シルバーブラスト Rewrite Edition
02-5 憎悪の炎 4
次にトリスが連れて行かれたのは、簡素な個室だった。
拘束具はきちんと外され、自由に動けるようになっている。
「二十四時間拘束したままだと身体に悪影響があるから、身動きだけは出来るようにしておくが、逃げ出そうなどということは考えない方がいい。ここにはいくつも迎撃装置が仕掛けられているし、警備員も巡回している。素手の子供がどうにか出来るものじゃない」
「………………」
トリスを運んできた男は無情に言い放つが、彼は聞いていなかった。
無言でそっぽ向くだけだ。
何かを喋ったりするつもりはないらしい。
セッテとは情報を得る為に会話をしたが、この男と会話をする必要は感じていないのだろう。
「可愛くないガキだぜ」
男はそう言って扉を閉めた。
同時にロックが掛けられる。
外からロックが掛けられるということは、中からロックを解除するのは不可能なのだろう。
少なくとも、やり方を知らなければ不可能だ。
「………………」
トリスは部屋の中を確認した。
監視カメラの類いは仕掛けられていないようだ。
少なくとも見える場所には。
見えない偽装にしている可能性も考慮して探してみると、案の定監視カメラは見つかった。
トリスはそれを残らず破壊した。
たとえ機械越しであっても、見られているという感覚は分かるのだ。
亜人の鋭敏な感覚を総動員すれば、監視カメラや盗聴器の類いを見つけ出すことはそれほど難しくない。
もとより、亜人の直感は人間よりもずっと優れているのだ。
監視カメラと盗聴器を残らず破壊したことで、トリスはようやく一息ついた。
破壊したことで部屋を移動させられるかもしれないが、その時はまた同じ事を繰り返せばいいだけだ。
破壊するなと注意されたところで、やめてやるつもりはなかった。
拉致監禁している相手の指示に従う必要性など、これっぽっちも感じていなかったからだ。
トリスは自分に出来る抵抗をするつもりだった。
クラウスは絶対に自分を助けてくれる。
そう確信しているからこそ、それまで自分に出来ることをしようと決めていたのだ。
諦めることだけはしない。
そうすることで、この状況を耐えている。
ただ一つ気になるのは、仲間の遺体についてだった。
もしも彼らの遺体がここにあるのなら、放ってはおけない。
どうあっても回収して、きちんと弔ってあげなければならない。
そこだけは譲れなかった。
救出部隊が到着したら、彼らにお願いして亜人の遺体の回収を手伝ってもらおうと考えている。
彼らは優しいので、トリスの願いを拒否したりはしないだろう。
トリスはまだ自分の甘さに気付いていない。
仲間の遺体が、亜人の遺体が、研究者の手元にあって『そのままの形』で残されていると信じていたのだ。
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