シルバーブラスト Rewrite Edition

水月さなぎ

1-2 猛獣美女の大暴れ 9



 戦闘可能宙域まで来ると、再びグレアスが通信してきた。

 その通信内容はマーシャがレヴィのスターウィンドにも流しているので、全員が聞いている。

『これが最後の忠告だ。船とマテリアルを渡して貰おうか。そんなちっぽけな戦闘機で何が出来る? 大人しく従えば命は助けてやる。悪い取引ではないだろう?』

 グレアスの戦力は戦闘艦八隻、戦闘機百五十機。

 対するマーシャは旗艦一隻、戦闘機一機。

 本来ならば勝負にもならない。

 しかしマーシャは不敵に笑う。

「断る。これは私の船だ。お前ごときに渡すつもりは無い」

『馬鹿が……』

 忌々しげに呟くグレアス。

 この戦力差でなおも逆らおうとする亜人の存在が気に入らなかった。

 グレアスにとって亜人とは見下すべき対象でしかない。

 それが生意気にも反抗するのだから、苛立ちは増していくばかりだ。

 それぞれの戦闘機と船に指示を出して、マーシャの船と小さな戦闘機を攻撃するように指示を出した。






 一方、シルバーブラストではマーシャが獰猛な笑みを浮かべていた。

 整った顔立ちでそういう表情をすると、とても恐ろしい。

「よし。シオン。天弓システムの準備は?」

「もちろん準備オッケーですです~」

「ならば暴れてやれ」

「了解ですです~♪」

 これから絶望的な戦闘が始まろうとしているのに、二人の様子は至って気楽だ。

「俺は砲撃に専念すればいいのか?」

「頼む。適当に敵を撃ってくれ」

「指示は無し、ということでいいのか? 俺の判断だけで?」

「オッドの判断に任せる。そうすればレヴィに対して最適なフォローをしてくれるだろう?」

「分かった」

 その返事にオッドが満足そうに頷いた。

 それこそが彼の望みなのだ。

 久しぶりであっても、オッドはレヴィの相棒だった。

 戦闘機には乗れなくても、彼がどう動くのか、どんなフォローを欲しているのかはよく分かるつもりだ。

 砲撃支援だけであっても的確に行えるのならば、確実にレヴィの安全度が高まる。

「聞こえていますか、レヴィ」

『おう、どうした?』

 スターウィンドに通信を送ると、気楽な調子のレヴィが応えた。

 久しぶりの戦闘であっても、まるで緊張していない。

 いつも通りのレヴィだった。

「フォローは任せて下さい。貴方は好きに暴れてくれればいい」

『へえ。そりゃ頼もしいな。じゃあ頼むぜ』

「はい」

 嬉しそうなレヴィの声に、オッドの方も心が弾む。

 頼りにされているのが嬉しい。

 自分はまだ、彼の力になれている。

 それがオッドにとって何よりも誇らしいことだった。






 まずはミサイルが飛んできた。

 最初の威嚇だろう。

 百近くのミサイルが、全てシルバーブラストに狙いを定めている。

 避けても自動追尾してくるので、全て迎撃するしかない。

 もしくは対物防御システムを展開するしかない。

 宇宙船には二つの防御システムがある。

 一つは対物防御、そしてもう一つは対エネルギー防御だ。

 対物防御はミサイルや岩などの物質から船を護る為のものだが、対エネルギー防御は砲撃などのエネルギー攻撃を防ぐことが出来る。

 航行中は主に対物防御を利用するが、戦闘中は状況によって使い分ける。

 臨機応変に二つの防御を切り替えながら使うのだ。

「シャンティ。出来るか?」

 マーシャは対物防御を展開する前にシャンティへと問いかけた。

「もちろん。任せて」

 シオンに任せてもいいのだが、彼も本職の電脳魔術師《サイバーウィズ》なので、お手並み拝見したかった。

 それにシオンには天弓システムに集中して貰わなければならない。

 シオンならば天弓システムを維持しながら他のことも出来るが、精度がやや落ちるのは否めない。

 天弓システムそのものに膨大なリソースが消費されるので、他のことがどうしても制限されてしまうのだ。

 もちろん、船の航行や生命維持システム、武装慣性や防御システムなどには支障は無いのだが、天弓システムを維持しながら他の船へのハッキングを同時に行うのはシオンでも難しい。

 だからこそ電脳魔術師《サイバーウィズ》であるシャンティに頼みたかったのだ。

「ふっふ~ん。このシャンティさんを舐めて貰っちゃ困るぜ~♪」

 シャンティは高速で手を動かしながら、向かってくるミサイルの全てに対してハッキングを行った。

 正確にはその照準を司っている全ての船に対してのハッキングを行った。

 わずか数秒で全ての船にアクセスを行い、管制システムに侵入して、ミサイルの照準を狂わせた。

 正確には、狙いを誤認させた。

 この船ではなく、一番近くにあるミサイル同士を衝突させるようにしたのだ。

「よし。大成功!」

 シャンティがガッツポーズで叫ぶ。

 こういう場面では自分の能力がフルで発揮出来るので彼にとっても嬉しいのだ。

 命懸けの戦闘だということは棚上げにしている。

 この中に居ると、そういった緊張感がどうしても薄れてしまうのだ。

「流石だな」

 マーシャもシャンティの手際には素直に感心した。

 これならば頼りにしてもいいと判断したようだ。

「当然。だって僕だもん」

「頼もしいな」

「それよりもシオンの能力に興味があるな」

「それはこれから見せる。という訳で出番だぞ、シオン。ちょっといいところを見せてやれ」

「はいはーい。ちょっといいところですね~。お任せなのです~♪」

 シオンの方はニューラルリンクの中でご機嫌だった。

 今までもシルバーブラストをテスト運行させたこともあるし、天弓システムのテストも行ったことはあるのだが、それはマーシャと二人きりのことだった。

 こうして他の誰かを交えて、楽しくやりとり出来るのがとても嬉しいのだ。

 一家団欒みたいな明るさがある。

 厳密には違うのだが、この楽しい雰囲気が嬉しいと思える。

「天弓システム起動ですです~♪」

 そしてシルバーブラスト最大の武器である天弓システムを起動させた。

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