シルバーブラスト Rewrite Edition

水月さなぎ

0-6 トリスの気持ち


 それからマティルダ達はクラウスの孫のような存在としてリーゼロック家に養われることとなり、幸せな日々を過ごしていた。

 欲しいものは何でも手に入るし、望めば最高の教育を受けさせて貰える。

 トリスは特に学ぶことに熱心だった。

 自分の知らないこと、そして知るべき事に対する欲求が大きい。

 力だけでは何も出来ないことを痛感しているからだろう。

 そしてマティルダの方は興味のあることならば何でも学んだ。

 欲しい本があればいくつも取り寄せたし、リーゼロック家の書斎の本もかなり読み漁っている。

 学ぶことに熱心というよりは、好きなことを知るのが楽しいといった感じだ。

 モチベーションにズレはあるが、二人とも知識を吸収することに関してはかなり貪欲だった。

 そして物覚えの良さも、理解力の高さも、半端ではなかった。

 クラウスはマティルダ達が望むならば家庭教師を付けると言ってくれたが、二人ともそれは断った。

 クラウス自身のことは信頼しているが、他の人間のことをそこまで信じることは出来ない。

 人間の悪意に晒され続けてきた二人にとって、それは当然の反応だった。

 しかし本で学ぶだけの知識には限界があることも知っている。

 だから二人が望んだのは仮想空間を利用した通信教育だった。

 自分の意識ごとネットワークにある仮想現実空間に入り込んで、そこで自分が学びたい科目をチョイスしていくというものだった。

 この方法ならば自分の分身であるアバター作成の際に、亜人であることは隠せる。

 といっても、仮想空間で行われる授業の最初は自動再生プログラムの教師アバターでしかないのだが。

 マンツーマンに見えるが、実際は人形が喋っているだけだ。

 予め録画された動画授業のようなものだろう。

 それを仮想空間のアバターで行っている。

 しかし実際に口頭で説明して貰えるのと、ボードによる細かい補足があったりするので、学校で授業を受けるのと変わらない。

 質問が出来ないのが難点ではあるが、それについても別口で対応してくれるようで、質問エリアに行けば何でも答えてくれる。

 授業で学んだことで疑問点をまとめ、あとでまとめて質問を行う。

 その際はアバターの中にきちんとした人間の意志が入り込んでいるので、どんな質問にも万全に答えて貰えるという仕組みだ。

 マンツーマンとして長時間縛り付けるよりも効率的なシステムだった。

 トリスもマティルダもそうやって知識を増やしていった。

 トリスが優先して学んでいたのは、一般の学生が身につけるべき基本科目だった。

 その傍らで社会情勢や経済学なども学び、更には宇宙関係の知識も貪欲に吸収していった。

 マティルダの方も基本科目を学びつつ、経済学や投資関連の知識に興味があるようだ。

 そしてレヴィアースが戦闘機の操縦者であることを知ると、そちらにも興味を示して学び始めた。

 そんな二人の学習意欲に、レヴィアースも嬉しそうだった。

 しかしマティルダ達は勉強時間を最低限にして、レヴィアースがいる間は一緒に過ごす時間を優先している。

 特に何をする訳でもないのだが、マティルダの方はレヴィアースに甘えるのが好きらしく、膝の上にちょこんと座ったり、膝枕で寄りかかったりしている。

 そんな様子をトリスが苦笑しながら眺めつつも、マティルダが嬉しそうにしているのは自分にとっても嬉しいという気持ちになっていた。

 あまり外出はせずに、リーゼロック家の敷地内で過ごしていた。

 屋敷は広いし娯楽に使えるゲームや映像作品なども揃っている。

 望めば食事もお菓子も出てくる。

 更には外を散歩したり自然を見たくなったり、スポーツをしたくなった時なども、庭先で全て完了してしまう。

 つまり、敷地外に出る必要が無い。

 至れり尽くせりすぎる環境だった。

 リーゼロックにとってはこれが当然なのだろうが、些か恵まれすぎているようにも感じる。

 過酷すぎる環境で育ってきた二人にとっては、受け入れるのに時間がかかるのではないかと心配になったが、それはそれとしてすんなりと適応してしまうのだった。

 どうやら勉強だけではなく、環境に対する適応力もかなり高いらしい。

 クラウスの方は忙しい立場なので夜にしか帰ってこないが、それでも夕食は一緒に摂っていたし、その後もボードゲームなどをマティルダ達と行い、遊ぶことにも余念が無かった。

 ちなみにクラウスはボードゲームに精通していて、マティルダとトリスも惨敗していた。

 レヴィアースに至っては惨敗どころか、瞬殺だった。

 知性派ではないと自覚しているだけに、悔しいと思ったりはしなかったが、それでもクラウスのゲーム最強っぷりは少しだけ恐ろしかった。

「まあこの手のゲームは先読みが基本じゃからな。経営に置き換えて考えてみると、なかなか面白いのじゃよ」

 というのはクラウスの弁。

 なるほどと納得出来る台詞でもあった。

 クラウスからすれば、一人を相手にした状況と戦略の先読みなど、朝飯前ということなのだろう。

 彼は経営の場で大規模な状況判断と先読みが必要とされる戦場で戦い、勝ち抜いてきたのだから。

「ゲームに関しては息抜き代わりじゃな」

「………………」

「………………」

 そして息抜きと言われたマティルダ達は少しだけむくれた。

 相手にもならないのが悔しいらしい。

 気持ちは分かるが、一代でここまでの財を築き上げた大人物に対して、真っ向から張り合おうというのは無謀すぎる。

 経験が違うし、スキルも違いすぎる。

 それでもマティルダ達ならこれから身につけることが出来るだろう。

 これから二人が何になるのかは分からないけれど、望んだ道の先に幸せな未来が待っているといい。

 レヴィアースは心からそう願っていた。



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