一台の車から

Restive Horse

15.羊の皮を被った狼 (日産 スカイライン2000GT-R KPGC10)

 「懐かしいな。」

いきなり声がした。
仕事が終わり、帰ろうと2cvの前に立ったときだ。
振り向くと課長がいた。
 
「前に乗ってたんだよな、2cv。
2cv4にあたるやつだけど。
子供が産まれるから手放しちゃったんだよな。
この前自動車通勤の申請で車種を見て、すぐ通しちゃったよ。」

なるほど。
自動車通勤の申請がすぐに通ったのはそのためか。(2話参照)
2cv4だから、たしか475ccのエンジンだったかな。

「やっぱ2cvはいいな。
子供も就職したし、取り戻そうかな。」
「いいんじゃないんですか。
2cv6は元気があってよく走りますよ。」

なんて話をして、「じゃあな。」といって課長は自分の車へと歩いていった。
しばらくすると、3台目プリウスが通っていった。




僕は2cvのエンジンをかけ暖気をすませて帰路についた。
いつもどおりの帰り道。
大きな交差点で、前の車が通った後に信号が変わったので一番前で停車した。

右から二回ほど空ぶかしをして一台のセダンが現れた。
フロントにはスポイラー。
前後にセミオーバーフェンダーを付け、ホイールはワタナベを装着する。
リアにはスポイラーがつく。
ハコスカだ。
しかし、音がL型ではない。
僕はS20エンジンだと直感した。

その車は右折すると僕にデュアルマフラーを見せ月明かりの下レーシングサウンドを響かせて消えてった。




日産、スカイライン2000GT-R KPGC10。
通称ハコスカGT-R、スカG、羊の川を被った狼。

日産自動車、いや、プリンス自動車が作り出したジャパニーズレーシングカーだ。

ボディは先代のスカイライン2000GT-Bを継ぐデザインだ。
4ドアには特徴的であるサーフィンラインというフェンダーがあるが、ショートホイールベースとするため2ドアにしたときサーフィンラインの上からオーバーフェンダーをつけた。

Rのエンブレムが付かないスカイラインはエンジンにL型が搭載されているが、RのエンブレムがつくGT-Rはプリンス自動車が開発したS20というレーシングエンジンが搭載される。

S20エンジンはプリンス自動車の意地であるレーシングカー、R380に搭載されているエンジンを市販車用に一部改良したエンジンだ。プリンス自動車は日本グランプリでの優勝を目指しスカイライン2000GT-Bを送り込むがポ ルシェに敗北。
日本車ではトップの二位で終わる。その後、一年後ひ日産自動車との合併が決まり、プリンス自動車が日本グランプリに参戦できるのは来年が最後になる事が決まり、優勝をするため総力を結集して作り上げたのがR380だ。

R380のボディはFRP製でガソリンタンクもゴム製と軽く作られた。
エンジンはゼロ戦のエンジンである「栄」を設計した人が担当した。
そしてプリンス自動車最後の年、見事ポルシェを抜き去り、優勝する。

そんな強力なエンジンを搭載するGT-Rは日本グランプリで50勝する。
そのうち49戦は連勝という金字塔を打ち立てた。

しかし、現在のようなインジェクションではなくキャブレター全盛期のレーシングエンジンは完調にするのが難しく、完全な状態で走らせることができたのは追浜ワークス、現在のニスモといったごく一部でしかできなかった。羊の皮を被った狼の本当の姿を見れたのは限られた人しかいいないことだろう。




僕は2cvを自宅のガレージにいれて、

「S20は音が違うね。
やっぱいい音だ。」

なんて言いながら鍵をしめた。

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