シルバーブラスト Rewrite Edition
5-3 惑星ヴァレンツ 2
結局、自分の買い物は全く出来なかった。
シオンが満足そうにしているのでまあいいかと考えてしまうあたり、俺も子供に甘いのかもしれない。
あまり甘やかしすぎるのもよろしくないと思うのだが、子育ての経験など無いので、どこまでが最適なのか、その線引きが分からない。
まあ、あまり深く考えなくてもシオンは素直ないい子なので、特に問題はないと思う。
「ただいまですです~」
シオンは居間として利用している部屋に入った。
一部屋一泊が恐ろしい値段の高級ホテルだが、マーシャは更に恐ろしいことに、共用スペースの部屋も一つ借りている。
メンバー全員が自由に出入り出来る部屋として、それぞれの部屋の位置のちょうど真ん中あたりの場所に『居間』があるのだ。
全部でいくらになるかなど、想像したくもない。
しかしその程度でマーシャの懐は痛まないのだろう。
この恐ろしい金銭感覚に巻き込まれる方はたまったものではないのだが、自分の懐が痛まないのなら、貴重な経験として楽しんでおくのがベストなのだろう。
少なくともレヴィは既に開き直っている。
適応性が高すぎるとは思うが、マーシャの恋人としてやっていくつもりなら、その程度のことで動じていたら身が保たない。
「あ、おかえり~。シオン。すごい荷物だね」
俺が抱えている荷物を見て呆れたように苦笑するシャンティ。
「いっぱい欲しいものがあったですよ~」
「ふうん。僕は本を何冊か買ったぐらいかな」
「へえ~。いいのあったですか?」
「うん。ギリギリエロ系がいっぱいあった」
「後で見せて欲しいですです~」
「いいよ」
「………………」
見るな、と言いたいところだが、ギリギリならまあ、許容範囲か?
シャンティの悪影響をあまり受けさせたくはないのだが、そのあたりの教育を俺が担当するつもりはないし、なるようにしかならないだろう。
それにいくら見るなと言ったところで、好奇心旺盛なシオンは見てしまうだろうし。
止めても無駄なら、労力の無駄遣いはしない方がいい。
マーシャもその辺りは気にしていないようだし、諦めるしかないだろう。
はしゃぐ子供達に視線を移しながら、俺は小さくため息をついた。
俺の手に持たせた荷物のことは忘れているみたいなので、勝手に部屋に届けておこう。
シオンの部屋に買い物の荷物を全て置いてから、再び居間に戻る。
「うっわ~。すっげ~。こんなにエロエロな表現なのに、ギリギリで規制に引っかからないようにしてる。でもこれは下手な十八禁よりもずっとエロいよ。イデア先生ぐっじょぶっ!」
「はわわ~。エロいですね~。ギリギリエロの挑戦ですね~」
戻ってきたらシャンティとシオンがギリギリエロ本を読みながらはしゃいでいた。
「………………」
かなり酷い絵面だとは思うのだが、突っ込むと疲れそうなので堪えた。
シャンティの奴も男の子なのでエロに興味があるのは理解出来るのだが、二次元ばかりに目が行くのはどうかと思う。
隣に三次元の美少女がいるのだから、少しぐらいはそちらに目を向けてもいいのではないか。
……余計な心配だが。
まあ、あの二人は友達としての関係が一番自然なのかもしれない。
「イデア先生凄いですね~。エロいですね~」
「でしょでしょ~? 規制表現の境界線に挑戦する作家の一人なんだよ~。今はそういう作家も増えていて、かなり面白い作品がわんさかあるんだよね~」
「なるほど~」
「………………」
問題作がわんさかある、の間違いじゃないのか?
子供が悪ふざけの材料として使いそうで恐ろしい。
「あ、オッドさん。何かおやつないですか? お腹空いたですです」
「僕も何か欲しいな」
「………………」
居間には冷蔵庫もあり、そこにはマーシャが手配した食材がたくさん入っている。
俺に夕食も作れという主張なのかもしれないが、レストランがあるのだからそちらを利用すればいいのにと思わなくもない。
冷蔵庫を開けると、買い置きのケーキが入っていたので、それを持っていってやることにした。
「オッドさんの手作りを期待していたのに~」
「まあいいんじゃない? ケーキだって美味しいよ。アネゴが買ってきたものだし」
「ですね~」
読書を中断してケーキを食べ始める二人。
俺も動いて空腹だったので、一緒に食べることにした。
和んだり、疲れたり、なかなかに忙しい。
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