異能学園のアークホルダー

奏せいや

平行世界・自己投影

 そう名乗った少年は視線を戻し田口に近づいていく。

「ちょっと、危ないよ!」

 姫宮は慌てて声を掛けるが信也は止まらない。

 今もなお電流はムチのようにうねりを見せて地面をたたき壊す過酷な道を、彼は迷うことなく歩いていく。

「ランクで人の優劣を決めるてめえらに見せてやる、『人間の可能性』を!」

 不安は見えない。心配もしていない。信じているのだ、自分なら出来ると。

「見せてみろよ!」

 信也の接近に田口が吠える。

 そして、信也は立ち止まる。

 落雷に似た衝撃が地面を穿ち、雷鳴が轟くそこは逆境。

 されど屈しない、諦めない。どんな不利な状況でも、神崎信也は諦めない。

 ――かつて夢みた、憧れを実現するために。

「俺はランクAアーク、『平行世界・自己投影パラレル・フュージョン発動!』」

「ランクAだと!?」

「ええええええええ!?」

 信也の異能アークが発動される。その名も『平行世界・自己投影パラレル・フュージョン』。

 ランクはA。

 彼以外の全員が驚愕した。むろん彼女も。ここにいる全員が驚きに口を開けている。

「パラレル・フュージョンの効果! 平行世界にいる別の自分をコピーする! 俺はパラレルワールドにパスゲートをセッティング! こい、エレメント・ロード!」

 信也の説明の後、彼の全身が光に包まれる。光のベールは一瞬で弾けて、そこにいたのは黒のコートを身にまとい、巨大な窯のフタを思わせる帽子を被った信也の姿だった。

「変身したぁあああああ!」

 姫宮大興奮!

「なんだ、それは」

 逆に田口は困惑していた。ランクA。学園に数人しかいないと言われるごく少数のトップランカー。

 それが目の前にいるということ。

 なにより、それは田口だけでなく、この学園すべての者が思うこと。

 ――ランクAの人間が、ランクを否定した。

 あり得ない。ここアークアカデミアはランクが絶対。まさに不文の戒律だ、しかもそれはランクが上の人間ほどそう思っている。しかし、彼は否定した。

「たしかに俺は凡人だ、人に自慢できるものなんて一つもない」

 周りの驚愕を置き去りに信也は静かな調子で話し出した。

「だけど、頑張っていれば、こうしてその道を究めた自分も平行世界のどこかにはいるんだ。どんな人間だって、諦めなければなんだってなれる可能性があるんだよ!」

「平行世界……!」

 信也の言葉に田口の表情が引き攣る。

 平行世界。自分たちがいる宇宙とは別の世界があるという考え方。そこには自分がいる世界からいない世界、さまざまな世界が無数に存在している。

 ならばあるだろう、魔法を極めたエレメント・ロードも。

 剣の達人となったソードマスターも。

 銃の名手となったガンスリンガーも。

 無限の自分。

 人間の可能性が。

「嘘だろ、次元の干渉、もしくは超越。本当にランクAかよッ」

 ランクAの定義は次元の干渉、もしくは超越。時間や空間、平行世界など。時間ならば時を止め、空間ならば転移する。

 そうした次元を操るアークがランクAの条件だ。

「ふざけんな! どうせハッタリだろうがッ。ランクAの奴がランクFを庇うはずがない!」

「試してみるか?」

「ぶっ潰してやる!」

 苛立ちを露わに田口が繰り出した攻撃は放電。田口の片腕が信也に向けられると同時に電竜の一体が疾走した。

 速い。それは光速、人の目では見えない。

 不可視の速度、絶対の破壊力。これを防げるものなどありはしない。

 ならば――

「逸らせばいいだけだ」

 信也は胸の前で片手を動かした。指の空いた黒のグローブを嵌めた手がくるりと回る。それは放電がされる前の動作。

 そして今、信也に食らいつかんと迫る電流は直前で二股に分かれ、信也を通り過ぎていった。

「電流を誘導した!?」

 一体のサンダーヘッドは不発。残りは一匹。田口の表情がさらに歪む。

「なら直接ぶち込んでやる!」

 電流渦巻く右腕を振り上げ田口は走り出した。その拳を打ち込まれれば誘導もなにもない、極電の奔流を受けることになる。

 だが、

「こい、ガンスリンガー!」

 信也の叫びに呼応して姿が変わる。

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