異能学園のアークホルダー

奏せいや

プロローグ 2

 それから錬司が新聞配達のバイトを始めたのはすぐだった。アークアカデミアの学費は高い。それを補うために中学二年生は行動を開始した。

 さらに、中期テストでは五教科すべてにおいて満点を叩き出した。それ以前は学年順位底辺だった男がだ。

 朝と夜には新聞を配り、残されたわずかな時間で勉強して、塾にも通わず、彼は周りの予想を裏切り学年トップとなった。

(すげえ! すげえ!)

 錬司の快進撃に信也は熱狂した。誰しもが言っていた。信也も思っていた。

 彼では無理だと。

 お金がない。

 成績がない。

 そうした理由で言うのだ、親が。教師が。世間のすべてが。

 だが。

 しかし。

 だとしても。

 獅子王錬司は諦めない。たとえ無理だと言われても、そこに壁があろうとも。

 突破する。己の可能性を疑うことなく、出来ると信じて突き進む。

 信也は憧れた。普通出来ない。そう、自分たちのような普通の人間では出来ないからだ。

 親から駄目だと言われたら。

 教師から駄目だと言われたら。

 現実が壁となって塞がったなら。

 それだけで諦めてしまう。多くの人は周りに流され夢は潰える。

 なのに錬司は成し遂げた。周りからどれだけ無理だと言われようとも自分だけは決して自分を見捨てない。

 その姿勢、絶対に諦めない強い意思。

 信也は聞いた。何故、そこまで出来るのか。

「俺はお前らとは違うんだよ。俺は特別なんだ」

「どうして?」

「どうして?」

 信也の質問に錬司が聞き返す。

「ハッハッハァッ、考えたこともねえなぁ」

 晴れた笑い声が響いた。

「でもな、思うんだよ。物ごころがついた時からそうだった。俺は特別なんだって。なのによ、なんだ俺の人生は。こんなんじゃおかしい、そんな違和感をずっと感じてた。今だって感じてる。俺の人生はもっとこう、ドラゴンや魔王と戦うやつじゃないとおかしいのさ。分かるか?」

「いや……」

「分かんねえか……」

 信也の答えに少しだけ寂しそうな表情を見せるが、錬司はすぐに切り替えた。

「いいさ、そんなことはどうでもいい。俺は特別オリジナルになる、それだけだ」

 彼はそう言う。真っ直ぐな瞳で。

 信也は思った。なれるだろう、彼ならば。自分が求める理想オリジナルに。

 どんな壁すら突破する彼ならば、なれないものなんてないに違いない。そう思う。

 だけれど、信也は違うとも言いたかった。

 特別になるんじゃない。異能アークなんてなくたって、獅子王錬司はすでに信也にとって特別だったから。

 自分もこんな風になりたい。どんな困難も諦めなければ道は開けるのだと。そう信じること。

『人間の可能性』

 なれるだろうか、自分でも。

 なれるだろうか、彼のように。

 自分を信じ、前に進める存在に。

 なれるならなってみたい。獅子王錬司のような特別に。

 そして、神崎信也の進路は決まった。

 異能研究学園、アークアカデミア。異能を獲得し、特別を目指す者たちが集う場所。

 そこに行ければ自分も彼のようになれるなら。

 誰だって、諦めなければ特別になれるのだと。

 彼のような特別に自分もなりたい。

 その想いは、獅子王錬司が転校してからもずっと続いていくのだった。

 そして、錬司が転校してから二年の月日が流れた。

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