
しかし、現在アメリカが裏で中国のもう一つの派閥である共産党軍を支援して日本と同じような行動をしていることは確認されているので日本は強く反発し、結局交渉は決裂に終わった。
これに対してアメリカは日本への輸出の大幅な削減に踏み切る。
この時、アメリカに大きく依存していた鉄くずなどがストップし、急遽イギリスに輸入先を変更するなどの対処を計った。
この経済制裁に効果がないと感じたアメリカは、ついに米太平洋艦隊の主力をサンディエゴからかねてより軍港として建設を進めていたハワイに派遣。日本に対する圧力を強めた。
また日本軍に対する挑発も行うようになり、日本の領海ギリギリのラインで米陸軍の爆撃機が爆撃訓練を行うなどその行為は日に日に度を強めていった。
この行為に日本の国内世論はアメリカとの戦争を声高に叫ぶようになる。
しかし、日本首脳部はこれを黙殺し、アメリカを刺激しないように軍に対して極力発砲を控えるように通達した。
そのさなか、ついに恐れていた事態が起こる。
日本海軍が護送中であったタンカー船団をアメリカの潜水艦と思われる不明艦が魚雷を放ち、駆逐艦がこの艦を撃沈することが起きた。
アメリカはこの事件を日本海軍が先に攻撃を行い、潜水艦は護身のため魚雷を発射したと公表。アメリカ世論は日本との会戦に傾く。
日本は当然これに猛抗議。先に発砲したのはアメリカでありこの攻撃は正当防衛であると発表した。
この発表にアメリカは一通の書簡にて答える。
それは日本に対して謝罪と賠償を求める物であった。
そしてこれが受け入れられぬ時はやむを得ず最終手段に移行するとも書いてあった。
事実上の宣戦布告である。
日本首脳部はついに開戦を決意し、米国に受け入れられない旨を打診した。
これを受けアメリカは世論に対し、日本への開戦を促した。元よりマスコミにあおられていた国民の反日感情が爆発。国民の9割が日本との戦争に賛成し、アメリカは日本に宣戦布告。日米戦争が開戦する。
この時、日本はあらかじめイギリスには通告が済んでおり、イギリスとアメリカ間においても戦争が始まることを意味していた。
この事態を受け日本政府は帝国海軍に本土及び植民地周辺の防衛を強化するように通達した。
この命令に連合艦隊司令部は直ちに幕僚を緊急収集。
来襲するであろう米海軍への対策を考えていた。
従来から連合艦隊司令部の基本理念は接近してくる敵をたたく漸減作戦である。
故に日本海軍はあらかじめ米海軍の来襲地点に絞りを当て作戦を考案している。
一つ目はトラック島。
言わずと知れた帝国海軍の一大基地であり、別名東洋のジブラルタルとも言われる。
南方方面への作戦はここを中心に行われる。
二つ目はマリアナ、サイパン島。
ここは日本海軍の大規模な航空基地が整備されており、日本に攻め込む上では最も重要な前線基地になる。日本海軍としてはここを取られると本土が危険にさらされるだけでなく、南方方面への進出が難しくなるため、戦力上かなり重要な地点となってくる。
三つ目は本土。呉や帝都である。
これらの可能性はかない低いとは思われるが、油断していると奇策として打って出てくる可能性がある。ここは言わずと知れた重要な拠点が点在している場所であり、帝都に関しては攻撃を受けると莫大な経済損失に加え、指揮系統の混乱、国民の士気の低下に繋がり一挙に不利な戦況となる。
ただ、ここに到達する前に哨戒機に発見される可能性があり、これを採用する可能性は低いと思われる。
これら以外にも考えられないこともないが、他の地点は戦略上や兵力、基地からの距離の問題から来襲する可能性は低いと言わざるをえない。
以上の点から古賀が幕僚達に聞きたいのは最初の三カ所の内、どこに来るかと言うことであった。
「やはり、ここトラックの可能性が高いでしょう」
砲術参謀の森下信衛大佐が発言をする。
彼は軍艦の艦長や司令官の職務を歴任し、その現場での経験の豊富さから司令部の幕僚として招かれた。
「ここトラックは帝国海軍にとって重要な拠点であると同時に、南洋方面への拠点でもあります。ここを取られれば日本海軍は南洋方面への攻撃は困難になるだけではなく、我が軍の前線基地への攻撃が容易となるでしょう」
「いえ、やはり敵はマリアナ、サイパン方面に来るかと」
そう言ったのは先任参謀である草鹿龍之介少将だ。
彼は、航空畑を中心に進み、帝国海軍内では山口多聞らと並ぶ航空の専門家である。
「敵は陸軍との協調を常に念頭に置きながら作戦を執る傾向があります。アメリカの陸軍はB17やB24のような優秀な重爆を豊富に持っております。これらを両島に配備すればさらに第五課からの情報によると米陸軍はさらなる高性能重爆を開発中であり、これが完成すればマリアナと本土間を無着陸で攻撃が可能となるそうです。つまり、米軍にとって重要なのはマリアナを取りその重爆を用いて我が国を降伏させることにあると思います」
航空畑を歩んできただけあり、重爆などの可能性を考慮した上での考えであった。
「しかし、その重爆は未だ開発中であり、完成をしておりません。その前にマリアナをとっても米海軍にとっては余計な荷物になるのではないですか?そのよう意味のない次期に危険を冒してまで取るような国ではないと思います」
水雷参謀の岡田貞外茂のが尋ねた。
彼は父が元首相の岡田啓介で、彼自身は恩師の短刀組と主席で海軍水雷学校を卒業した水雷のプロだ。
「その上、マリアナ、サイパン両島には大規模な基地航空隊に加え、陸軍の守りもしっかりしております。米軍が来襲をしてもそれなりに守りを固められると思いますが」
森下も草鹿の意見に反論をする。
「しかし、敵がトラックに来るのも同じように大きな被害が出ることは予測されているでしょう。我々がトラックで待ち構える可能性があることぐらいは予測できているはず。ならば、敵としてはその虚をあえて突く可能性もあると思います」
その先任参謀の言葉に森下は反論した。
「トラックは今後、米海軍の前線基地として使えます。大規模な飛行場と泊地を備えたトラックはちょうど良い前線の中心的な基地となるでしょう。それに対してマリアナ、サイパンは飛行場はあれど、泊地がありません。重爆ができていない現在、その地を守るには海軍の力が不可欠ですが、マリアナではその海軍が駐在できない以上、今取るリスクが大きすぎます」
「確かに、水雷参謀と砲術参謀の言うとおりだ。マリアナ、サイパン両島はそれなりの自衛力が有る上、標的として狙うには今の段階においては早すぎる。故に来るとするとここトラックの可能性が高いと判断する。何か意見のある者はいるか?」
締めくくるように古賀が意見をまとめ上げた。
この言葉に異を唱える者はいない。
こうして連合艦隊は米軍がトラックに来襲するものとして作戦の立案が始まった。
「長門さん、米軍と戦争になってしまいましたね」
悲しそうに大和が言う。
この言葉に長門は何も答えない。
ただ悲しそうに海を見つめている。その見つめる先にはアメリカがある。
「戦わなくてはならないのね、あなたたちと……」
そう言って長門は今となっては敵同士となってしまったかつての友人達との思いをはせる。
大和は感傷に浸る長門から黙って離れていった。
その場でいつまでも長門は地平線の先を見つめていた。
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