異能学園のアークホルダー
プロローグ
諦めない。それは、誰にでも出来て全員は出来ない特別――
プロローグ
これはまだ、神崎信也が中学二年生のころだった。
日が落ち始めた空はオレンジ色に染まり一日の終わりをそっと教えてくれる。
今日と明日の境界線のようなその時間は、進路という問題を突きつけられた信也の心境に不思議と馴染んだ。
信也は公園のベンチに座り空を仰ぐ。移ろい変わる空模様に己の未来を馳せて、信也は一つため息を零した。
「どうした信也、浮かない面だな」
飄々とした声は同じベンチの隣からだった。
「そりゃそうだよ、進路希望先、これからどうしようかなって」
信也は隣に振り返る。そこにはクラスメイトである獅子王錬司がいた。
学生服をだらしなく着こなし、白い髪を肩まで伸ばした悪友はにやりとした表情で信也の顔を覗いている。
「なあ錬司、錬司はもう決まってるのか?」
そんな友人へ信也は聞いてみる。自分の未来。そこにはなにがあるだろう。なにが待っているのだろう。そして、自分はどんな自分になるのだろう。
進路。きっと誰もが戸惑いや不安を覚えるこの問題に、隣人はなんて答えるだろうか。
「ハッ、くだらねえ」
彼は笑った。信也の抱く不安など問題にもならないと一蹴した。
「俺はすでに決まってるぜ」
「え、なに?」
自信満々に答える錬司に信也は顔を近づけた。
そして、錬司は答えたのだ。
「俺はアークアカデミアに行く。そこで俺は特別になるのさ」
「アークアカデミア……」
答えに信也は唖然と同じ言葉を繰り返していた。
異能研究学園、アークアカデミア。生徒には全員異能が与えられ、異能持ちとなれる。
他人とは違う自分だけの異能は確固たるアイデンティティだ。
自分だけの、特別の力。
「でも、あそこに行くのってすごく大変なんだろ? 学費とか高いって聞くし、試験も大変だって」
「関係ねえ。俺は行く。そう決めた」
信也は心配するが錬司に不安はない。確固たる意思が声にはあった。
信也は知っている。全国から志願者が集まるアークアカデミアは全国屈指の学園だ。
学費は他の比ではなく、志望者の倍率など見ただけでため息が出る。加えて獅子王の家庭は裕福ではないし、おまけに彼の学業は赤点の嵐だ。
無理だ。信也は確信する。
だが、錬司は諦めていなかった。
「俺は、特別になるんだ」
(無理だって……)
信也は素直な思いを胸中で呟くが、しかし、ふと彼を見た時、その表情に引き込まれた。
(なんて、まっすぐな目なんだ……)
真っ直ぐな瞳で夕焼けの空を見上げるその横顔は輝いていた。目指すは高き山頂、険しい目標だ。
なのに彼は諦めるどころか不安もない。自分なら出来ると、そう信じていたのだ。
信也はこの時から、錬司に憧れていたのかもしれない。
プロローグ
これはまだ、神崎信也が中学二年生のころだった。
日が落ち始めた空はオレンジ色に染まり一日の終わりをそっと教えてくれる。
今日と明日の境界線のようなその時間は、進路という問題を突きつけられた信也の心境に不思議と馴染んだ。
信也は公園のベンチに座り空を仰ぐ。移ろい変わる空模様に己の未来を馳せて、信也は一つため息を零した。
「どうした信也、浮かない面だな」
飄々とした声は同じベンチの隣からだった。
「そりゃそうだよ、進路希望先、これからどうしようかなって」
信也は隣に振り返る。そこにはクラスメイトである獅子王錬司がいた。
学生服をだらしなく着こなし、白い髪を肩まで伸ばした悪友はにやりとした表情で信也の顔を覗いている。
「なあ錬司、錬司はもう決まってるのか?」
そんな友人へ信也は聞いてみる。自分の未来。そこにはなにがあるだろう。なにが待っているのだろう。そして、自分はどんな自分になるのだろう。
進路。きっと誰もが戸惑いや不安を覚えるこの問題に、隣人はなんて答えるだろうか。
「ハッ、くだらねえ」
彼は笑った。信也の抱く不安など問題にもならないと一蹴した。
「俺はすでに決まってるぜ」
「え、なに?」
自信満々に答える錬司に信也は顔を近づけた。
そして、錬司は答えたのだ。
「俺はアークアカデミアに行く。そこで俺は特別になるのさ」
「アークアカデミア……」
答えに信也は唖然と同じ言葉を繰り返していた。
異能研究学園、アークアカデミア。生徒には全員異能が与えられ、異能持ちとなれる。
他人とは違う自分だけの異能は確固たるアイデンティティだ。
自分だけの、特別の力。
「でも、あそこに行くのってすごく大変なんだろ? 学費とか高いって聞くし、試験も大変だって」
「関係ねえ。俺は行く。そう決めた」
信也は心配するが錬司に不安はない。確固たる意思が声にはあった。
信也は知っている。全国から志願者が集まるアークアカデミアは全国屈指の学園だ。
学費は他の比ではなく、志望者の倍率など見ただけでため息が出る。加えて獅子王の家庭は裕福ではないし、おまけに彼の学業は赤点の嵐だ。
無理だ。信也は確信する。
だが、錬司は諦めていなかった。
「俺は、特別になるんだ」
(無理だって……)
信也は素直な思いを胸中で呟くが、しかし、ふと彼を見た時、その表情に引き込まれた。
(なんて、まっすぐな目なんだ……)
真っ直ぐな瞳で夕焼けの空を見上げるその横顔は輝いていた。目指すは高き山頂、険しい目標だ。
なのに彼は諦めるどころか不安もない。自分なら出来ると、そう信じていたのだ。
信也はこの時から、錬司に憧れていたのかもしれない。
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