シルバーブラスト Rewrite Edition

水月さなぎ

0-7 別れと約束



 そして別れの日がやってきた。

 宇宙港で見送ってくれるのは、クラウスとマティルダ、そしてトリスだった。

 マティルダとトリスはずっとレヴィアースと手を繋いでここまでやってきた。

 ちなみに復路のチケットはクラウスが買い改めてくれて、最上級の個室になっている。

 長時間の移動なので、宇宙船の席は大抵が狭い個室かドミトリーベッドなのだが、今回はかなり豪勢な復路になりそうだった。

「ここまでしてくれなくても良かったのに」

「気にするな。二人もの可愛い孫と出会わせてくれた礼じゃ」

「そういうことなら受け取っておきますけどね」

「それにしても驚いたぞ」

「?」

 クラウスからの呆れ混じりの視線に首を傾げるレヴィアース。

 どうしてそんな目を向けられるのかが分からない。

「レヴィアース・マルグレイト大尉」

「………………」

「エミリオン連合軍第七艦隊所属の大尉。部隊指揮よりは遊撃操縦者としての活躍の方が有名のようじゃな。『星暴風《スターウィンド》』」

「また、妙なことを調べましたね」

 クラウスならば簡単に調べられる程度の情報だが、自分のことをそこまで調べる理由が分からなかった。

「いや、この二人の安全を考えるならお主をエミリオン連合軍から引き抜くのが手っ取り早いと思って調べたのじゃが、ちと難しそうじゃなぁ。『星暴風《スターウィンド》』としての知名度と実力。連合軍が簡単に手放すとは思えん。リーゼロックの力でも強引な引き抜きは難しそうじゃ」

「そんなことを考えていたんですか……」

 確かに引き抜いてくれるならありがたい話だが、頷くわけにもいかなかった。

 彼にはまだ守るべきものがあるのだから。

 少なくとも、部下への引き継ぎなどが落ち着かない限り、簡単に軍を辞めることはできない。

 望んで軍人をしている訳ではないが、その程度の責任は自覚している。

「まあ、軍に嫌気が差したらこっちに来るといい。仕事ならいくらでも紹介してやるぞ」

「その時は考えさせてもらいますよ」

 真っ当にやめることが出来たら、それもいいかもしれない。

 そうすればマティルダやトリスにまた会うことが出来るし、それほど悪い選択肢ではないように思えた。

「じゃあ、そろそろ行くよ」

「うん。絶対、絶対また会うから」

「また、会えるといいな」

 マティルダは絶対に会うのだと決めている。

 トリスも、また会えたらいいと願う。

 それだけの絆を結ぶことが出来たという事実が嬉しい。

「おう。またな、マティルダ、トリス」

 また会える。

 確証は無いけれど、そう信じるのは自由だ。

 レヴィアースは二人の身体をそっと抱きしめてから、宇宙船へと乗り込んだ。


 マティルダとトリス。

 そしてレヴィアース。

 
 三人は一度別れ、再び再会するのは数年後のことになる。

 今はまだ、それぞれの道を歩み始めることすら始まっていなかった。



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