俺は5人の勇者の産みの親!!
第46話 檻の中のカノン
◆◆◆◆◆◆
私はカノン。
オルガンの聖者、聖教会の天才、最高王の愛娘、それがカノン。
私はいつでも檻の中。
聖堂の中で神童と謳われながら、オルガンの前に座らされていた。
オルガンは私の指に触れた途端に音を奏でてくれて、その音色のおかげで最高の地位まで引き上げてくれた。
両親は私の才能を過剰評価すると、至るところに私を連れて行って自慢した。
オルガンの前に座るだけで笑顔になってくれる人は多くいたし、それが誇りでもあった。
だから、私はオルガンのことは嫌いじゃない。
しかし、好きにもなれなかった。
両親はすぐに結婚相手を私に差し出した。
15歳の時だ。
相手は成人男性で、名前はもう思い出せない。
その人は私の事を一目で気に入ったのか、すぐにラブレターをくれた。
香水を撒き散らされた美しい便箋の手紙。
その便箋の中の甘い字に誘われた私はすぐに彼の実家に遊びに行くことになった。
それからどうしただろうか?
私はその男の人と付き合うことになったのか、それとも優しくキスをされたのか。
裸にされた私は、すぐに部屋から飛び出して玄関の隅で震えてたっけ。
そしたら、その男の人はどうした?
……何もしなかったんだ。
それからどうしただろうか?
私は聖堂の前でオルガンを弾いても心が満たされることがなくなった。
彼が私の恥部に触れた瞬間の事を決して忘れない。
その切ない指が私の中に入ってきた時、初めて愛されることの恐怖を覚えた。
そう、私の名前はカノン。
檻の中に閉じこもった哀れな輪唱。
オルガンを見つめた時、いつも彼の指が中に入ってきて身震いをした。
それからどうしただろうか?
オルガンに触れても、もうあの時のような美しい音色を奏でることはできなくなった。
両親は私の体を持ち上げると、ゆっくりと椅子の上から降ろされた。
にっこりと笑うと、別の子を聖堂のオルガンに座らせたのだ。
私はカノン?
本当にあの時のカノンなの?
私を撫でたあの指が愛おしい。
この想いのせいで私という一つの人間が生き絶えたのだ。
私は一体誰?
檻の中で一人でつぶやく、裸にされた1匹の小鳥。
囁いても誰にも声は届かない。
それはオルガンの音色を奏でる事ができなくなったから?
他人のオルガンに声をかき消されるから?
両親が私に失望したから?
全部違う。
鳴かなくなったからだ、あの日から。
玄関の前に膝を抱えながら涙を流す日々。
それが今、誰にも言えない秘密の私。
私はカノン。
檻の中の小鳥、カノン。
◆◆◆◆◆◆
デジタル時計の時刻、18時25分。
私はリュートからもらったパンツを脱いで、冷たいシャワーを浴びた。
全身に付着した垢や汚れをきれいに流し終えると、タオルで水を綺麗に拭いた。
「リュート……今何してるかな……?」
私は全裸姿の女性を姿鏡で見る。
15歳のあの頃とは違い、胸も出て恥部を隠すモノも生えてきた。
私の姿は時を遡り18歳。
4年後の私の体とは違い、胸の形がしっかりしていて腰回りの肉も少ないように感じる。
「……太った方が、リュート的には好きなのかな……?」
ゆっくりと胸に手を当てる。
すでに硬くなった私は、出っ張りを摘みながらリュートを思い出す。
「はぁ……はぁ……」
ふと見えたのは、リュートが昨日脱いだままのパンツ。
私はそれを掴んで、全裸のままベッドへと向かう。
「リュート……リュート……」
私はパンツを鼻に押さえつけた。
少しだけツンとした匂いのするそれは、何故だか愛おしく思えた。
脱いでから1日経っていたからなのか、リュートの匂いはしない。
それは1匹のヒトの匂いだった。
「リュート……はぁ……」
寂しくなった右手を草むらの中に這わせると、ジュンとなる。
パンツを胸に持って行って、突起に擦り付ける。
「はぁ……あぁ!」
ブルブルと震えている姿が私の部屋の小さな鏡に映る。
こんな姿、絶対にリュートには見せられないな。
私の家の周りには何重も結界を張ってある。
万が一、魔王軍が攻めてきても良いようにカモフラージュをした上にさらに強力な結界を張っているのだ。
その結界は張ってから30年はもつ。
私は神童と言われたほどの魔法の使い手だ、細かい結界操作だってお手の物。
だからこそ、私は誰に対してでも結界を張る。
両親だって、リュートにだって。
だからこそ、私はいつも最後の最後まで人に演奏する姿を見てもらえないのだ。
右手がじゅぶじゅぶと厭らしい音を立てる。
この演奏は誰にも邪魔されるわけにはいかない。
私は茂みを掻き分けながら何度も何度も指の出し入れを繰り返す。
「はぁ……あっ、あぁ!!」
美しい音色に乗せて、さらに激しくなる。
ひとりの女性の音色は空間の中に響き渡らせながら美しい輪唱を奏でる。
歌うような私の喘ぎは外の世界に響かないように厳重な結界を張っている。
どれだけ大声で歌っても、誰にも私の声が届くことなんてない。
そう、私のカノン。
孤独に歌う、ただ一人の裸の女の子。
「ああっ! あぁ! はぁぁぁ!」
じゅぷじゅぷじゅぷじゅぷ!
カノンが部屋に響き渡ると、反射して私の存在を掻き立てる。
リュート……!
リュート!!
ねぇ、リュート!
本当に私はあなたのことが好き! 大好き!
じゅぷじゅぷじゅぷじゅぷ!
あぁ、この檻の中から誰か私を連れ出してくれないかな?
鍵をかけてるフリをしてるだけの、いつだって逃げ出せる醜い小鳥。
ただ待っている、一人の男の子を。
その王子様が私をこの狭い檻から無理矢理連れ出してくれるのを。
つづく。
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