SCP版 エンジェル・オーバードーズ

奏せいや

予感

「それほどの相手か」

 獅子王の心配に守人が尋ねる。普段から守人の身を案じてくれる獅子王だが今回は特に心配している。

「どんなやつなんだ」

 次の対戦相手。モースルで待ち受けるというSCPは、明らかに他とは対応が違う。みなが警戒している。これまでのSCPにしても楽な相手は一体もいなかったというのにこれほどの反応を示すとは。

 いったい、どれだけ危険なSCPなのか。

 獅子王は一旦息を吐き気持ちを整えると、ゆっくりとしゃべり出した。

「アベル。文句なしのクラスケテルの化け物だ。SCPを代表する殺人鬼で前にも説明したが好戦的で人殺しを楽しむ。腕力、脚力は強靱で戦闘のエキスパート。弾丸を見てからかわし人間を両手で引き裂く。やつの暴走に対処するためにどれだけの職員が犠牲になったか」

 語気の低さは憔悴しているようにも見える。それほどの相手なのだと守人にも伝わってきた。獅子王がさらりと口にした内容は誇張でもなんでもない、事実だからだ。

 弾速を越える速度、人体すら引き裂く腕力。それだけで超人的だが、最悪なのが人殺しが趣味ということだ。

 まさに鬼。殺人鬼だ。人類では手に負えない怪物。

 そんなものが次の相手だ。いかにG4といえど勝てる見込みはない。

「守人君。やつは危険すぎる。オールド・マンが霞むほどの怪物だぞ」

 獅子王の表情には覇気がない。アベルという存在に今から恐怖している。

 それほど巨大なものなのだ。人の持つ恐怖に訴えかけてくる、現実に潜む死の化身。死神と対峙するかのような心地に獅子王はいる。

 そんな彼に、守人は言った。

「そんなに危険なやつなら」

 アベルがどれだけ危険で強力な敵なのか、それは十分に伝わった。

 守人は立ち上がった。獅子王は彼を見上げ、守人は不敵に笑ってみせた。

「放置はできない。そうだろう?」

「まったく」

 獅子王は顔を横に振った。まったく、この男は。こうも危険に前向きだとさきほどの約束も怪しくなってくる。

 獅子王は別の心配をするが、しかしその姿勢に勇気づけられたのも事実だった。弱気な獅子王の心が徐々に前へと傾いていく。

 やるしかない。どのみち戦うしかないのだが、覚悟が決まったというのか、消極的な心は引っ込みこの戦いへと挑む気へとなっていた。

 獅子王は守人を見上げ、同じく不敵な笑みで返した。

「やるか」

「ああ」

 守人は部屋から出て行った。次の作戦までまだ時間はある。その間に準備を整え、万全の状態でいかねばならない。

 アベル。間違いなくこれまでの敵の中で最強の存在。その敵に勝つためにも。

 守人の表情から笑みはすでに消えていた。前を見据える目は引き締まり、次の戦いへと向いていた。

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