シルバーブラスト Rewrite Edition

水月さなぎ

2-5 約束の指輪《エンゲージリング》 3


 指輪を渡して誓いのキスも済ませて、すっかり幸せな恋人同士になったマーシャ達は、ご機嫌に公園を歩いていた。

 マーシャはレヴィと腕を組んで嬉しそうに鼻歌まで歌っている。

「ご機嫌だなぁ」

「悪いか?」

「いや。俺も嬉しいから問題無い」

「うん♪」

 今にもスキップしそうなぐらいにご機嫌なマーシャを見るのはレヴィも嬉しい。

「ともあれ、これでマーシャ《もふもふ》は晴れて俺のものだな」

「……今、微妙な副音声が聞こえた気がするんだが」

 ご機嫌から一転して、ジト目を向けるマーシャ。

 レヴィのどうしようもない性癖が見えてきてうんざりしているのだ。

「もふもふは俺のものだーっ!」

「副音声にすらなっていないじゃないかっ!」

「悪いか? 俺はもふもふが大好きだ。もふもふ出来るだけで幸せだ♪」

「……一つ、訊いていいか?」

「何だ? 何でも訊いてくれ」

「私ともふもふ、どっちがより大好きなんだ?」

「………………」

「なんでそこで黙るっ!?」

 その反応は本気で傷つく。

 せめて即答して欲しい。

「いや、どっちもマーシャだよなっ!?」

「本気で狼狽えた答えを返すなっ!!」

「だってマーシャは亜人で、つまりもふもふで、もふもふあってこそのマーシャだろうっ!?」

「じゃあ私にもふもふが無かったらどうなんだっ!?」

「そんなことは考えたこともないっ!」

「開き直るなっ!」

「というか、もふもふの話題をしたらもふもふしたくなったじゃないか。もう今からもふもふしたいぞ。その邪魔なカツラと腰巻き取ってしまえよ」

「断るっ!」

「俺なら気にしないぞ」

「私が気にするっ! あと、仮に取ったとしても、公衆の面前でもふもふし始めたらただの変態だぞっ!」

「じゃあ今すぐ船に戻ろう。そして二人でもふもふいちゃいちゃタイムだ♪」

「……なんか、感動したのに色々台無しにされている気がするんだが」

「気のせいだ♪」

 がっくりしてしまうマーシャとご機嫌なレヴィ。

 こういう相手だと分かっていても、がっくりしてしまう。

 嬉しいことは確かなのに、かなり台無しな気分にされてしまうのだ。

「はあ。なんだかなぁ……」

「なんでそこで複雑そうな顔になるんだよ」

「なるに決まってるだろう。昔から憧れていた相手が、なんだかかなり残念な風になってしまったんだから」

「そうか? 俺は昔からあんまり変わってないと思うけどなぁ」

「いや。昔はもっと格好良かった」

「今が格好悪いみたいに言うなよ」

「台無しレベルで格好悪いことは確かだ」

「即答かよっ!?」

「事実だ」

 バッサリと切り捨てるマーシャ。

 実に容赦が無い。

 ついさっきまでは幸せそうなカップルだったのに、すっかり一変してしまっている。

 それでも繋いだ手は離さないのだが。

 そこに本当の気持ちがある。

「はぁ……。マーシャも昔は可愛かったのになぁ」

「今は可愛くないみたいに言うな」

 割とお互い様である。

「昔は俺の膝にちょこんと座って、喜んでもふもふされてくれたのになぁ」

「う……」

 それを言われると弱い。

 確かにあの頃はレヴィの膝に座ってもふもふされるのが嬉しかったのだ。

 今は微妙な気持ちになってしまうのは何故だろう。

 ……深く考えない方がいいような気がしてきた。

「今も俺の膝に座ってくれていいんだぞ♪」

「椅子になりたいならそう言え」

「……可愛くない」

「変態じみた性癖に言われたくない」

「………………」

「………………」

 バチバチと火花を散らせる二人。

 険悪ではないのだが、プチバトル勃発的な空気になっている。

「まあいいか……」

 そして折れたのはマーシャの方だった。

「?」

「いや。そんなレヴィも含めて好きになったんだから、ある程度は妥協しないといけないな。うん。妥協する」

「妥協って……俺はそこまで残念系なのか?」

「自覚無いのか?」

「無いっ!」

「堂々と言い切られても……まあいい。妥協。妥協だ。妥協が大事だ」

「自分に言い聞かせるな」

「マインドコントロール完了。大丈夫。私はレヴィが大好きだ」

「微妙に嬉しくないぞっ!」

「なんだ。レヴィは私が嫌いなのか?」

「大好きに決まってるっ!」

「なら問題無いな♪」

「まあ、問題無いな」

 問題無いということにしたらしい。

 微妙に残念な空気になりつつも、二人は幸せそうに歩き始めるのだった。



 ずっと踏み出せなかった気持ち。

 迷っていた答え。

 そして、辿り着いた関係。

 きっとこれからも迷ったり、間違えたりするだろう。

 それでも二人一緒ならば大丈夫。

 みんな一緒なら、更に大丈夫。

 そう信じることが出来た。

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