一台の車から

Restive Horse

20.日本初のスーパーカー  (トヨタ 2000GT)

暑さがゆらいだ秋空の中、僕は朝から2cvのシートをおろしていた。

やれていると言われた、運転席のハンモックシートを直すためだ。
僕はヘッドレストがついていないシートをおろすと、グレーのカバーを簡単に外した。
カバーの中にはスポンジも入っている。
カバーをはずすと、パイプのフレームに沢山の黒い輪ゴムがつけられていた。
パイプの反対側には糸がついていて、四方からゴムにテンションをかけることで、シートの形を保っているようだった。
僕は工場からもらった袋を見つつ、この黒い輪ゴムを変えることを理解した。

パイプについているゴムを触ると、指が黒くなった。
長い間交換されていなかったようだ。
僕は家から掃除用に買ったビニール手袋を持ってきた。
手袋をつけると、ゴムをパイプから外しだした。
ゴムが伸びているので、簡単に外れた。
それから糸からゴムを外して、工場からもらった新品のゴムと付け替える。
糸一周分すべて付け替えると、それをパイプにつけようとした。
それがとてもかたい。
ゴムが伸びていないから、力をいれて引っ張らないとゴムが引っ掛からない。

やっとの思いで、全てのゴムをパイプにつけた。
それからグレーのカバーをかける。
その状態で座ってみると、今までとの違いは、驚きとなって現れた。
例えるなら、今までのシートが出来損ないのバケットシートとするなら、ゴムを変えたシートは高級ソファーのように感じた。
2cvにシートを戻してもう一度座ると、今までとの目線の高さに驚いた。
頭と幌が以前よりも近くなっている。
シートを無事直せたことにホッとして時計を見たら針は11:00を指していた。

昼ご飯を食べた後、シートが直った2cvでドライブに出かけることにした。
幌を1/4開けて走ると、もうすぐ秋が本格的にくることを感じられる。




しばらく走っていると、白い綺麗なボディラインを持つ車が低い姿勢で横にとまった。
それは、トヨタ2000GTだった。
ドアには何か番号が書かれたステッカーが貼ってある。
何かのラリーに参加中だろうか。
その2000GTは数多くの人の目線を引きつけながら走り去っていった。




トヨタ2000GT。
1967年にトヨタ自動車が
「世界で戦える本格的なスポーツカーを」
と言って作ったスーパーカーだ。

この車のボディは完全にオリジナルデザイン。
低く、美しくといってできたデザインだ。
僕は日本車で最も美しい車だと思っている。
低くするために、普通の車はバッテリーがエンジンルームにあるが、ボンネットを低くするために前輪のフェンダーと室内の間のスペースに収めた。
ヘッドライトも日本車で始めてリトラクタブルヘッドライトを採用した。
生産時には、リトラクタブルヘッドライトの蓋を合わせるのは大変だったという。
テールランプはトヨタのバスの物を流用していたのは、有名な話だ。
バスは縦につけられていたものを2000GTは横に取り付けられている。

2000cc、直列六気筒DOHCエンジンはヤマハ発動機が制作した。
実はこのエンジン、もとは日産から依頼されて設計されたものだ。

当時日産は、高性能エンジンを必要としていて、ヤマハに依頼していたのだが、コストがかかりすぎるため、依頼を取りやめた。
その後、日産はプリンスと合併し、S20という超高性能エンジンを手に入れる。

日産が依頼を取りやめた後、今度はトヨタが高性能エンジンを依頼。
日産からの依頼のときに設計したものがそのままトヨタの手に渡った。

内装にもヤマハの手が入っている。
それは木のパネルだ。
ヤマハのピアノで身につけられた、木材の加工技術を使い、木材のパネルが使われている。

さらに、2000GTはスピード記録にも挑戦。
台風が直撃する中、平均速度200km/hで3日間走りつづけて、数多くの記録を打ち立てた。
しかも、驚くことに、スピード記録に挑戦した2000GTは、幻のプロトタイプなのだ。

プロトタイプはテスト走行中に炎上。
その後、倉庫にそのまま置かれていた。
その後、スピード記録に挑戦することが決定。
車を探しているときに倉庫で眠っているプロトタイプを見つけて、走れるように修復された。
リベットと鉄板で蓋をされているリトラクタブルヘッドライトと市販車とは形が違うテールランプが元はプロトタイプであったことをものがったている。
本物のスピード記録車は最古の2000GTと言えるだろう。

そんな2000GTは数多くの作品で登場している。
「サーキットの狼」では、ゼロヨンタイムが欧米のスーパーカーに届かない2000GTを、極悪ブロックをするピーターソンがドライブしていた。

映画「007」ではトヨタに2000GTをオープンカーにすることを依頼し、ボンドカーとして登場している。

見た目などで、日本の車を世界に轟かせた2000GT。
その生産台数は僅か335台しかない。




僕は2cvを家のガレージにいれて、

「2000GTは美しいな。」

とだけ言って鍵をしめた。

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